第3話 初めての魔法 

しばらく、立ち尽くしていた俺。


彼女の、リリーのことで感情が高ぶっているのか…体が熱い。


そう体が熱い…ん?


なぜか、体の中でなにかが対流しているかのようだ。


これは…まさか!?


俺は体の中のその流れに意識を向け、その流れを制御しようとする。


…数分後、熱さはなくさり、何かが静かに流れている感覚だけが残る。


これは…恐らく…魔力!


俺の直観がそう判断する。


試しに、その流れ、推定魔力を手に集め。


「…ライト」


初期魔法「ライト」、明かりをともす魔法を唱える。


すると。




―ポッ




掌の上に、光の玉が現れる。


ああ、これは、これは…。


「魔法…だ」


俺は…そして、リリーの体は、初めて、魔法を使うことに、成功したのだ。


魔法を発動できたということは…。


俺は全身に魔力を巡らせる。


魔力に縁がなかった俺でもわかる。膨大な魔力量だ。


全身に魔力をいきわたらせた後。


俺は空に蹴りを放つ。




―シュ




蹴りは、反射神経に優れる俺でもそこそこ早く見える速度。


「身体強化…で、できた」


できた、できてしまった。


なら最後は…アレを試そう。


そう、彼女に、リリーに与えられたギフト呪い


「…神血イコルよ」


そう唱えてみると。




―ボコッ




空に青色をした球が出現する、その表面は流動的でまるで…液体。


何故かはわからないが、なんとなく使い方がわかる。


「剣よ」


青色の球は、その言葉とともに変形し、片刃の剣の形となった。


俺はその柄と思われる部分を掴む。


その青色の剣?はそこそこの重さがあり、握り心地も最上だ。


剣を上段に構える。そして、目の前の椅子に向かって振り下ろす。




―スパンッ




存外、かるい音とともに椅子は両断された。


…なぜかは分からない、でも…。


どうやら俺ならこの体を使いこなせるようだ。


これなら…リリーの願いを、具体的な内容は分からないが、成就させることが出来そうだ。


















しばらく、俺は余韻に浸っていた。


すると、突如、部屋の扉が開く。


「リリー様?」


扉を開いたのは、使用人と思われるメイド服を着た女性。


「…リリー様!その椅子は!?」


「…あ」


不味い、勢いで両断してしまった。


「えっと、俺は」


「…お、俺?」


さらに不味い、いまの俺は「リリー」なのだ。。


「あ、いや、私、その…突然、椅子が、ですね」


「…と、突然椅子が真っ二つに?」


困惑する女性、そりゃそうだ。


「…え、ええ、そうだ、いえ、そうです!」


「は、はぁ」


と、取り敢えず勢いで押し切るしかない!


「…あの!私!き、着替えますので!」


「へ?…では、お手伝いを」


「いえ!ひ、一人でできますので!」


「…ま、まああの服なら一人で着られますしね…で、では後で壊れた椅子は回収しますので」


「はい!さようなら!」


「…」


使用人の女性は物凄く怪訝そうな顔を浮かべたまま、部屋から去っていく。


ふ、ふう、何とか乗り切れた…のか?


…まあ、いい取り敢えず着替えよう。


部屋にあった大きなクローゼットを開く、そこには数多の寝間着やドレス、そして。


「…あった、これだ」


所謂、王族服と呼ばれるもの。


魔法学院の制服のようなそれは、赤い色をした、シャツにブレザーにスカート。


王族服、その存在は一般市民ですら知る有名な物。


そしてこの服は動きやすさを重視されたものとなっている。


王族の女性は普段着としてドレスではなくこれを着る、突然の襲撃などに素早く対応できるように。


着替えはすぐに終わった。。


いいな、この服、とても動きやすく、快適だ。


さて、リリーは心が砕け散る前までは努力していた。


努力、それは、何とか魔力を制御するために瞑想と。


近衛騎士団の鍛錬場で剣を振るうこと。


それが、彼女の日々のルーティーンだった。


ということで、早速、鍛錬場に行こう。俺は今、剣が振りたくてたまらない。


















「…迷ったな」


鍛錬場に向かおうと勢いで部屋を飛び出してきたが、そもそも、その近衛騎士の鍛錬場がどこにあるのか、わからない。


当たり前だ、元落ちこぼれの王国騎士が知るわけがない。


…近衛騎士団、王直属のその騎士団は王国騎士団とは指揮系統も、格も違う、本物のエリートたちが集う。


そんな近衛騎士団の鍛錬場に行くのは少し億劫だが、まあ、現状、場所すらわからないんだが。


「…やー」


「!?」


と、唐突に声を掛けられる。


慌てて振り向くと、そこには、三角帽子を被った妙齢の女性がいた。


「第一王女殿下じゃん」


…何者だ?城の中にいて、仮にも第一王女にこんな馴れ馴れしく。


ん?でもなんか…どこかで見たような…。


「近衛騎士団の鍛錬場を探しているのでしょー?あっちだよー」


「あ、どうも…て、え?」


なぜか鍛錬場の場所を教えてくれた。


「じゃ、じゃあねー」


そのまま背を向け去っていく謎の女性。


なんで、俺が近衛騎士団の鍛錬場の場所を探していたことを知っていたのか…。


…わからないが…まあ、後で調べればいいか、今は鍛錬場に向かうことを優先しよう。


























「…期待しているよー、レント君、あの哀れな王女様を救ってくれることをねー」

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