第31話 足立のとまどい

彩子はホテルへと戻った。清水家での対面は今まで溜まり溜まった謎が解けた気がして安堵感と納得感で、不思議な感情があった。佐江子は亡くなって会えなかったがさきに会うことが出来た。もう佐江子は、亡くなっていたことにショックを受けたがさきの顔を見てホッとしていた。さきは佐江子に会ったときのワクワク感と優しい言葉は引き継いでいた。記憶が無いと言うけれど佐江子の話し方に良く似ている。懐かしい想いの方が強かった。さきちゃんが弟と親密になってくれたらまた帰る楽しみが増えるんだけどなぁ…どうやったら二人を仲良くできるかしら?考えることはさきと弟の事ばかりであった

翌朝、職場の前でさきは足立と一緒になった「おはようございます。足立さん」「おはよう、清水さん。今日は早いので来たの?」「ええ。特急に乗りました。早く片付けてしまいたいことがあるので」「そうなんだ。」「足立さんは、最近早いの?」「いや昨日家族がカギがなくて家に入れないって大急ぎで帰ったから続きをね。」「お姉さん喜んでた?」「いやいつも通り。遅いだの。面倒な人でさ」「まぁでも急ぎで帰ってあげたんでしょう?」「そうしないとどれだけ文句言われるか…恐ろしいよ。全く、カギを持ってりゃ良いんだよ。スペア渡そうとしたらもう帰らないからいらないって言うしさ。全くどういう意味だよって思ったんだ」「まぁ」「それからは連絡もないしさ。相変わらず理解不能だよ」「弟想いなのよ。」「今の会話のどこにそんな要素があった?」「じゃあ私は此処で」さきは足立と離れて東側のエレベーターに向かう「あっちょっと…」足立の声は他の人達の声で消えてしまった「おはよう足立さん」「ああおはよう、山根さん」「清水さんと一緒に出勤?」「まさかそこの入口でバッタリ会っただけですよ。」「そうなの。でもお二人は仲が良いわよね?」「同期だからですかね?」「それだけ?」「?多分」「足立さんて決まった人とお付き合いしてるの?」「イイエ。そうそう物好きは、いないですよ。」「そんな事ないわよ。じゃあ私と付き合って。」「あはは、なんですか急に」「本気よ。私は足立さんが好きなの。」「えっ…ちょっと」「駄目?」「駄目って言うか僕は山根さんの事よく知らないし」「じゃあ付き合ってから私がどんなに良い女かわかればいいじゃない?」「わからないのに無理ですよ」「今日から見てて、私がどんなに良い女か」「参ったなぁ…」強引な女性は、特に苦手な徹であった

業務中今朝の山根から熱い視線を受ける「困ったなぁ…」徹は独り呟く。「どうしたんだぁ足立君」「杉山班長。お疲れ様です」「何か問題でも?」「はぁ…どうしたもんか…」「私で良ければ相談に乗るぞ」「いやぁ…ちょっと話しにくいんですよ」そこへ「何してるんですか?」「高橋さんお疲れ様」「お疲れ。」「何だか大ごとなの?」「足立君が悩んでいるから何事かと思ってさ」「例の件じゃないの?山根さんに付き合ってって言われたんでしょう?」「ええ。本当かい?」「なんで知ってるの?」「だってあんな職員がいっぱなところでアプローチしたら嫌でも耳に届くよねぇ」「はぁなんて断れば良いのかと」「断るの?」「付き合う理由がない❗」「お試しは?」「お試しで付き合えないでしょう。」「あら良いじゃない。足立君は人と付き合う経験値が低いから良いんじゃないの?」「好きでもない人と付き合うのは無理だ」真面目で堅物な足立らしい答えだ「付き合ってうちに好きになるかもよ」「高橋さん遊んでいるよね?俺で」「そんなことないわよ。ただ面白いかなぁとは思うけど」真澄は愉快そうだ「遊んでるじゃないか。全く。同期が悩んでいるのを楽しむなんて。」「君達は大学からの付き合いだったね」杉山は軽妙な二人のやり取りを見ている「とんだ悪友ですよ」「腐れ縁です」「二人が付き合えば良いんじゃないの?」「はぁあ?」「ほらタイミングもバッチリだしさ。」ニッコリ笑って二人を見つめる「えっ?」「でも僕は特別に付き合っている人は居ないって言っちゃいましたよ?」「友人が恋人になると言うこともあるでしょう?」「いやいや無いですよ」「そうでも言わないと山根さんに納得して貰えないんじゃないの?」「うっ…でも…」安立は気が進まないらしい「高橋さんは、都合悪いの?」「そこまでする必要あるかしら?」真澄も若干引いている「あはは。ごめんね。冗談だよ。嘘を着くと後が大変だろう?だからね、きちんと他に好きな人が居るって言うべきだよ。」「でも付き合ってる人は居ないって言っちゃいましたよ?」「でも想っている人は居ても良いだろう?実際に居るんじゃないの?足立君」「杉山班長…」「余程彼女が嫌いじゃない限り山根さんタイプは断られないと想うんだ。試しに付き合ってみても良いかなぁとかさ。でも断ることしか考えてないってことは足立君に想い人が居るってことだろう?」「確かに…」「誰か居るの?学生の頃に付き合った人とかさ。」「いやぁ。でも気になる人は居るよ。」「ほら。居るんじゃないの。そう言って断るのが一番だよ」「班長って分かってて私と付き合えばとか言ったんですかぁ?」「だからごめんね。足立君に気づいて貰うために高橋さんの名前借りちゃった。」手を合わせて謝罪される「助かりました。キチンと断ります」「山根さんも断られても諦めないかもしれないよ?自分の気が済むまで足立君に絡んでくるかもね」俯いて深いため息を落としていたが深く深呼吸をして頭を上げるとスッキリした顔の足立がいた

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