ツンツンでイケメンな彼女をわからせる100の方法

でずな

1 口説く

 俺には自慢の彼女がいる。


 名前は七雲なぐもせつ。同じ大学に通う先輩で、そのイケメンな顔は誰もが目を奪われるほど美しい。


 顔だけがイケメンなのではない。

 その性格さえもイケメンで、誰にも優しく、対等に接することから知ってる人たちの中で聖人と呼ばれている。


 そんな雪と付き合っている俺は、彼氏に全く見合っていない陰キャ。 


 付き合い始めて2ヶ月くらい経つけど、未だになんで俺の告白を受け入れてくれたのか理解できてない。 

 

「なに」


 周りが賑わっているファミレスだが、俺たちのテーブルは少しピリついた空気を漂わせていた。


「い、いやぁ〜。なんでもないよ」


「あっそっ」


「あはは……」


 そっけない返事をされて、つい苦笑いしちゃった。


 付き合い始めてからというもの、いつもリードされてばかりでそれ以外のときの雪はツンツンしている。

 

 可愛げがなくて、女性らしさがない。

 もしなんで付き合ってるのかと聞かれたら、「ただ好きだから」と答える。

 かと言って、好きだからなんでもいいわけではない。


 流石の陰キャでこれまでの人生流れるように生きてきた俺も、これだけイケメンな彼女と付き合っていたら『わからせたらどうなるんだろう?』という、疑問が頭に浮かんてくる。


「ねぇ雅也まさや。何食べるの?」


「あっ、えっと……。雪と同じにしようかな」


「ふーん。じゃあパスタにしよっと」

 

 でもわからせるって言っても、どうすればいいんだろう?

 

 女性経験が雪以外にない俺にとってそれは難題すぎる。


 口説くのが一番手っ取り早いだろうけど、そんなこと人生で一度もしたことないんだよね……。

 

「やっぱりなんか今日の雅也おかしい。隠し事してるんじゃないよね」


 雪が俺のことを問い詰めるように前屈みになって聞いてきた。 

 眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌になってる。


 そんな俺って考えてること顔に出るのかな?


 隠し続けてたら日に日に不機嫌になりそうだし、今のうちに全部言うか。


「実は俺、雪のことわからせたいんだよ」


「……は?」


「雪ってイケメンでいつも俺のことリードするじゃん? だからわからせて女性の部分を見たいなぁ〜なんて」


「そっ」


 雪は興味なさげに窓の外へ目を向けた。


 思ってた通りのツンツンな返答。

 でも、返答の裏でニヤニヤしてる雪がいるのを俺は知ってる。


 よし。いっちょ口説いてみよう。


「雪って本当に綺麗だ」


「なにいきなり」


「事実を言ったまでだよ。数年前の俺に彼女がこんな綺麗な人になるって言っても、絶対信じない」  


「へぇ良かったじゃん」

  

「うん。それもこれも告白をオッケーしてくれたおかげだよ。ありがとう」


「あのさ。雅也は私のことなんだと思ってるの?」


 温かった空気が突然の張り詰めた冷たい空気になった。

 

 あれれ?

 

 口説いていたはずなのにおかしいな。


「イケメンな彼女だなぁ〜って」


「ふーん。……雅也って女性を口説くの絶望的に下手だよ」


「えっ!? 嘘」


「本当に下手。口説かれてたのが私だったからいいけど、他の人だったら頬にビンタでもしてる頃合いだし。痛い目を見たくないなら、絶対に他の人を口説いたりしないで」


「わかった。不快な思いさせてごめんね」


「そういうところだよ」


「えぇ……」


 わからせるはずだったけど、全然ダメだった。

 でもまぁ、冷たい空気がいつのまにか温かい空気に戻ってるからいっか。


 今後は俺が得意なところで勝負しないとな。


「いただきます」


「いただきます」


 俺は次はどうわからせようかと考えながら、少し味付けが濃いパスタを食べ始めた。

 


 

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る