第20話安らぎ

「さてとこれで支度できたわ。私達はソロソロ引き揚げましょう」さきは真澄に声を掛けた「そうだね。ご両親も居られるし私達の任務終了だわ」二人が帰り支度をして玄関で靴を履くところに安立が戻ってきた「あれ帰るの?」「ご両親もおいでになるし、食事は直ぐ食べられるようにセッティングしてあるわ。冷めないうちに召し上がれ。それとこれ」さきはお土産の栞を手渡した「お大事にね」さきと真澄は揃って挨拶する「きちんと挨拶も出来ずに失礼しましたと伝えてください。じゃあまた来週ねぇ。」手を振って出ていった

「帰ったのかい?」「うん挨拶もせずに失礼しましたって」「わかっているなら挨拶していけば良いじゃない?今まで居たんだから。こそこそ帰る方が怪しいわよ」「お母さん‼️僕の友人に失礼な事を言うなよ」「失礼なのはあっちでしょう?勝手に人のうちに上がり込んで食事作ったり…私は他人が家にはいるのは嫌いなのよ」「智子…今のは君が悪い。謝りなさい」「だって本当の事でしょう?」「智子、徹の友達を失くすつもりか?」「大袈裟よ。同僚なんてライバルじゃない」「あなたはどんな職場にいるんだ?信じられないよ。大体、父さん達は名乗ったのか?」「いや。揃ってから改めて挨拶しようと思ったし、まさか帰っちゃうと思わなかったからね」「で、何なの?あの娘達」「だから同期の同僚だよ。」「それだけ?」誠が驚いている「そうだよ。」素直に徹が答える「下心有るんじゃないの?」智子が呟く「下世話な人だな、相変わらず」徹が苛立っている「普通、同僚程度の付き合いで食事の世話に来るしら?」「あなたに普通の何がわかると言うんだ。親切心で来てくれた同僚に何言ってるのさ」「徹。言い過ぎだぞ。智子もだ」「あなたにはわからないだろうね。40度あって寝込んでる奴の為に同期が心配して仕事を終えて食事を作ってくれる優しさなんて。あなたにはない感情だろうから」「徹が40度の熱があると知ってたらもっと早く帰ってたよ。知らせてくれれば」「職場に電話するのもやっとだったんだぞ。まして京都にいる人に連絡を取ろうとは思わないよ。そっちこそ前もってこっちに来るって連絡寄越せば良かったじゃないか❗」「驚かそうと思ったのよ。おじいちゃん達は温泉に行ってると聞いてたし、夕食でも一緒にって。」「おばあちゃんからいつも8時頃には家に着いてるって聞いたからその頃に行けば間に合うとl持ったんだよ」誠は智子の足りない言葉を補うように言葉を続ける「ごめんな。いつも淋しい想いをさせてしまって…」「今更そんなこと言われてもさ、何とも思わないよ。俺幾つだと思ってるの?もう26だよ。」徹は呟きながらさき達が準備してくれた食事が気になった「取りあえず俺は食事をするから、二人は好きにしてよ」「そうだね、あのお嬢さん達の折角のご親切だからね」「智子もほら一緒に戴こう。ちゃんと3人分セットしてある」「…」

徹は黙々と雑炊を食べる。鶏肉が入ってネギがまぶしてある。薄く塩味がきいて美味しい。「俺は要らないけど、冷凍庫におばあちゃんが作り置きしたのがあるから温めて食べると良い。」それだけ言うともう何も言葉をかわす気になれなかった「へぇ美味しいねぇ」誠は嬉しそうに食べている「智子も食べなさい」「私は母さん作り置きしたものを食べるわ」徹は何の態度も示さない。黙々と食べきる「御馳走様でした」徹は茶碗を流し台へ片付けた「こっちで洗っておくよ徹は薬を飲んで休みなさい」誠の言葉にうなづき「おやすみなさい」と呟き自室へ戻った

部屋に戻っても母親の言葉に傷ついていた徹は怒りと哀しみと悔しさが混ざった複雑な心境だった

薬を飲んで横になろうとすると携帯電話のLINEである「誰だ?一体」「ご飯は食べられましたか?熱は上がってないですか?寝るところにスポーツ飲料があるとベストですよ。先程、真澄さんがいっぱい抱えていましたよ。暖かくして休養をとってください。」というさきからのメッセージだった(あんなひどい扱いされたのに優しい人だな。諦めなきゃと思ってたのに諦められないよ。清水さんのことがもっと好きになったよ。)「ありがとう。食事は美味しく戴きました。感謝します」と返信を送った。おかげで少し落ち着けそうだ。LINEを送り返して携帯を握りしめたまま、翌朝目が覚めるのであった

「今日も休みだって…」「そう。大事を取ったんでしょう?、ご両親もいらっしゃるし、心配要らないんじゃない?」「そりゃあそうだね。余計にストレスたまらないと良いけれど」「考えすぎよぉ真澄さん」「さきは足立君の母親の話を知らないからさぁ」「ン?何。」「昨日の態度で分かるでしょう?あのお母さん。個性強すぎでしょう?」「そうね。どうしてあんなに毛嫌いするのかしら?」「ねぇ…仕事で困ったりしないのかしら」「他人と触れないのかもね。研究者って言ってたし、神経質なんだと思うわ」「神経質で済ませられるレベルじゃないと思うよ?」「もうほおって置けば?他人様の家庭に口出ししてもどうにもならないでしょう?」「…うんそうだね」真澄は無理矢理頭から夕べの事を消し去った

「課長、足立君は今日も休みだって?」「ああ大浦部長、本人は熱も下がって昼あと出勤するって連絡があったんですが夏季休暇も残っているので休ませました。」「ああ良いね。足立君は働きすぎだ。頑張っているのは分かるが体調を崩すのはよろしくないからね。ゆっくり休養させると良いよ。」「はいありがとうございます。週明け頑張って貰いましょう」どうやら上司の命令で休みを取らされたようだった



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