第30話 姉の想い

「最近、警察から19年前に車ごと遺体が見つかった連絡がありましてね。今度お墓に納骨する予定です」「19年前…私が会えなくなった頃ですね。では事故で行方不明になったんですか?」「親子で夫側の姉に会いに行って帰りに崖から落ちたらしいんです。その時さきだけを通りかかった車に預けて警察を呼ん欲しいと頼んだらしんだが結局助けが来なくて亡くなったらしい」「どうしてそんなに詳しく分かったんですか?」「佐江子の夫が絵本作家で物を書くことで顛末を残してくれてたんです。そこで佐江子達がそのまま亡くなったことが分かったんです」「さきちゃんが清水さんに引き取られたのは救いですね」「ええ。結果的に。」「結果的に?ですか」「私は記憶喪失になったんです。いまだに戻っていないんです」「でも佐江子さんの家族に引き取られたんでしょう?」彩子は不思議そうに呟く「偶然なんです。私は、横浜の養護施設の前で一人で毛布にくるまって寝ていたそうです。そこで施設の方に保護されたんです」「まぁ」「未だに私を横浜まで連れてきた人が誰だか分からないままです」「謎なんです。どうして横浜だったのか。警察でもなく施設の前にね」「さきが佐江子の娘と判明したのもつい最近ですのよ」「我々は知らないうちに自分の娘の子を引き取って育てていたんです」「そんな事ってあるんですね」「ええ。本当にねぇ」皆がため息を着いた

「奥様お食事をしたくしますか?」夕子が声をかけた「そうですね。彩子さん是非一緒にお食事を」「急に訪ねてきた私にご親切にありがとうございます。」「ではこちらのテーブルに移りましょうか。」真理子の案内で隣の食堂へと移る「私は家出した時に悲しい想いを抱えるより堂々と独立して家を出ることを進められたんです」「まぁ自分は散々心配させておいて良く言ったもんだ」父が笑う「自分が失敗したから…って言ってましたよ。」「えっ?」「佐江子さんは自分が手段を間違えたからこそ、あなたは間違わないでと言ってくれたんです」「佐江子が…」「きっと後悔してたんですよ。家出の仕方に。でも幸せだったと思います。他人の私が言うのも変ですが毎回楽しそうだったもの。優しい旦那さんとかわいい子供がいて毎日楽しいって言ってたわ。」彩子は遠い記憶を思い起こすように話す「佐江子は、家族の事を?」「一度だけ、横浜に住んでる両親にやっと会えるって。心配させているから安心させられるまで顔を出せなかったって」「佐江子…いつでも帰ってきて良かったのに…そうすれば会えていたのに。」「真面目な娘さんでしたからねぇ」執事も渡辺も頷く「バカですよ」泣き笑いするする真理子にさきは寄り添う「素敵な女性でした」彩子は呟く。「ありがとうございます。足立さん。今日はお話が聞けて本当に良かったです」

気が付けばもう10時を過ぎている

「良ければ泊まっていらっしゃればよろしいのに」真理子は引き留めたが、明後日の朝にはアメリカへ戻るので出来るだけホテルで片付けをしたいと彩子は帰ることにした

「あなたはかなりきつい子供時代を過ごしていたのね?」さきは駅に向かって彩子と一緒にあるいている「いいえ。私は、記憶が無いのが幸いして両親がいない事も実感がなくて…清水の家に引き取られて恵まれて守られて過ごしました。幸せに生きてきたんです」さきは淡々と話す「ねぇ、今お付き合いしている人は?」「いませんよ。私は自分が誰だか分からないんですよ?大人になってからは誰とも付き合っていません。考えられなかったです」「そう。ねぇうちの弟はどうかしら?」「徹さんですか…」「悪くないと思うのよ。健康体だし、まぁまぁ勉強もできたし、仕事もこなしていると思うのよ」「それは、ちょっと…」「駄目かしら?あの子は頑固なところがあるけれどそれだけ集中力があるのよ。言葉が少ないから誤解されがちだけどいいこなの。ハンサムでしょう」「…」「お薦めよ。」さきはニッコリ笑う彩子に軽く笑って返す「私は、やっと自身のルーツが分かってほっとしたとこなんです。誰かに気を許すこともできなかったです。ですから恋愛も全く考えられなかったんです。徹さんが素敵な男性だとしても考える気はまだ無いので…」「あら、もう考えても良いんじゃないの?」「まだです。両親の葬儀や手続が色々終わっていないんです」「独りでするつもり?」「清水の両親も西寺の伯母も居ますから一緒に決めます。出来るだけ早く…二人も落ち着かない筈なので。」「親孝行ねぇ」「こんな事しかできないんです。でも彩子さんは、これから家族で歩み寄ることは出きるでしょう?」「うち?うちは無理よ。どうしようもないわ。私もこっちへは戻らないつもりなの」「どういう事ですか」「弟もその方が良い筈よ。親の役目を果たさなかった両親と口うるさいだけの姉。側にいない方が良いのよ。これから誰かを好きになって家庭を持つ時、私は居ない方が徹の為になるのよ」「徹さんは淋しいと思うでしょうねぇ」「そんな事ないわよ。あの子には私の悪態ばかり見せてきたのよ。優しい弟は受け入れてくれたけど、家庭を持てばそれどころじゃなくなるわ。それで良いのよ。これで私の本当の独立が成立するんだから」

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