第21話 血筋

一方足立の朝は息苦しさが漂っていた「おはよう、徹体調はどうだ?」「おはようございます。もう問題ないです午前中だけ休みを貰いました」「一日休めないのかい?」「いえ充分です。昨日1日じっくり休みましたから…」「オーバーワーク気味だわ。ちゃんと休んだ方が良いわよ。」「どの口が言うんですか?お二人にだけは言われたくないですよ」「私達は…」「もう今更どうでも良いですよ。お二人はいつまでこちらに?」「昼前の新幹線で戻るわ。」「そうですか。僕も昼前には出る予定で、…あっ電話ちょっとごめん」徹は席を立つ「ここで話して良いのに」「もしもし足立です。課長?おはようございます。はいもう大丈夫です。はい?はぁ…ありがとうございます。ではそのように。ありがとうございました。失礼します」「課長って上司だよね。何事?」「夏休みを取れって言われた。つまり強制的に今日も一日休みになった」「良かったじゃないか。ゆっくり休みなさい」「そうするよ。朝御飯は?」「どうしようかなぁ」「どこかでパンでも買ってきます。」「あら食パン有ったわよ?さっき戴いたけど。」「一昨日パンを買うの忘れたんですけどなんであるんだろう?」「昨日のお嬢さん達じゃないかな?」「てっきりうちの分だと思って食べちゃったわ」「忘れ物かな。俺が寝込んでいたから買い込んでくれたんだと思うよ」「本当に気のきくお嬢さん達だな。大事にしなさい」「大切な友人ですよ」「彼女ではないの?」「違いますよ。もういい加減話を蒸し返さないでください。」「息子のお嫁さんになるかも知れないからね」「俺は結婚に興味はないですよ。」「あらそうなの?彩子も前にそんなこと言ってたわ。」「そうでしょうねぇ。俺も姉も結婚の価値すらわからないですから」「徹。淋しい想いをさせて申し訳ないと思ってるよ。彩子もきっと寂しかっただろうな…」「さぁ俺には良くわからないです。そんなもんだと思って育ってきたので。おじいちゃんやおばあちゃんにはとても感謝してますよ。」「やはり京都に連れていくべきだったよ。」「連れていっても面倒をみて上がられなかったわ。父さん達に預けていたから安心して研究が出来たんだし…」「今更何を言っても気になりませんよ。お互い不干渉で、良いじゃないですか」「私達は親よ?」「親?ってなんですか」「徹…」「理解できませんね。我が子よりも研究を最優先にしてきたお二人に今更親だからと干渉されるのは迷惑ですよ。ずっと向こうで暮らしていてください。老後の心配も不要なくらい生活設計を立てているんでしょう?今更定年したらこっちで暮らすなんて言わないで下さいよ。」「徹や彩子の世話になるつもりはないわ。」「それは有り難いですねぇ。俺は俺の人生を歩みますよ。誰にも左右されないでね」「意固地にならなくても良いでしょう?」「急に近づいてきたら気味が悪い。」「そこまで言うの?」「おいおいもうやめなさい。徹は病み上がりだろう。興奮すると熱が出てくるよ。もう休んでくれ」「そうするよ。見送れないけど気を付けて帰ってください」「ああ徹も大事にするんだよ。智子も帰る支度をしなさい。」徹も聡子も自室へ戻っていった。誠はひとり食器をかたづける「どうしてこんなに頑ななんだろう、智子ももっと優しく徹に接してやれば良いのに我が子がかわいくて心配でしょうがないのに、もっと素直にはなされば良かったのに…」いつも子供達に会った後後悔が残る智子は若い頃からいや学生時代から馴れ合うのが苦手なタイプだった。想いはあるのだが、コミュ障気味で上手く言葉に出来ない。ぶっきらぼうで相手を怒らせるのもしょっちゅうだった。自分と結婚するときも「一生そばにいなくて良いから、私が一人娘だから家を継がないといけないのよ。子供を二人は生めば離婚して自由になれるわ」と言って誠を驚かせた「もっと自分を大事にしなさいと言うと」「私は研究を続けたいの、子供は両親が育ててくれるわ。