第4話 一瞬
「…ここが、近衛騎士団の、鍛錬場」
城の敷地内にあるそれは…まるで、というかそのまんま巨大な闘技場であった。
広い鍛錬場ではまばらに近衛騎士と思われる人間がそれぞれ鍛錬に励んでいた。
…その鍛錬を見ただけでわかる、その剣の切れ、王国騎士団とは格が違う。
ギリギリ「獅子隊」の連中が食らいつける、そんな感じだ。
「…第一王女殿下だ。第一王妃様が亡くなられてから見てなったが」
「あの方は哀れだ、なんでも、王妃様が亡くなられる直前に『産んでしまってごめんなさい』と言われたとか」
「…なんと…しかし、それでも折れぬ心、感服に値するな」
「しかし、才能というのは残酷だ、いくら王女殿下が努力しようと…」
…口の方は存外、軽いみたいだがね。
さて、さっさと鍛錬を始めてしまおう。
…そういえば、訓練用の剣を持ってくるを忘れたな。
うーん、じゃあ、これを使うか。
「神血イコル、剣よ」
そう唱えると、俺の手に青き剣の柄が掌に収まる。
「…む、王女殿下、いつの間に剣を?」
「しかも、なんだ?あの青く輝く剣は」
剣を上段に構え、精神を落ち着かせる。
…。
そして。
「…シッ」
振り下ろす、身体強化を使わない全力で。
「!?なんだ、あの、鋭い一太刀は…」
「まるで、達人のような…見間違いか?」
「あのひと振り、前に王国騎士団の…」
次は…魔力を循環させ、身体強化を全開で、振るう。
そして、振り下ろす!
「たあっ!」
―ビュオッ
剣圧で、鍛錬場に一陣の風が吹く。
「…い、いまのは?」
「…もう、なのがなんだか」
「…今の一振り、まるで団長の…」
「あの方は…ホントに第一王女殿下か??」
残念ながら…違うな。ここにいるのは…第一王女殿下の、リリーの願いを成就させる者だ。
その後は無心でひたすら素振りを続ける。
周りの鍛錬していた近衛騎士は全員手を止めこちらを黙ってじっと見ている。
見たければ見るがいい、これが今の「俺」だ。
「…貴様ら、何をしている!」
と、沈黙の中、男の声が走る。
俺は素振りをやめる。
俺を見ていた近衛騎士たちの集団が左右に分かれる。その真ん中を歩いてくるのは…青年。
銀髪に碧眼のリリーによく似た青年。
…リリーの兄、第二王子ハインツ・フィーメル殿下だ。
「…王子殿下」
「…は!無能過ぎて自分が王族であることすら忘れたか?」
「…お兄様」
第二王子ハインツ・フィーメル殿下、リリーを馬鹿にしていた中のひとりだ。
「俺は、貴様のような無能が兄弟というだけで虫唾が走るな!」
「…」
「ふん!何も言い返せないか!情けないな」
なるほど、こんな態度だったのか。この王子殿下。
…じゃあやることは一つだな。
「お兄様」
「なんだ?無能が」
「…私と模擬戦しませんか?」
「…なんだと?」
第二王子は少し困惑しているようだ。
「実は、魔力を扱うコツがつかめてきたような気がするのです」
「!?お前がか?…なるほど面白い」
第二王子、ハインツは腰から剣を抜く、明らかに質の高い剣だ。王族が帯刀しているものだから当たり前ともいえるが。
「お前が無能なままだったら、そのまま切り殺してやる!」
「で、殿下!」
「これは王族の問題だ!近衛騎士の出る幕ではない、下がれ!」
近衛騎士に一喝し下がらせる…ハインツには王者としての風格があるな。
「リリー、貴様から吹っ掛けたのだ、勿論、剣はあるな」
「…ええ、あります」
神血イコル製の剣がね。
「そこのお前、審判をやれ!」
ハインツは近衛騎士の一人を呼び止め、審判をさせる。
俺とハインツが対面となる、その間に近衛騎士の審判がいる。
「両殿下、御準備は?」
「問題ない」
「はい」
「では、始め!」
俺とハインツの模擬戦が始まった。
「てりゃっあ!!」
ハインツが踏み込み切りつけてくる。
…切り殺すとか言っていた割に、そんな気など全くないという斬撃だ。
―ガキンッ
それを青い剣で受け止める。
「!?…ほう」
俺が受け止めたのを見たハインツの目は驚愕の色を浮かべる。
鍔迫り合いを演じた俺たちは両者、一度距離を取る。
「…どうやら先ほどの話、嘘ではないようだな!」
「…お兄様」
「なんだ?」
「行きます」
「…なっ!?」
もう…さっきのでハインツの実力は…読みきった。
ハインツはそれこそ近衛騎士の隊長格の実力はあるだろう。
…だが、それでは今の「俺」には…届かない。
身体強化を全開に、高速でハインツに飛び込む。
ハインツは慌てて己の剣で迎撃しようとする。
…握りが甘いし…遅いな。
ハインツの剣を青い剣でからめとるように弾き飛ばす。
そしてそのまま、ハインツの喉元に剣を突き付ける。
「終わりです…お兄様」
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