第27話 母を知る人
「清水さんちょっと良いかな?」さきは津島課長に呼び出された「はい何か」「明後日金曜日の夜空いてる?」「今のところは特に予定はないですが」「悪いけれど僕の私用に付き合ってくれない?」「課長の私用ですか?」「そう、頼める?」「はい私でお役に立てるなら」「ありがとう助かるよ。詳しいことは後で話すよ。本当に助かったよ」
後から詳細を聞いて驚いた。どうやら大学の同級生のパーティーらしいのだが、必ずパートナーを同伴するのが決まりになっていていつもは妹が同伴してくれるが今回体調不良で参加できないらしい。それで困り果ててさきへの依頼となったようだ。「なにもしなくて良いよ。好きなだけ飲み食いしてて良いから…」「ドレスコードもあるんですか?」「仕事終わりだからスーツでも着てくれれば良いよ。」「いろんな職業の人が来るから煩いことは言われないよ。ただ一人は駄目ってだけなんだ」「ずっとお付き合いがあるんですか?」「うん卒業してからずっとだよ」「仲がよろしいんですね」「年々めんどくさくなってくよね」「まぁ、そんなこと言って良いんですか?」「僕はそう思ってるんだよ。誰が変なルール決めたんだって抗議してるよ」
金曜日の夕方就業時間が過ぎて津島とは横浜駅の西口で6時待ち合わせである。さきは仕事を終えて横浜駅で下車して車の乗り降りするスペースで津島の迎える車が到着するのを待つのだ。この日津島は午後から半休を取っていたのだ
時間ぴったりに津島がやって来た
「おーい清水さんこっちこっち」「課長、運転なさらないんですか?」「こんにちは、今日は兄のパートナーを代わってくださってありがとう。」「こいつは妹なんだ」「初めまして清水と申します」「帰りは夫が迎えにきますから心配しなくても良いからね。」「夫って言われてもどなたか存じませんけれど」「ああ杉山班長といった方がピンと来るかしら?」「杉山班長って弟さんになるんですか?」「義弟ね。あれ聞いてない?」「初めてうかがいました」「杉山とは高校生の頃からの付き合いだよ」「そんなに長く?」「大学は別だったんだけど就職したらまた一緒になったんだよ」「ご縁があったんですね」「ああ妹とは高校の頃から付き合ってたからずっとだよ」「杉山班長って生真面目って感じでお見合い結婚じゃないかって言われてるんですよ」「まぁ、年相応の付き合いしてたわよ。」「意外です。あっ失礼しました」「良いんだよ」「兄さんが言わないでよ。私の夫なんだから」「あのぅ体調が悪いと伺ったんですがもうよろしいのですか?」「ええ。つわりが急にきたりすると周りのかた達に迷惑だから、清水さんにはご迷惑をおかけしてごめんなさいね」「おめでたなんですか。運転して大丈夫ですか?」「ええ。大丈夫よ二人目だから余裕はあるのウフフ」「母はつよしですね。」「夫の協力あってのことよ!」少し惚気る津島の妹である「親兄弟もな…」横から津島兄が口を挟む「課長目が遠くを見てる気がします」「見てるんだよ。結局両方の実家は協力しなきゃいけないだろう?」「兄さんなにも出来ないじゃない?」「俺は杉山を守るのがせいぜいだ」「班長にとっては頼もしい義兄さんだと思いますよ?」さきも擁護する「清水さんもっと言ってやってよ」楽しい車内での会話だった
「着いたわよ」「では行って参ります」「頑張ってね…」「清水さん頼むね。いやよろしくお願いします」「はい頑張ります。帰りお気をつけて」「ありがとう」津島の妹、杉山班長の妻は手を振って離れていった
会場ではしっかりと受付があり芳名帳に名前を書かなくてはいけなかった
