第25話 母真理子の想い

その日さきは午後からと翌日一日年休をとり自宅へと急いでいた。明日佐々木夫妻と父方の伯母末子に会うために千葉へ移動しなくてはいけないのだ。

前野家へ連絡がついて何時でも話を聞きたいと言われて急遽休みを取った。

「清水さんお疲れ様」声に振り返ると足立がロビーで展示物の準備をしている「お疲れ様です。足立さん」「外勤?」「いえ。これから年休です」「そうなんだ。そうだ、明日夕方予定有る?」「ごめんなさい。これから遠出して戻りは土曜日の夜か日曜の午後になると思うの。」「そうか、この間のお礼に食事でもと思ったんだけど」「あらあれは冗談よ。私は結構よ」「そうはいかない。僕の気持ちが良くない」「本当に良いのに…」「じゃあまた別の日にセッティングするよ」「了解、お先に失礼します。」さきは足立やその同僚達に声をかけて庁舎を出た

「今の清水さんだよね?」「足立さん仲良いんですか?」二人の同僚に声を掛けられる「同期の清水さんだよ」「同期の割に親しそうですね?」「同期なら普通じゃないかな?」「いやいや。あの清水さんと親しく話せないでしょう」「何でだろうか?」「足立君、清水さんって人気有るって知ってる?」「人気?」「こりゃあ知らないな…」「清水さんってすっごい性格良いし顔も良いし、仕事もきっちりするし、知り合いってだけで羨望の目で見られるよ」2年先輩の山下が話してくれた「知らなかった。そうなんだ。」「ほら。他課の俺達にすら挨拶をするくらいだよ?」「見てて格好いいじゃないか。彼女颯爽としているしさ。今までにも何人かの男が申込んで来たが、全て断ってるって」「ああそれは…」「よく普通に話せるわ。足立さん尊敬する」1年後輩の鈴木も頷く「別に怖い人でもないよ?」「ちょっと近寄り難いとか有るじゃないですか?」「そうなの?優しくて好い人だよ。」「時々自転車で通勤してるね」「気持ち良さそうに乗ってるよ。格好いいよね?」「でも汗かくから自転車はちょっと」「涼しい時期しか使わないって。最近残業が多くて帰り道が危ないから通勤には使ってないらしい」「足立さんやはり仲良しなのね」「同期だからね」「それだけ?」「残念ながらそれだけだよ」「足立さん、頑張ってみたら?」「おいおいそう言うこと言うんじゃない。足立には足立の好みがあるんだから」「ごめんなさい。足立さんは高橋さんが…」「違うから」「えっ?」「高橋さんは学生時代からの付き合いでよき友人です」「そうなんですか?仲が良いって有名ですよ」「俺も聞いたことがある。同じ大学って東大かよ?」「そうです」「へぇ優秀とは聞いてたけど東大かぁ手が出ないな」「どうしてですか?」「学校なんて関係ないでしょう?」「こっちが気にするの」山下が呟く「同じ人間なのに…」「そうなんですけど、どこか身を引いちゃいそうなんですよ」鈴木が呟く「分からない」足立が呟く。

さきは帰宅して着替えて早速千葉へ向かう「お母さん行って参ります」普段は仕事でいないのだが珍しく母が家にいる「さき。これを持っていって頂戴」そこには紙袋に入った名菓が入っていた「荷物にしてごめんね」「イイエ。佐々木さんと前野さんにお渡しします。」「佐々木さんにもよろしくね」「はい。では」さきは出掛けていった

「奥様。お昼は如何致しますか?」「京子さんとご一緒しても?」「勿論ですわ。すぐにお支度します」家政婦の京子はキッチンへと戻っていった。

最近、佐江子のことが色々判明して真理子は疲れていたようだ。夫の宏からしばらく休養を取るように言われて今日から在宅勤務にしているのだ。「少し疲れたわ。」独り言を呟きリビングへ向かう「今日は奥様も一緒の食事ですか?久し振りですね」「ええ。しばらく在宅勤務ですよ」「お休みにしなかったんですか?」「旦那様も心配なさっていましたよ。ちゃんと眠れていないのではないかと」「寝不足はいけません。奥様気分転換に夕飯の買い物に行きませんか?」「そうね。お日様に当たるのも良いわね。行きます」「では後程」京子は話題豊富である。食事中も食後もずっと話しかけてくれた「奥様少しで良いので横になってください。」「あら大丈夫よ京子さん」「寝不足で外に出たら危ないですから」「ふらついたりしないわよ?」「イイエ。最近の奥様は無理をされています。佐江子さんの事やさきさんの事とか考えすぎていませんか?」「考えられずにいられないのよ」「分かります。母親ですもの」「京子さん…」「さきさんは私にお母さんが疲れ気味だから傍にいてあげたいけれど今日は先約があってはずせないのでお願いしますって声を掛けていらしたんです。」「さきが…」「ええ。親思いの良いお嬢さんですねぇ」「そうね。娘であり孫でもあるのよ」「不思議なご縁ですね」「佐江子はどうしたかったのかしら?さきを一人にして。」「理由があるはずです。佐江子さんとは面識がありませんので私にはどんな方か存じませんがさきさんの躾は良くできてましたよ。きちんと育てられているのが分かります」「そうね。うちで引き取ったときから行儀が良くて優しい子だった」「佐江子さんが奥様に教わったことをちゃんとさきさんに教えていたということですよ」「京子さんありがとう」「少しでも召し上がってください」

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