第14話写真

さきははやる気持ちを落ち着かせながら写真を選んだ。出来るだけ大きく写ったもの、ハッキリ判る写真、枝里子や保が選んだ写真は笑顔の写真が多い。いつも優しく、ハッキリ分かりやすい言葉で話してくれたさきちゃんママへの想いがこもっていた。「こんなに色々して貰ったのに人違いだったらどうしましょう」さきの呟きに「まぁだそんなことを考えてるの?違うなら違うで良いじゃない?」あっけらかんとして枝里子は笑う「そうだよ。同一人物なら嬉しいけれど確率はそうそう高くないってわかってるし、そんな旨くいくもんじゃないよ。責任は感じないで欲しいな」「それは、清水さんのご両親を心配して言ってるのではないのかしら?」枝里子の母久美子が声をかける「そうだね。期待が大きいとその逆の結果だと…」保が頷いた「もっていき方だと思うよ」「父さん。例えば?」「行方不明の沙江子さとは言わずにこの写真の女性に心当りはないですか?みたいに聞いてみれば良いんじゃないかい?別人だとしても横浜に住んでいたのであれば何処かですれ違った可能性もあるだろう?」「成る程ね。横浜って言ってもすごく広いんだけどね。」枝里子は軽く頷き父雄二の言葉を軽く流す「さきちゃん、ものは試しって言うじゃない?別人でもイイエ別人の可能性が高いと思ってお話した方が気が楽よ」「ありがとうございます。おばさま」さきは本当にありがたく感じていた

翌日朝食をご馳走になって枝里子の車で駅に向かった「さき、急ぐこと無いよ?写真の件。」「枝里子さん?」「清水のご両親の心境が気になるでしょう?父さんは横浜に住んでいたのであればすれ違うかもとか案外近くに住んでたかもって言ってたけど現実的じゃないよ。余程じゃなきゃ覚えてないと思うよ?例えばさえ子さん友人だったとかさ。同じ名前だから覚えている可能性もあるけど」「そうね。でもねおじ様の言ってたもっていき方だと思っているの。情報はいくらでも欲しいはずだもの。今までに落胆した二人を見てきているからこそタイミングをみて話してみるわ。ありがとう」

「そうだよ。タイミングって大事だからね。」「枝里子さんも保さんとのタイミング逃しちゃ駄目よ?」「わかってる」


「只今戻りました。」さきが帰宅したのは昼過ぎだった「お帰りなさいさき。早かったわね?」「枝里子さんは保さんとデートです。」「あら、やはりお二人はただの幼馴染みじゃなかったのね?」「親も公認の幼馴染みからの結婚ってところでしょうね。私もおじゃまむしは嫌なので早々に引き揚げてきました」

「おや、お帰りさき」「お父さんただいま。お土産買ってきました。レモンケーキなんですけど」「レモンケーキか、懐かしいな。昔沙江子と良く食べたな…」「お姉さんとですか?」「良く作ったのよ?沙江子も大好きだった。おかげでふくよかになっちゃって高校生の時に私がぽっちゃりしてるのはお母さんのケーキが美味しかったせいね。美味しかったからしょうがないわって笑ってた」「良く言ってたなぁ。親のせいにするのかと思えば美味しかったからしょうがないとか笑ってた。優しい子だったよ。」「でもあれからは作らなくなりましたよ。女の子は、年頃になるとスタイルとか気になるでしょう?さきの時はあえて作らなかったわ。仕事が忙しくなったこともあったけれど。でも今度作ってみようかしら?」「ええ是非。」「まずはお土産を戴きましょうか?」「準備しますね。紅茶で良いですか?」「頼むよ」「じゃあお皿を取ってきますよ。」

「さあどうぞ」さきがお皿にのせたケーキを見て「このケーキどこで?」真理子が驚いている「枝里子さんの家の近く。駅前のケーキ屋さんで売ってるんです。結構人気があるんですって。」「そう…」何か思案げに真理子はフォークを手にした「頂きます」「美味しいですね。枝里子さんのお薦めだったんです。」「ええ美味しいわ。ねぇさき、このケーキを売っているのはこのお店だけかしら?」「さぁ。駅前の店以外に売っているか聞いてみましょうか?」「やはり似てるな。」「ええ。似ているわ。」「どうしたんですか?」「真理子が沙江子のために作っていたケーキに良く似てるんだ。見た目も味も」「まさか…そんな」「何か有るのかい?」宏が不思議そうな表情をしている「これを見てください」さきは思いきって先程選んできた写真を広げた「これはさき?違うな」真理子が震える指先で「あなた、この写真沙江子に似ていませんか?」「どれ?」宏が受け取って「さきかと間違える位だが沙江子の面影もあるなぁ。こんなにスマートになっていると本人かどうかわからんな。」「痩せても分かりますよ。沙江子です。あの子です」真理子は断言する「さき、この写真は、どこで手に入れたの?写真に写っている人はどこにいるの?」「真理子、落ち着きなさい、さきが驚いているじゃないか」「まさか…そんなことが」さきは驚き呆然としていた

「この写真は、佐々木さんからお借りしてきました。私の母と思われる人です」「えっ?今なんて…」「少し待ってくださいね。私も頭が混乱してしまって…」

さきは今現在分かっていることを事細かに清水の両親に伝えた「沙江子がさきの産みの親ってことなの?」真理子は信じられないという表情で呟く「そういう事になるな。」宏も重い表情で応える

「検査を受けませんか?DNA 検査を」さきがやっとの思いで口にする「そうだね。すぐにでも受けようじゃないか」「佐々木さんのお話では母はこのケーキ屋さんに勤めていたそうです。」「そうなのね。沙江子が提供したレシピかもしれませんねぇ」真理子が呟く。

それと父と思われる方についてとさきは昨日、佐々木達と出版社へ出向いたこと、編集者から父が絵本作家で、母沙江子と会ったことがあり、今のさきに良く似ていると話してくれた事、沙江子が横浜の静な場所で育った事を聞いていた事を伝えた

「間違いないのでは?」宏は口にしたが今までに落胆した回数を思いだしまだ、早いと自分に言い聞かせているようだ「さきが沙江子の娘なら私たちの孫娘なんだね、あの時の真理子の沙江子の面影があると言っていたが、まさか…まさか。だが今となればさきを引き取って本当に良かったよ。もし検査の結果が違うとしてもさきは私達の娘だよ。忘れないでくれ」宏の優しく愛情深い言葉にさきはただ頷くだけだった「さき…誰が何と言おうとあなたはあの時から私達の大事な娘よ。」真理子はさきを抱き締める「お父さん、お母さんありがとうございます。」そう言うだけで精一杯だった

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