第23話 事実
「さてでは、本日お呼びだてしたのは、西寺夫妻の消息についてです。大変言いにくい事ですが、お二人は亡くなっておられます」雄二がはっきりと告げた「そんな…」真理子は一言だけ呟いて息を飲んだ「お母さん」さきが傍に座る真理子の手を強く握る「何時ですか、最近ですか?」宏の質問に「警察からの情報では19年前です。」「えっ…」「最近お二人の乗っていた車が発見されました。」「車が」宏の話に寄ると最近茨城県の山林を開拓して大きな商業施設を作ることになり山林を伐採して土地の造成を行ったところその土地はずっと放置されていたこともあり不法投棄が長年続いていたらしい。19年前のあの日に何らかのトラブルに巻き込まれて西寺親子の乗った車は道を外れて山林へ落ちてしまった。さきは、紀夫に抱かれて道路まで運ばれ、通りかかった車に警察と消防への救助を託した男性に預けられた。その後救助が来ないばかりか車の上に不法放棄された土砂やらが落ちてきて二人は4日目には息を引き取っている。「どうして、どうして助けは来なかったんですか?」真理子は泣きながら叫ぶ「託された人が通報しなかったからだと思います」「そんな…」「ではさきを横浜まで連れてきた人が通報をしなかったってことですか?」宏はたずねた「そうとは限りませんが可能性は高いでしょうな」「でもどうしてさきちゃんを預けた男性の事を?」「実は顛末をノートにお二人が書き残していたんです」「まぁ…」「二人に間違いないんですか?」「ええ、紀夫さんは絵本作家を目指していたのでノートを複数持ち歩いたようです。さきちゃんの6歳の誕生日の事。プレゼントはポーチにした事。お姉さんに会いに行った事、絵本が出版される事、そして佐江子さんが第2子を授かった事、横浜の佐江子さんのご両親に会いに行く予定だった事、もろもろ書ける分を書いた様でした」ここまで雄二は一気に話した「それはどこに有るんですか?」真理子は尋ねた「今は茨城県警に証拠物件として保管されています。いずれは戻ってきますが何時頃戻されるとは即答出来ません。あちらに調査後となりますので…でも見ることは出来ます。手配しましょうか?」「お願いします」宏は雄二に頭を下げる「でもあちらのお姉さんは御存じなんですか?」真理子は心配そうに尋ねる「今日も声をお掛けしましたが、此方まで来ていただくには大変なので後日伺ってお話する予定です」「ご一緒しても?」真理子は気が急いている様だった「真理子、あちらにも都合があるだろうし、佐々木さんに確認してからで良いだろう?」「でもあなた、佐江子のことも大事にしてくだっさったのにお礼だって言いたいわ。会ったときの話も聞きたいです」「そんな気分になれるかって事だよ。あちらだって弟さんが亡くなっていた事実を知ることになるんだ。ショックを受けるだろう?」「だからこそ一緒に気持ちに添って差し上げたいんです」「私が行きます」「さきは2度も辛い話を聞くことになるんだよ」「ええ分かっています。でも私は先日も末子おばさまにお会いしてますから」「さきちゃん…」「偉いわねぇ。本当に昔から良くできた子だったけど、しっかりして頼もしいわぁ」久美子はさきを抱き締めて雄二に言った「私も一緒に行きたいわ」
「何を言い出すんだ、何で久美子が一緒に…」「私これでも元看護師よ。長年強めてきたわ。患者さんもご家族の方にも寄り添ってきたつもりよ、だから佐江子さんに恩返しがしたいの」「恩返し?」「西寺さんのお姉さんだってショックを受けるわ。でもね、佐江子さんは自分達の事でお姉さんが落ち込むのを望まないと思うの。だからこそサポートしてあげたいのよ❗」「久美子おばさまありがとうございます」「うううん。やっと自分に出来ることが見つかったわ。佐江子さんに助けられてばかりだったんですよ?」「佐江子がお役に立てて良かったですよ。」「ええ。西寺さんによく娘を預かって貰ったんです。あなたもその恩返しだと思ってさきちゃんのサポートしているんでしょう?私は自分が出来ることをやっとみつけたわ」と夫にウィンクする「ありがとうございます。佐江子いえ西寺親子は愛されていたんですね」「勿論ですよ。とても大事なお友達だったのよ」「一緒に子供達のお迎えに行ったり、遠足とか運動会とか一緒にお弁当食べたりしたんです。私が夜勤シフトの時は必ず娘の枝里子を預かってくれて」「僕も交番勤務から所属が変わって帰りが不規則になるので夜中に迎えに来るのも大変だからって園のお迎えからお泊まりして翌日のお迎えまで西寺夫妻のお世話になったんです」「そうですか、佐江子は一人っ子だったのでさきに寂しい想いをさせたくなかったんでしょうね」「よく言ってました。自分はひとりっ子だったので兄弟のいる人が羨ましいと」「そうですか、やはり寂しかったのね。だから家を出たんですもの」「それも聞いた事がありますわ。佐江子さんはとても申し訳ない事をしたって後悔してましたから…」「あの子そんなこと話したんですか?」「ええ。あの頃駅前のケーキやさんでおつとめしてたんです。ある日駅前に小学生の女の子とさきちゃん位の男の子が二人で降りてきてキョロキョロしてたんですって」久美子の話によるとその子供達は家を出てきたらしく連絡先を答えなかった。声をかけて保護した方が子供達が通っている園の園長先生だったので立ち止まって声をかけたそうだ。「その時に子供達に自分も横浜に住んでいた事を話していたそうです」「そうでしたか…」「近日中にあちらのお姉さんに確認してご報告をしてきます。さきちゃんにも連絡するので都合を付けて貰えるかな?」「はい分かりました」
その後は佐江子の暮らしぶりや紀夫の事を色々聞かせて貰った「佐江子は幸せだったんですね。皆さんにはよくしていただいて感謝しております」と真理子は時々涙を溢しながら挨拶した「では検査が済んだ後のお墓の件はお姉さんにも相談して決めると言うことでよろしいですか?」雄二の言葉に「はいご面倒を佐々木さんに押し付けてしまって申し訳ないのですがよろしくお願いします」宏も挨拶を済ませ佐々木家を出る「梅原さんはすぐそこに車を止めて来ていますよ」さきの言葉に「さぁ帰ろう」手には佐々木家から預かった佐江子に関わるものがいっぱい入っている鞄がある「家に帰ったらゆっくり見ましょう」真理子は吹っ切れた様子で明るく話す「そうだな」
梅原は明るく乗り込んできた3人の姿にほっとして車を発信した「お待たせしちゃってごめんなさいね。梅原さん」「イイエ。」「お陰で佐江子の話が沢山聞けたわ」ふぅと大きな息をついた
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