第16話父の優しさ
正太郎は気難し顔をしている。「あのう何か?」さきは気になって声をかける「12,3歳の頃だよね。何となく覚えてるよ。僕は叔父さんの記憶が強いな。叔父さんが絵本作家になるのが夢だって話してくれた」「知ってるんですか、絵本の事。」「さきさんとお友達の話しだって言ってたよ。僕の名前を使って良いかいって聞かれて良いよって返事した。でも男のくせに絵本を書きたいって変だって言ったら寂しそうに笑ってた。すごく悪いこと言ったから今度会ったら謝りたいって思っていたんだ」「正太郎…」「紀夫さんはきっと笑って許すさ。」雄二が応える「傷つけた事に違いはない」「まだ子供だった君の言葉に驚きはしても傷ついたりはしないさ。」「そうよ。紀夫は優しいのよ。驚いたのは絵本を男が作るのは変だって思っていた正太郎の言葉だと思うわ」「あなたは子供だったのよ。それに今のように自由に考えてなかった時代だったわ」のぞみが笑う
「絵本は出版されているんですよ。主に保育園や、幼稚園とかで扱われていますが、一般の書店とかネット注文も出来るそうです」「紀夫の絵本が有るんですか?」「ええ。お持ちしました」さきは3冊の真新しい絵本を鞄から取り出した「まぁかわいい絵本ですねぇ。」「絵の方は出版社で手配したので知らない方ですが、お話は紀夫さんの作品です」「母さんほら」正太郎が絵本をとって渡す「紀夫…夢がかなったのね。」末子は絵本を抱き締める
「あらこれって…」「何だ?」3巻目には引越て来た男の子がさき達3人と、仲良くなる話である。その名前は正太郎である「叔父さん、ここで僕の名前を?」「でもちゃんと仲良くなってるわ」「素直じゃないところも良く書けてるじゃないの。本当は凄く優しいのにカッコつけて冷たくするところ今も変わってないわよ?」「おい他人様の前で…」「20年前のさきちゃんにも優しいお兄ちゃんしてたわよ?」「お母さんまで何を言い出すんだよ。」「ありがとうございます。優しくしていただいたんですね。私に記憶があればきっと嬉しい筈です。」「さきさん。可愛い妹だと思ってたんだよ。紀夫叔父さんも僕を甥っ子だって可愛がってくれたんだ。だから会えなくなった時に僕が変な事いったからじゃないかって凄く悩んだ…」「まぁ…正太郎そんなこと考えてたの?」「だってあの後訪ねて来なくなったでしょう?お母さんも心配してるんだろうなぁと思ってた。まさか行方不明だなんて。」雄二の差し出した写真は紀夫が写っていたが、大きく写っているものが少なくわかりにくかった「でも間違いないです。ここ写真は紀夫叔父さんと沙江子叔母さんと当時のさきちゃんです」「私も同じです。うちに写真が残っていれば…」「そう言えばあの写真はどうかしら?」「なぁに?のぞみさん。」「家族で撮った写真にこの紀夫叔父さんが写っていたじゃないの?」「そんなのあったか?」「紀夫さんが結婚する前の写真で少しふくよかな女性と一緒に撮ったでしょう?」「紀夫はさえ子さん以外の女性を連れてきたこと無いと思うわよ?」「ちょっと待って下さい。お持ちします」のぞみはリビングを出て末子の部屋へ向かった。10分ほどして戻って来た「この写真紀夫さんですよね?」「ええ。沙江子と紀夫ですよ」「さえ子叔母さんにしてはふくよかじゃない?」「見せて貰っても?」さきは身を乗り出した「どうぞ」のぞみから写真を受け取ったさきは驚いた「さえ子姉さん…」「さきちゃんどうした?」「これを」写真を渡された雄二だが、さえ子も以前の姿を知らずピント来ていない様子だった「あのおばさま、DNA鑑定をお願いしてもよろしいでしょうか?」「良いかもね。母さんさきちゃんとの縁戚関係を調べることが出きるよ」「そんなこと出きるの?」「私もお勧めしますよ。確率は高いそうなので」雄二も末子に勧めている「これでさきちゃんは紀夫の子供だって判るのね?さえ子さんにこれだけそっくりなんだから間違いないわよ?」「それでもお願いしてもよろしいでしょうか?」「構いませんとも」末子は快諾してくれた「検査キットが届き次第私達がお手伝いしますよ」「お手数をおかけしますよろしくお願いいたします」さきと雄二は夕方5時頃前野家を後にした「色々わかって良かったですね。おじ様」「ああでも何で今まで判らなかったんだろう。あの時調べるすべがなかったのだろう。悔しい。自分の非力が情けないよ」「おじ様、そんなことおっしゃらないでください。私は、今も記憶が戻っていないんですよ。私は誰を責めるつもりもありません。責める資格も有りませんから。」「さきちゃんそれは違うよ」「イイエおじ様。同じですよ、今だから判ることもあるんです。今だからこそ」「そうかもしれないねぇ」雄二は呟いて小さく頷く「検査結果が楽しみです」さきはできるだけ明るい声で囁いて笑った
「おじ様、末子さんが持っていた父と母の写真ですが、私が驚いたのは訳があるんです。」「以前、さえ子と言う名の姉がいると話しておじ様から預かった写真を見せたも清水の両親は似ているけれど思い込みかも知れないと言っていたとご報告しました。今日の写真に当時のさえ子の写真にそっくりなのがあったんです」「間違いないのかい?」「100%とは言えませんが本当に良く似てるんです。家に帰ってから清水の両親に見て貰います」「そうか…そうだと良いね」「はい」前野家で見た写真に驚いたさきは3枚の写真を持ち帰ったのだった。
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