第24話 レモンケーキの想い出

「どこから来たの?」「横浜…」「駄目だよ、話ちゃ…」「だってもう言っちゃったもん」「黙ってなさいよ」「おじいちゃん達が心配するよ?」「良いのよ。もう帰らないんだから❗」「あらあら家出かしら?」「あんな家に帰りたくないもの」「警察へ届けましょうか、駅員さんを呼んでくるわ。」園長先生が呼びに行った時に佐江子は声をかけた「私も横浜に住んでいたのよ?静かなところ」「おばさん子供は?」女の子が聞いた「女の子が一人弟君位の子よ」「おばさん子供のお迎えに行かなくて良いの?」心配そうに聞いてきた「うんお父さんがお休みだから迎えに行ってくれるのよ」「良いなぁ。お父さんがお迎えに来てくれるんだ?」男の子が呟く「あなたの家は?」「うちには親はいないわ。おじいちゃんとおばあちゃんしかいないもの。あの人達は親は居なくても子供は勝手に育つと思っているのよ。あんな親なんて…」「お姉ちゃん、おじいちゃん達嫌い?」「おじいちゃん達はあんたさえ居れば言いと思ってるのよ。私はどうでも良いのよ」「そんなことないよ」「とおるには分かんないのよ。後継ぎの男の子がいれば女の子は要らなくなるんだから」吐き捨てるように話す「随分な言いようね」「本当だもの。」「淋しいのよね?分かるわ」「大人に分かるわけないじゃない」「私もそうだったから。いえ両親は一緒に暮らしていたけど忙しくて朝、顔を見られれば良い方だった。」「学校の行事は?」「小学生の後半は参加出来なかった」「うちはずっとよ。入学式だって…誕生日だって、お金とプレゼントさえ送れば良いって思ってるの。顔も出しやしない。」「そう。さすがにひどいわね。」「そう思うでしょ?」「でもね、それなら逆に利用しなさい。」「利用?」「そうよ。目一杯お金を掛けさせてあなた達自身が勉強したり趣味を楽しむの。そして自立できるようになったら家を出るの」「それは家出じゃなくなるじゃない?」女の子はむきになった「あらあなたは結局家出をして、ただ大人達を困らせたいだけなの?」「…」「さんざんお金を使って知識や言葉を身に付ける事は自分のこれからに役に立つことでしょ?独立と言う立派な家出よ。誰からも責められない。誰かに悪いなぁとも思わないで済むのよ。」「…おばさん名前何て言うの?」「人に名前を聞くときは先ず自分が名乗るのよ?」「私は彩子、こっちは弟の徹」「私も佐江子って言うのよ。今のままでは連れ戻されるだけよ?自分で帰れるわね?」「おうちに帰ろうよ。お姉ちゃん」「分かった。いつかまた会いに来ても良い?」「僕も一緒に」「良いわよそこに見えるケーキ屋さんに働いてるから。今度ご馳走するわ。」

あれから時々二人は佐江子の勤めていたケーキ屋を訪ねている「このケーキ美味しい」「そう。ありがとう。私の提案なのよ。」「オリジナルじゃないの?」「難しい言葉を知っているのね。このケーキは母のレシピなのよ。でも美味しいからみんなに食べてほしくってお店でも作ってるの」「このケーキ美味しい。持って帰りたい。お姉ちゃん」「ちゃんと持って帰れるかな?落とさないでずれないように」「保冷剤をいれて置けば少し遠くても大丈夫かな?」その日佐江子は横浜まで帰る二人にケーキの箱がスッポリ入る大きな袋に保冷剤を多めにいれて何重にも用心して持たせてやった「今度来る時返すね」彩子が言うと「何時でも良いわよ。急がないから…」「また来る言い訳になるから」「そう?好きにして良いわ。またいらっしゃい。」しかし、それが彩子が最後に会った佐江子の姿だ。その後何度か訪ねたか急に会えなくなった「辞めてしまった」と他の店員に言われ家を教えて欲しいと言ったがもう引っ越したから知らないと言われた

「やっぱり大人って信用できない」まだ小学6年生に上がったばかりの彩子は、やっと信頼できる大人に出会えたと思っていたのでかなりのショックだった

家での後、佐江子のアドバイスが有ったから勉強も習い事も精を出したのだ。裏切りに近い状態で佐江子はいなくなってしまった「お姉ちゃんケーキ食べに行こうよ」それは佐江子に会いたいと言う徹のアピールである「佐江子さんはあのお店辞めたんだって…」「もうケーキはお店でも食べられないの?」「そういえばケーキはあったわ。そうだね、佐江子さんはいないけどケーキは食べられる。徹、ケーキ食べに行こうか?」「うん。食べたい、僕あのケーキ大好き」「そうだね。ケーキに罪はないもんね」「罪?何の?」佐江子に会うことに自分は甘えていたんだ。佐江子はいなくてもケーキは美味しいままだ。「明日ケーキ食べに行く?」「うん」二人に兄弟は翌日の日曜日朝早くから出掛けていく

お友達が千葉に引っ越ししたから会いに行くと言う。心配な祖父母は一緒に行くと言ってくれたが彩子も徹も自分達で行けると頑として受け入れなかった。実際、夕方暗くなる前に家に帰りついていたので安心もしていたのだった。

あれから徹も中学生になり高校受験が迫っていた。彩子も大学生で社会へ出るための努力は惜しまなかった。佐江子に言われた学力と語学を身に付けるため、外語大に進んだ仕事もキャビンアテンダント、旅行会社と内定を貰っていた。佐江子に言われた事に幼い弟を一人にしないことと言われた。高校生になればもう幼くないわよね?佐江子さん、私はそろそろ独立と言う家出を敢行しても良いわよね。ある日思い立って大学を卒業する前に久しぶりに例のケーキ屋に行った

「あらいらっしゃい」「こんにちはあのケーキ有りますか?」「今日は一人なの?弟君は?」「あの子は学校です。私は大学を卒業したら海外に行くのであのケーキが食べたくて…」「そうありがとうございます。どうぞお席へ」「コーヒーを一緒に」「大人になったわねぇ」店員はコーヒーとレモンケーキを運びながら空いてる席に腰を下ろした「あの時言えなかったんだけど佐江子さんのこと覚えているかしら?」「ええ。戻ってきたんですか?」「イイエ。あの時、実は行方不明になっててね。あのまま帰ってきてないのよ」「行方不明?でもあのとき引っ越ししたって言ってましたよね」「ごめんなさい。子供のあなた達に話しても混乱すると思って…」「そんな…」「親戚じゃないって聞いてたから他人のことペラペラ話すわけには行かないし、事件に巻き込まれたとか色々言われてたから」「私達が来るのが嫌で逃げたのかと」「そんなわけないでしょう?あんなに親身にお世話してくれてたのにそんな風に思ってたの?佐江子さん悲しむわよ。」「だって、子供だったんです私」「そうよね。そう思ったから私も詳しくは話せなかったの。ごめんなさいね。」

佐江子は私達から逃げたんじゃなかった。裏切られたんじゃなかった。私は何と浅はかなんだろう?ごめんなさい。佐江子さん。久し振りに食べたケーキは美味しかったがちょっと塩辛い気がした

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