第33話 繋がり
「明日の土曜日よね。あなたお休み?」「なんだよいきなり」金曜日の夜10時過ぎ風呂を済ませ自室に戻ると携帯電話がコールしていた。「何度も電話したけどでないから…」「今日は同期の高橋さんと飲んでたんだよ。」「高橋さんて大学から一緒の?」「そうだよ」「付き合ってるの?」「はぁ?姉さんには関係ないだろう?」「大有りよ。妹になるんだから」「心配無用。彼女は友人だ」「そうなの?なんだつまんない」「用事は何さ」「明日、お葬式に出てほしいの」「俺が行って意味あるの?」「ええ。お願い。私も間に合うように調整してたんだけど急に朝打ち合わせが入って」「名代って訳ね?」「うん。場所はね、鶴見の…」「故人の名前は?」「西寺さんって方よ。」「同姓同名ってこと無いの?」「西寺紀夫さんと奥様」「二人?」「そうよ。ご夫婦で、亡くなられたの」「事故?」「ご家族は?」「奥様のご両親と妹さんがいるわ」「旦那さんの家族は?」「明日は来れないかもって聞いたわ。」「ふーん。俺は姉さんの名前でお香典を渡して手を合わせてくれば良いのか?」「お願い。間に合うか微妙なのよ。できれば自分が行きたいけれど、こっちも身動きが取れないの」「姉さんは、今こっちにいるの?」「ついさっき成田に着いたの、横浜のホテルに泊まるつもりだったのに手違いで都心で打ち合わせが入っちゃって…」「分かった。代わりに行ってくるし間に合うようなら本人も伺いますって言っとく。」「お願いします」「姉さんがお願いしますって言うの初めて聞いた」「私も徹に初めて言ってたわよ。成長したのね」「あっバカにしてる。俺だってもう社会人になって3年経ってるんだぞ」「フフ分かってる。頼もしくなったわ」「全くもう」「じゃあよろしく」用件を済ませたらさっさと電話を切るのは相変わらずである。最近は頻繁に帰国しているようだがビジネス中心で横浜の実家にはあれ以来帰ってこない「おじいちゃん達が帰ってくれば顔を出すのかな…取りあえず黒のスーツとネクタイ、白のワイシャツをチェックしないと」独り言を呟く徹であった
「ここだな」横浜鶴見の葬祭場の駐車場に車を停めて身なりをチェックして徹は建物へ向かう。葬祭場は時間毎にスケジュールが表示されており姉に聞いていた西寺夫妻の葬儀は少人数用の部屋が指定されていた。「ここだな…」西寺紀夫、佐江子の名前には徹自身、全く覚えが無いが姉が頼んでくるのだから大切な人物なのだろう。ノックをしてドアを開ける「失礼します」「足立さん?」聞きなれた声が自分を呼んでいる「えっ?清水さん?が何でここに?」「さき、どちら様?」「お母さん。こちらは同期に足立さんよ。彩子さんの弟さんなの」「まぁ彩子さんの…さきの同僚になるのね」「本日はよくお出でいただきました。」「姉の代理で参りました。足立、足立徹です。さきさんとは同期でよく職場で助けてもらってます」「まあ、さきのお友達でもあるのね。どうぞよろしくお願い致します」「あのお焼香させてもらっても」「ええ。是非」ひとまず挨拶を切上げ遺影の前に進む「あれ?この人…」小さく呟きながら徹は手を合わせる「ありがとうございます。」さきの母、真理子が席を案内する。さきはお茶をお盆に載せてやってきた「足立さん今日はありがとうございます。」さきが改めてお礼を言った「あの写真の方…女性は君のお姉さんなの?」「ええ。」「ずっと行方知れずで最近発見されたの」「発見?」「そうよ。20年前に車ごと崖から落ちて…そのまま見つからなかったの。」「20年間?」「どうやら不法投棄があった場所でね、最近新しい道路の工事でトンネルとかつくる工事で発見されたの」「なんて不運な…」「でもずっと捜し続けていた家族にとってはひとまず区切りが着いたわ」「そうだったんだ。ご家族も大変だったね」「ええ。両親は発見された時はかなり動揺してたわ。でもね。亡くなる際までがノートに残っていてね、それを読んで気持ちの整理を付けたみたい。色々書いてあったの。家族への気持ちが。だからね。ひと月経って納骨することにしたの。足立さんのお姉さんはどうして知っていたのかしら?私は誰にも知らせなかったのに…」「お姉さんは、千葉のケーキ屋さんに勤めていたよね?」「足立さんも覚えているのね。」「うん俺は時々姉がつれていってくれるケーキ屋さんのレモンケーキが大好きだったんだ。いつからか急に連れていってくれなくなって不思議だったんだ。」「彩子さんは説明してくれなかったのね。」「子供の俺に話してもわかんないと思ったんだろうな」「ケーキありますよ。良かったら召し上がって…」「えっ」驚く足立のテーブルにケーキが置かれた「姉達の供養に母が作ったんです」さきは紅茶を準備してセットする「多少は味が違うかと思いますがどうぞ」真理子はニッコリ笑顔でケーキを勧める「美味しいです。それよりも懐かしいです。同じですよ。私が子供の頃食べたケーキと同じです。美味しいです」足立は懐かしみながらも一気に食べてしまった「まぁ喜んでいただけたなら嬉しいですわ。あの子達の供養になります。足立さんありがとうございます。」「娘のことを知っている方にお会いできて良かったわ。」「こちらこそ、思いがけず懐かしい味に巡り会えて良かったです。」「ありがとう。」真理子は泣きながら足立の手を握っていた「お母さん。」さきは真理子の背中を優しく撫でている「彩子さんのお陰ね」「ええ。本当にお会いできて良かったわ」
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