2 腕を組む
俺は女性を口説くのが下手だという新事実がわかってちょっとショックだったけど、わからせるのはこれからが本番。
ファミレスでお昼ごはんを食べ終え、俺たちはそのまま街をぶらぶらしている。
特にやることがなくて行く宛もなく散歩してるけど、雪は嫌そうな顔をしてない。
隣で、さっき通りの店で買ったミックスジュースをチュウチュウ吸いながら歩いている。
さて、どうしようか?
今日が平日だけあってあまり人がいないが、いるにはいる。
わからせたいけど、あまり目立ったことはできない。
雪がいつものイケメンがやるようなことをする前に、普通のカップルがやるようなことを俺からリードしてやってみたい。
でも普通のカップルがするようなことって何だったっけ?
「もぉ〜そんなこと言わないでよダーリン♡」
「あははっ。愛してる君にはついつい意地悪しちゃうんだよハニー♡」
俺が悩んでいたところ、後ろから普通のカップル? のようにイチャイチャしてるカップルが追い越していった。
あれだ。あんなポワポワした空気を作るのは無理だけど、強制的に体と体の距離が近づく腕組みをしたい。
思い出せば雪からリードされて手を繋いだことはあるけど、腕を組んだことは一度もない気がする。
「ねぇ雪」
「……今気持ち悪い人たちのこと見て気分悪いんだけどなに」
「俺たちもさっきの人達みたいに腕組みしてみない?」
「えぇ」
なんか本気で嫌そうな反応なんだけど。
「俺と腕組みするの嫌なの?」
「別に。そんなこと一言も言ってないんだけど」
「あっそっか。ならやろうよ」
「えぇ~。なんでそんなことしたいって急に言ってくるの。普段の雅也だったらそんなこと……あ、もしかしてさっき言ってたわからせるやつの続き?」
「察しのいいことで」
「はぁ……」
雪は呆れたようなため息をついてきた。
この感じ、わからせるのを中々諦めない俺のことを面倒くさそうにしてるだけ。
こりゃちょっとおしたらいけるな。
「ねぇ雪。いいでしょ? 俺たちって腕を組んだことないじゃん。ここは一つの経験としてやろうよ」
「うーん」
「お願い」
「……やだ」
それは想像してなかった。
「なんでやだの?」
「ここは外で、周りに人がいるでしょ」
「はいはい」
「だからさっきのカップルみたいなことするのやだ。知り合いに見られたときのことを考えると……」
「知り合いに俺たちカップルが仲良いところを見られるの嫌なの?」
「だからそんな嫌なんてこと一言も言ってないじゃん。……なんかさっきから雅也かわいそうだし、今日は腕組みじゃなくて手でも繋いでいげよっかな」
「えっまじ?」
だめだだめだ。
思わず反射的に反応しちゃったけど、これ雪に会話の主導権握られちゃうじゃん。
「私が誠也に一回でも嘘ついたことある? ないよね」
「あ」
拒否する理由がなく、俺の右手は温もりに包まれた。
わからせるはずだったけど会話だけじゃなく、全ての主導権を握られちゃったわ。
イケメンはこうやって相手のことをリードするのか。
「今日はこれで満足してね」
「仕方ないな……」
一瞬にして俺がわからされてしまった。
ぐぐぐ。本当は俺がする側だったはずなのに。
わからされてくやしいけどまぁ、雪が楽しそうだしいっか。
その後俺たちは他愛のない雑談をしながら行く宛のない散歩を楽しみ、明日の大学に備え、家に帰った。
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