跡継ぎが出来れば私はいなくても良いのよ」「それで良いのか?」「両親に約束させられたの、だから二人子供が出来たらあなたも好きにしてよ良いわよ?離婚してもあなたが望むなら。私は受け入れる」「僕をなんだと思ってるんだ❗それなら誰でも良いってことだろう?」「どうせ生むなら好きな人の子供がいいわ。」「クレイジーだなぁ。でも危なかしくってほっておけない」「じゃあ結婚してくれる?」大学を卒業して半年後には入籍していた「同じ企業の研究所に勤めていたのでいつも一緒だった二人。その内誠が足立家に居候を始め普通に家族となった「結納も結婚式もしないってあなた達はそれで良いのか」智子の両親はせめて顔合わせだけでもと申し出て何とか形だけは整えた「誠は良いの?ちゃんとした人じゃなくて?」誠は地方の田舎の3男で、継ぐ家も無いし、足立家に婿養子にはいるのにも特に反対はなかった「僕は3男の末っ子だし姉もいるし問題ないよ?」「そう。ではそう言う事で」と、結婚したのが32年前である「早いなぁもう32年も立つんだ」「彩子はよく泣く子だったなぁ。智子の指を強く握ってはなさい子だった。そしてよく笑う子だった。だがいつからだろう、全く笑わなくなった」「何があったのか?」自分達の行動が幼い彩子を傷つけてしまったことなど気付かずに何十年も経ってしまったのである「彩子は元気でいるのか?」「姉さんは、今フランスだよ。アメリカと行き来してる。」「徹…」「先月帰国してたよ。相変わらず忙しいらしい」「元気でいるんだな。それなら良いさ」「連絡先知ってるんでしょう?」「うん知ってるよ」「連絡は取ったりしてるんですね?」「お互い一方通行だけどね。メールを送ってるだけだよ」「お互い時間があるときに連絡しているだけだ話す機会はないけれど。」「どうやらうちは、不干渉の家族らしいな」「一番は愛情不足だと思うな」「徹?母さんの事を言ってるのかい?」「二人ともだよ。あの母さんを好きにさせた父さんも同じだよ。おじいちゃん達もそれを許してた」「それは…違う」「違わないよ。僕らの心に届かなければ無いのと一緒だよ」「徹。」「父さんは、母さんが好きなんだから好きにさせたかもしれない。でもね、僕らを捨てたんだよ。姉さんは言ってた。自分は徹が生まれて時点で要なしだったって…」「馬鹿なことを…」「だから独立して誰の世話にならないで生きていける自分になるって」「…」「姉さんは僕をつれて家出したことがあるんだ」「家出?」「そうだよ。千葉まで行ったけど、駅前で補導されて、いや違うな。諭されてうちにかえった」「おじいちゃん達は知ってるのか?」「さぁなにも言わなかったし、無事に帰ってきたから大丈夫だと思ったか知らないけどね」「なぜ今まで黙ってたんだ?」「その前に僕らの様子を見てた?見ようとした?」「いつもおじいちゃん達から元気で変わりなく過ごしているって聞いてたから」「僕らの気持ちはどうでも良かったんだね」「そんなことはないよ」「どの口が言うのさ。父さんだって母さんと同じじゃないか❗姉さんの気持ちなんか気にもしてない。」「自由に生きれたら楽しいだろう?」「そうやって子供をほおっているのは今はネグレストって言うんだ」「ほおっていた訳じゃあ」「誕生日も入学式も卒業式も親が一度も参加しないのはほったらかしって言うんじゃない?」「それは悪いことしたと思っている」「今更謝られてもねぇ。取り返すことは出来ないよ。思い出に親と過ごした記憶がないんだよ。僕と姉貴は」「済まない。」「謝らないでよ。仕事が研究が忙しかったんでしょう?僕らは試験管でできた子供じゃないかって本気で考えたくらいだよ」「徹。」「もう寝るから。鍵は掛けて行ってね。」徹は自室に戻り出てこなかった「徹は寝たのかしら?」「休ませてあげよう。智子新幹線に乗り遅れる」誠は父として愕然とした

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