第42話 母親達の想い
枝里子の衣装合わせは愉しかった。両家の母親もご近所さんでずっと付き合ってきているので気の置けない枝里子をずっと可愛がってくれた近所の家が正式に家族となるのだ。和気あいあいと衣装を着ては騒いでいた。「枝里ちゃん、ごめんね。保ったら今日来ないなんて」保の母真知子が謝る「大丈夫です。当日まで絶対教えてあげないから、気にしないでお義母さん」「あら、職場の人に邪魔になるって言われたって聞いたわよ」と枝里子の母「そうなんだって、居ても居なくてもかわらない。退屈よって聞いたらしいの。でもさ、新郎として気にならないのって聞いたのよ。そうしたら、当日の楽しみが増えたから今回は母達に譲るってさ。生意気よねぇ。誰に似たのかしら?それでね、枝里ちゃんに一番似合うの選んできてくれって言われた」「はぁ…それは責任重大ですね。」「枝里子に一番似合うのを自分が選びたいって思わないの?って聞いたらさ。」「枝里ちゃんにいつもセンスが悪いって言われてるから俺が選んだら枝理子が我慢するかもしれないからって言うのよ。折角の花嫁衣装は母さん達が選んでくれた方が枝里子に一番似合うのが決まりそうだからって…」「保くんはもう…」久美子が呆れている「保さんセンス悪くないと思いますけど?」さきが意外そうに呟く「あの子は店に入ってマネキンが着ている一式を買うような子なのよ。自分でコーディネートすると壊滅的だって言うのよ」と真知子「そうなんですか?」「確かに変な取り合わせだなっと思う事もあるけど今時ハチャメチャな服じゃなきゃ許されるでしょ?」と久美子「おば様…」さきは言葉がない「我が子ながらセンスは無いわよ。私に似ちゃったのかしらね」「お医者さんは白衣着ちゃうと下に何着ても分かんないところあるからねぇ」「実際気にしてないのよ。私はね。今のドクターはおしゃれだけど」「そうよね。段々おしゃれな人増えたなぁって勤めている頃感じてたわ」「そんなこと考えてる暇なんて無かったもの。私の医者になり立ての頃は、ずっと勉強だった。今だって勉強だけどインターネットで何でも調べられるし、連絡もとれる。全く便利な時代だわよ…」「実感がこもってるわ。」「枝里ちゃんの写真撮っても良いですか?」「さきちゃん、勿論良いわよ。保さんにも送りますか?」「保には当日まで内緒よ。見せたらだめよ」「分かりました」枝里子の着替えの間の付き添いの会話である「白無垢は決まりでしょう?ドレスは白じゃなくて良いんじゃない?」「最近は前撮り出来るのでその時に白のドレスを着て撮影できるんですって」「へぇ、私達の頃は着替えの間に写真撮影やら家族写真やら忙しかったわよぇ」「何だか時代の違いを感じるわぁ」両家の母親の感想である「さきちゃんの時の参考になるわよ。ちゃんと見ていてね」「はいその為にも写真も撮っておきます」「さきちゃんもそろそろなのかしら?」「さぁ?うちでは聞いてないけれど、予定があるのかもね」「年頃だものね。私達の子供が結婚するんだもの。近い内に良い話が聞けるかもね」「楽しみねぇ。佐江子さんがいたら一緒に喜べたのに」「一緒に喜んでいるわよ。きっと見守っているわよ」
「そうね。佐江子さんが一緒に楽しんでくれてると良いなぁ」「ええそうね」
その日枝里子はいくつもの衣装を着ることになった。背もスラッとして姿勢が良いのでドレスも似合うのだ。男装もしてみて母親達は大喜びだった。何でもあと1組の打ち合わせがキャンセルになったので枝里子達の貸し切り状態だったのだ。式場にスタッフもかなり楽しんでいた様である。
