第5話 古い慣習
「終わりです…お兄様」
「…なぜ」
「…?」
なんだ?
「…なぜ、母上が生きているうちに、これが…できなかった、リリー」
!?
「…お、お兄様、それは」
「いや、これは貴様のせいではないな…忘れてくれ」
「は、はぁ」
「それより…すまなかった!」
ハインツが言う。
「…」
「…今まで無駄な努力とあざ笑っていたが、無駄ではなかったのだな…」
「…」
「…だから」
「それは誰に対する謝罪ですか?」
俺は食い気味にハインツに問う。
「…む?それはもちろん貴様だが?リリー」
そうか、リリーに対する謝罪か。
「今の私はその謝罪を受け取ります、しかし」
「…なんだ?どういう」
「昔の私が謝罪を受け取るかどうかは…知りません」
「…」
青い剣をおろす。
「…では、お兄様、私はこれで」
そのまま踵を返して近衛騎士団の鍛錬場を後にする。
部屋に戻った俺はそのままベッドに突っ伏す。
そうだ…もうリリーはいない。彼女が兄弟からの謝罪を受け取ることはもう…できない。
そう考えると、途端に虚しくなってくるのはなぜだろうか?
…。
そのままベッドに突っ伏していると。
―トントン
ノックの音が聞こえた。
「リリー、俺だ」
ハインツか…。
「…どうぞ」
俺は入室の許可を出す。
すると、入ってきたハインツが
「…はしたないぞ」
注意してくるが無視する。
「…」
ハインツは突っ伏す俺と並びベッドに腰掛ける。
「…貴様のさっきの言葉…意味を考えていた」
「…そうですか」
「これは予想だが…お前はあの時…何かが決定的に変わってしまったのだな…それこそ魂レベルで」
…なかなか鋭いじゃないか、王子殿下。
「…だったら、なんですか」
「もう、過去のお前に謝罪することはできない…なら俺は今のお前を全力でサポートする!」
「…はい?」
なんか…話がおかしな方向に?
「というわけで、早速、父上にリリーが覚醒したとの報告を、行くぞ!」
抵抗する暇もなく俺はハインツに抱え上げられ。
「お、お兄様!?」
「では、行くぞ!」
そのままハインツは王座を目指して爆走するのであった。
―ダンッ!
マジで王座の間に突撃しやがった、この王子殿下!
「父上!」
「…ハインツ、だから王座の間に入るときは…まて、なぜリリーを抱えている!?」
「…あの、お兄様、おろして」
「父上、とうとうリリーが覚醒しましたぞ!」
「…何じゃと」
国王陛下が怪訝な表情を浮かべている。
というか、陛下に直で会ってしまったよ…元の俺だったらありえないな…。
「そうです、模擬戦で俺を打ち負かしました!」
ハインツはなぜか自分が負けたことを堂々と言う。
「…なるほど、ならば」
「陛下!そのようなことはあり得ませぬ!」
突如、口をはさむ男が一人。
その男は…俺でも知っている。近衛騎士団副団長グレゴール・バッハ。
王の護衛として王座の間に控えていた人物。
…実を言うとあまり評判は良くない人物だ。現に陛下の言葉を遮るとかいうとんでもない無礼を冒しているしな。
「残念ながら、第一王女殿下は才能など欠片もなきお方、きっと第二王子殿下は哀れに思い嘘をおっしゃっておるのでしょう」
…なんだ、こいつ、いきなり出しゃばってきて?
「…グレゴール、言葉が過ぎるぞ」
「しかし、陛下!第一王女殿下は慈悲深かった王妃様にまで見捨てられたのです!今更覚醒など…ふざけたことを」
…ほう?
そういえばあのノートに書いてあったな、リリーに嫌がらせをしていた連中の中心にはこの副団長の影があったとか。
リリーが突然能力を覚醒させたとならば…こいつの立場が危うくなる可能性があるから…こんなに焦っていると。
…だがな、グレゴール。
お前は何の権利で持ってリリーを侮辱している?
「お兄様下ろしてください」
「あ、ああ…」
ハインツに下ろしてもらい。
「第二王子殿下が嘘をついてないとならばきっと、なにか…グアッ!」
「「!?」」
突如、グレゴールが膝をつく、その足には….
「青い…ナイフだと?」
青いナイフ、そう俺のギフト「神血イコル」の能力で作ったナイフ。
つまり、俺が、今、瞬時にナイフを生成してグレゴールに投擲した。
陛下とハインツには見えていなかったようだ。
…まあ、陰で目を光らせている近衛騎士たちはどうか知らないけどね。
「あら、近衛騎士団副団長の肩書の割に鈍い方ですね」
「…」
「リリー…?」
「お、王女殿下?」
この国の貴族・王族にはある慣習がある。
上位者が下位者相手にナイフを投げつけ、宣言するのが条件。
「どうやら、副団長殿は私の能力を信じられない様子ですね?なら…あなたの身でもって証明して差し上げましょう…」
そう
「決闘を申し込みます」
「「「!?」」」
決闘だ。
危険すぎてほとんど消えかけていた慣習だ。
それを…使う。
俺も一応元騎士だ、騎士である自負はある。
ゆえに…護衛対象である王族にあろうことか嫌がらせをし、侮辱する。
そんな近衛騎士は…この世に存在を許してはならないものだ。
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