第15話父の姉

あれから検査結果が出るまでの間、さきは父親西寺紀夫の姉の所在を捜すことにした。佐々木雄二にお願いはしたものの自分もじっとはしていられなかった。3日の年休を取り茨城県の南部と思われる地域を限定的に役所関係を回ってみた。まだ親子と判定が出来ないため戸籍などを簡単に見せては貰えないだろう。父宏の知り合いの興信所を利用して西寺紀夫という人物を捜し出して貰った。

西寺紀夫は取手市の出身であり、高校の卒業名簿にその名前を見つけることが出来た。同姓同名は、何人かいたが先に訪れた出版社で西寺紀夫の生年月日が手に入っているので年代で捜し出すのは意外に早かったようだ。該当者は運の良いことに3名に絞られた。一人目は当人が現れたて、全くの無関係と判明した。二人目も卒業生の住所が掲載されていたのでその住所を辿って住んでいた住所を佐々木雄二と共に訪れた。

「ここだね」雄二が呟く。その住所を3階建てのアパートが建っており築5年位だという「おじ様、この後どうしたら?」「聞いてまわるしかないだろうね。まずは土地の所有者だね」雄二は既に登記簿を手に入れてあったらしい「所有者には西寺の名はなかったんですよね?」「親戚関係かもしれないし購入したのなら前の所有者が誰かわかるだろう?」「そうですね。では所有者を訪ねてみましょうか?」二人は所有者の住所を訪ねた

「ごめんください。前野さんは、ご在宅でしょうか?」「はーいお待ちください」インターフォン越しに女性の声がする「どちら様でしょうか?」ドアを開けながら女性が身を乗り出す「突然失礼致します。私、清水と申します」「あら、沙江子叔母さん?」「はい?」「違うわね。そんなに若いわけ無いもの。」と呟いている「さきちゃん」雄二が声をかける「私は佐々木と申します」「はぁ」前野宅の女性は不思議そうに返事をした「唐突ですが、西寺紀夫さんをご存知でしょうか?」「紀夫さんは姑の弟ですが?」「姑?では今、こちらにお住まいですか?」「ええ。ただ今は出かけております。」「何時にお帰りでしょうか?」「さっき病院から戻ると夫から連絡がありましたからもうすぐ戻ると思いますけど中でお待ちになりますか?」「あのお姑さんはご病気なんですか?」「いえ、今朝方、部屋で転んで腰を打ったので心配して夫が病院で診てもらうと無理やり連れていったんです」「無理やり?ですか」「お義母さんは大丈夫って言ったんですが、夫は心配性で…」「母想いの立派な息子さんですな」「度が過ぎますけれど。でも仲の良い親子ですわ」「そうですか。では戻られる頃に再度お訪ね致します」「お待ちになりませんか?」息子の嫁と名乗る女性は中でも待っているように勧めてくれたが佐々木は突然の来訪なので改めると伝えて失礼することにした

「さきちゃん、ちょっとお茶でも飲もうか?」「はい」二人は近くのファミリーレストランにはいってコーヒーを頼んだ「驚いたねぇ。先方さんは、沙江子さんを知っていた。さきちゃんがお母さんに良く似ているからだと思うよ」「はい。西寺夫妻は前野さんに会ったことがあるようでした」「ああ、付き合いが今もあるのなら何か判るかも知れないね」「ドキドキしてきました。父方のおば様に初めてお会いするので…」「そうだね。あの時見つけていればもっと早くさきちゃんを捜してあげられたかもしれない。捜査関係者としては申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」「そんな-とんでもない事です。20年間ずっと捜していただいてありがたいです」「さきちゃん…」「誰も悪くないですよ?そう言う運命だったんです。だって現に私は皆さんと出会えました。父方の親戚にも会えるんですから。それで良いじゃないですか。」「…ありがとう…」雄二は頷いた

