3 朝一で愛を囁く

 昨日は結局、雪のことをわからせることができず終わってしまった。


 わからせるってこと自体はなんとなく思いついたことだけど、もう頭にこびりついて離れようとしない。   


 どれだけ時間が経っても、絶対にわからせてやる。


 そんな意気込みの俺は、早朝に目覚まし時計の音と共に起きた。


 早起きしたのは、雪の寝起きに電話をかけて朝一で愛を囁いてわからせるためだ。


 今まで寝起きで電話したことないからなんか緊張する。

 

 もし寝起きが悪かったらどうしよう……。


 まぁ、逆の立場だったら愛を囁かれて脳に電流が走るだろうからそんなことないか。


 よし。やるか。


 おそらくまだ寝ている時間なので、電話に出るのは少し遅くなると思っていたがすぐ電話に出てきた。


『な……に……』


 完全に寝ぼけてる声。


 雪の意識はまだ半分夢の中にいるはず。


 ここで愛を囁けば夢にまで俺が出てきて一発でわからせれるってわけよ。


「雪。愛してる」


『…………』


 一定のリズムで呼吸してる音は聞こえてくるけど、それらしい反応が返ってこない。


 空耳かなにかだと思われてるのかな?


 一応もう一回言ってみるか。


「雪。愛してる」


『うるさい』


「あっ、ごめん」


 流石に朝一で愛を囁くなんて迷惑だったか。

 

 嫌われて別れることになるのは絶対に嫌だし、さっさと電話を切って今日大学で会ったら謝ろう。


『な……んで同じこと2回も言ったの』


 問い詰めてくるなんて思ってなかった。


 これは相当やらかしちゃったかもしれない。


「そ、空耳だと思われて聞こえてないんじゃないかと思ったから2回言いました」


『敬語やめて。キモい』


「ごめん。寝起きに電話かけて非常識なことしてごめん」


『それ被害妄想だと思うんだけど』


「え」


『まぁ、たしかに寝てるところ電話で起こしてよくわからないことを言うのは非常識だろうけど、私は嫌じゃなかったよ』

   

 それってつまりもっと愛を囁いてほしいってこと?


 いつもツンツンしてるからこうやって受け入れられるようなこと言われると、調子が狂う。


「雪って根っからのイケメンな性格なんだね」


『そんなことないよ』


「あーあ。俺も朝一で雪に愛を囁いてもらいたいなぁ〜」


『始まった始まった。絶対しないからね』


「またまたそんなこと言って、電話越しじゃわからないけど顔真っ赤にしてるんでしょ?」


『……切っていい?』


「まじごめん」 


『ふふっ。私がそんな冷酷な女のわけないでしょ。冗談に決まってるじゃん』

 

 もう今の雪に何を言っても普段通り捌かれそう。


 寝ぼけてる時がチャンスだったけど、流石に喋りすぎちゃったか。


 朝一で愛を囁くのは雪が寝ぼけてるから、俺が思ってたような反応は帰ってこなかった。


 最初怒られたりもしたけど、いつも隠してる本心を雪の口から聞けたから大満足。


 多分、雪は何を言ったのか覚えてないだろうな。


「家から出るまで電話繋いでていい?」


『いいよ』


 これからも毎日朝一で愛を囁こうかな。

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