「課長、名前は自分で書いて良いんですか?連名で?」「俺のとなりに書いてくれる?俺は字が汚いから清水さん自分で書いた方が良いだろう」「分かりました」さきは津島から筆を受け取り傍に名前をいれた「清水さんて達筆だな」「そんなことないです。習字は母が教えてくれたので筆の使い方を教えて貰ってたんです」「俺のも書いて貰えば良かったなぁ」「課長って呼ぶのまずいですか?」「そうだね。仲間内には同僚と参加すると言ってあるけど職場じゃないからね。津島さんで呼んでくれる?」「了…いえ分かりました」「おい津島妹じゃないとは聞いたが随分若いお嬢さんだな?」早速友人らしき男性が声を掛けてきた「よぉ大沢元気か?」「早く紹介しろよ」「清水さんこいつは同級生の大沢だ。」「初めまして清水さん大沢泰彦です。僕は独身です」「清水さきです。津島さんとは同じ部署に勤めています」「上司と部下?無理矢理つれて着られたのかい?」「いえ、丁寧なお誘いを受けました」「へぇ…」「清水さんナイス」隣で津島が親指を立てる「お前には勿体ない彼女だ」「彼女じゃないぞ」「隠すな隠すな、お前好みじゃないか」「はぁ?」「おーい津島が彼女と来てるぞ」「大沢よせ違うんだ❗」「良いから良いから」「良くないってばこいつは…」「私は津島課長の部下ですよ。混乱させるのはお止め下さい」「ご、ごめん」「何だって津島の彼女?可愛いね。」「違うって」「津島が妹以外と来たことないよな興味があるんだ」「うるさい。どうせ彼女なんかいないよ。悪かったな」「…」「清水さんごめんな。こんなだから連れてきたくないんだよ」「大丈夫です。私飲み物でも貰ってきます。課長はどうなさいますか?」「俺は自分で取ってくるよ。清水さんは好きなもの選んで。」「では…」さきは壁側に並んでいるジュースを受けとる。津島課長のもとへ戻ろうとした時「佐江子さん佐江子さんでしょう?」いきなり腕を引かれた「えっあの」「ごめんなさいね、こんなに若いはずないのに」「あのぅ」「ねぇ親戚に佐江子さんって人いない?あなたに良く似ているのよ❗」「私は…」「彩子さん何してるのさ」「知り合いに良く似ている方がいて話し掛けてたとこよ」「どう見てもこちらのお嬢さん驚いてるよ。君大丈夫?」「はい。いきなり腕を引かれたので驚いただけです」「彩子さん駄目でしょう?驚かせちゃあ」「悪かったわよ。ねぇあなた、佐江子さんって人知らない?」「彩子さんと同じ名前なの?幾つくらいなのさ?」「50歳なるかならないか位だと思うわ」「私は足立彩子よ。アメリカとフランスを行き来していてたまに日本にいるのよ」「私は清水と申します。先程の佐江子さんの事ですけど知り合いにいるんです」「まぁほんと?今どうしてるの?是非お会いしたいの」「それはかないません」「どうして?」「亡くなりました19年前に事故で」「たしかケーキやさんに行方がわからなかなったって聞いてたのよ。でもどこかでお元気でいらっしゃると願っていたのよ。亡くなってたなんて。」「残念ですが…」「あなたは?」「娘です」「娘さん?ではさきちゃんね。だからそっくりなのね。会えてとても嬉しいわ。」彩子はいきなりさきを抱き締めた「ちょっと彩子さん駄目だよいきなり…」解放されて「私は幼い頃お目にかかったんでしょうか?」「イイエ佐江子さんが勤めていたケーキ屋さんで何度か会ったのよ。お話しのなかであなたの事を聞いたの」「そうですか。確かに私はさきです。お会いできて良かったです。」「ねぇ連絡先を教えてくれないかしら?」「でも私両親の事はあまり覚えていないんですよ。」「あなたの顔をずっと見ていたいの、励まされたこととか教えて貰ったこととか思い出せるから」「彩子さんいくらなんでも初対面でそれは…」知り合い男性が止めてくれた「あら私危険人物じゃないわよ?怪しくもないし、あなたとはビジネスパートナーでしょう?駄目かしら、さきちゃん」「…分かりました。私の連絡先は…」さき自身も母の事を知る人に会えるのは嬉しかった。いっそ両親にも会わせてあげたいと思ったのだ。
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