1時間程待って前野家を、再度訪ねた「ごめんください。」さきと雄二は扉の空いた玄関から声をかける「はーい。どうぞ上がってください」奥から先程の女性が現れた「失礼致します」二人は女性についてリビングへと招かれた「さえ子さんだわ…」椅子に座った女性が呟いた「突然お訪ねして申し訳なく思っておりますケガをなさったと伺いましたが、椅子にお座りになっても大丈夫ですか?」さきが声をかける「大丈夫ですよ。息子が大袈裟なんです。病院でも何の心配もいらないと言われたんです。みっともないから湿布だけ貰ってきたんですよ」「優しい息子さんですね。」「ところで何で今まで連絡もしてこないのに急にうちへ来たのは何が目的ですか?母に何を聞くんですか?」「と言うと今まで西寺さんと連絡取れていないんですか?」「ええ。20年前に顔を出したきりでずっと会えなかったんです。その前は時々家族で顔を出してくれてたのに紀夫は元気でいるのかしら?」「申し訳ない事です。」どこから話そうかしらさきは悩んでしまった「私から説明しよう。」雄二は何枚かの写真を並べて話し始めたた「おじ様ありがとうございます。」さきは雄二に任せることにした

雄二はまず名乗ることから始めた。そして20年前に事故か事件に巻き込まれ西寺夫妻が行方不明になったこと。さきは横浜の養護施設の前で単身保護されたこと。その時点で記憶障害があり、いまだに記憶は戻っていないこと。養父母に引き取られて清水姓を名乗っていること最近、佐々木の娘と偶然出会って西寺夫妻がさきとは別に行方がわからない事等。一方的に話す佐々木の言葉に前野家の面々は驚きと悲しみの表情であった「20年前に6歳じゃあ覚えていなくても不思議じゃないけれど、記憶喪失とは…さきちゃん不安だったでしょう?」前野家の長男の夫人のぞみが呟く「そんなことがあるんだ…」長男の正太郎も言葉がない「私は当時6歳でしたし、訳がわからないまま施設でひと月程過ごしてその後今の養父母に引き取られました。そしてとても大事に育てられました。大変なのがわからないままで。ある意味幸いしました」「そう…」伯母にあたる末子は弟家族が行方不明になったことにショックを受けていた。「届けを出そうとしたんです。あの時、もう半年経とうとしてたんです。そんなに行き来があったわけでもないので連絡がないのは元気でいるんだとばかり…」「母さんは悪くないですよ。うちの祖母がみっともないから止めなさいってさせなかったんです」「正太郎…」「私は後妻なんです。正太郎が1歳になるかならないかの頃に前妻が病気で亡くなりました。私はこの家で正太郎の面倒を見るために産まれて間もない頃から家政婦として働いて居たんです。」「そうだったんですか…」「僕にとってはお母さんはこの母だけです」「正太郎、それでは産んでくれたお母さんが気の毒だわ」「生母は生母だよ。でも僕は、お母さんに育てられました。僕のために父と結婚してお祖母ちゃんの世話をして、自分の子供は産もうとしなかった。」「それは違うわ」「父さんに聞いたよ。お祖母ちゃんが約束させたって」「何それ…」正太郎の妻のぞみが驚いている「良いのよ。この話はさきちゃんとは無関係ですよ。」

改めて雄二が今現在分かっていることを話した。「さきさんは記憶がない状況で幼馴染みとであったってことですよね?」「ええ私の娘ですよ。でも家族ぐるみの付き合いだったのでうちの家族と西寺さんと遠藤さん家族と本当に仲が良かったんです。良く泊めて貰ったり、遠足や運動会はいつも一緒で…ひとつの家族みたいでした。あんなに良い人が行方不明になるはずがないと捜索願いを出しましたが結局捜し出せなくて、当時の警察では見つからなかったんです。もと警察関係者としては悔しくて恥じているのです。」「確かにさきちゃんはあの頃のさえ子さんに良く似ているわ。正太郎も何度かあったことあるでしょう?」

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