「はぁ疲れたぁ…」「お疲れ様」くたびれモードの枝里子に変わって帰りはさきが運転している「どこかでごはん食べようよ。雄二さん大丈夫なんでしょ?」「ええ。保くんが一緒に昼は手配してくれてるって言ってたから」「じゃあさ。ホテルのビュッフェ行こう?私言ったこと無いのよ」と真知子が言い出した「あら本当?」「無いのよ行きたいの。連れてってお願い」「じゃあ行きましょう。私の知ってるところで良いですか?」とさきが答えた「まぁさきちゃん、何時そんなとこ調べたの」「職場のお友達と行くんです。時々」「さすが、OLねぇ」久美子が感心する「今時OLなんて言わないのかしら?」真知子が呟く「どうでしょう?他の言い方知らないですが」「お腹空いた…」「枝里子あなたねぇ…」久美子が呆れる「良いじゃない。本当にお疲れだもの。」真知子が笑って答える「枝里ちゃんのことは赤ちゃんの頃から知ってるのよ?気にしないで良いわよ?」「羨ましいですわぁ」とさきが呟く「次はさきちゃんの番よ?」「そうですねぇ…そろそろ自分の将来も考えないと行けないですよねぇ」「今までお付き合いした人居ない訳じゃないんでしょ?」真知子が驚く「はい大学の時も先輩とか留学生とか,就職してからはそんな余裕ありませんでしたから」「余裕って…さきちゃん好きな人とかいなかったの?」久美子も驚いている「さきは自分が何処の誰だか分からない以上真剣なお付き合いは出来なかったのよ。」枝里子が代わりに答える「そんな大ごとじゃないんですけど。只、私の本当の両親がとんでもなく悪い人だった時に相手に迷惑を描けるのが嫌でイエ怖かったんですよ。単に自分かわいさで…」「さきちゃんあなた…」真知子と久美子がさきを抱き締める「何て辛いこと考えてるのよ。その若さで。苦行じゃないの…」真知子はさきの頭を撫でてから優しく微笑む「もう安心ね。これからは思いっきり好きな人を見つけなさい」と久美子も微笑む「はいそうします。」素直にさきも微笑む「さぁご飯ご飯行こうよ。」枝里子が空気をぶち壊しの体で歩き出す「枝里子さんありがとう」「ン?何が」「湿っぽくならないにしてくれたんでしょ?」「私はお腹がすいただけよ」「ええありがとう。私もお腹が空いてきたわ」その二人を遅れて歩く母親二人「本当に出会えて良かったわ」久美子が呟く「そうね。あんなに良いお嬢さんをうちが頂いて申し訳ないわ」「なぁに言ってるのよ。保君が嫁にもらってくれて有り難いわ正直ほっとしてるのよ」「小さい頃からずっと一緒だったからねあの二人」「さきちゃんがずっと一緒だったら変わっていたかしら?」「うちの枝里子はグズグズのままだったかも」「どうかしら?基本的にしっかりしているもの」「さきちゃんが帰ってこないって分かってから枝里子が変わった気がするのよ」「そうなの?保は枝里ちゃん一筋縄だっからねぇ」「保君だってさきちゃんの事好きになってたかもよ?」「どうかなぁ?保は枝里ちゃんのことをいつも気にしてた。どっちかと言うとさきちゃんはライバルだったかも」「ライバル?」「ええさきちゃんって男の子にも負けないくらい強気の子だったでしょう?枝里ちゃんが苛められてるとさきちゃんはいつもかばってくれてたじゃない?保はさきちゃんほど強くなかったからね。家に帰ってくると枝里ちゃんを守れなかったって良く言ってた。」「さきちゃんはあの頃、口も達者だったものね。男の子達も敵わなかった。」「そう言えば先生が驚いてたわよ。まるでお母さんが諭すように男の子達を叱るって…」「へぇ。今のさきちゃんからは想像できないけどねぇ。」
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