第12話 編集者の想い

長崎が戻り当時の契約書を見せてくれた「これが父の筆跡なんですね」しみじみ眺めていると「そしてこちらが今までの原稿料です。行方が分からなくなって振込先が確認できなかったのでこちらで口座を作って振り込んできました」「そんなこと出来るんですか?」「今は出来ませんよ?当時に20年前は少し緩くて作家が口座を持ってないこと事もあったんですよ。それでこちらで準備して本人に通帳と印鑑を返すというか渡すというか…」「でもこれは私が頂くものではないと思います」「そう仰るかもと思っていました。名義を確認して下さい」「はい?」さきは何冊にもなる通帳のひとつを抜き出した「これは…」「あなたの名前ですよね?」通帳の名義はさきの名前だった「しかし…」「ええお父様はさきさんの名前で絵本を出しています」「私の名前で?」「オジさんの名前で絵本はチョッと恥ずかしいからって仰っていました」「はぁ…」「ペンネームってことね?」「そうですね。奥さまの名前でも良いんですよって申しましたらさえ子よりさきの方が可愛らしく聞こえるって話してました。その時傍に奥様がいらしたんですがおばさんで悪かったわねと言って笑ってました」「母が…」「さきちゃんパパらしいわ‼️」「枝里子さん」「先程から枝里子さんと仰ってますけどもしかしてさっちゃんとえっちゃんとたっちゃんの本人ですか?」「多分そうだと思います。」「仲がすごく良かったって聞いた記憶があります」「ご近所でしたから。いつも一緒でしたよ。たっちゃんの方は?」「元気でいます。今も近所に住んでいます」「そうでしたか…」「最後にお会いした時に確かお互いのご実家に顔を出すって仰ってましたけど西寺さんのご実家は?」「それが全く手掛かりがないんです。」「茨城の南部と聞いた覚えがありますよ。奥様は横浜でしたね。」「横浜ですか?」さきが聞き返した「ええ。横浜と言っても静かな所ですよって話しておられました」「そうですか…父は家族の事を何か話していましたか?」「ご両親は早くに亡くなってお姉さんに会いに行くと言っていました」「お姉さんがいるんですね?」「でも20年前もの話ですので今もご健在かは分かりませんよ?」「それでも訪ねてみたいと思います」「会えると良いですね。」「はい。本日は誠にありがとうございました。大変有意義な時間になりました。感謝申し上げます」さきは深々と頭を下げた

出版社を出て枝里子も車に乗り込んだ3人は黙り込んだ。

「今日は一緒に来ていただいてありがとうございました。こんなに色々な事が分かるなんてビックリです。おじ様、枝里子さん本当にありがとうございました」「まだまだ序の口よ。おばさんの事も調べなくっちゃあ」「はい。でもゆっくり自分で調べようかと…」「さきちゃん。枝里子は仕事があるが私は隠居の身でね。どこでも行けるよ?」「でも、これ以上ご迷惑をお掛けするには。」「私たちがあの時捜し出せればこんなことにはならなかった」「おじ様、それは…」「自己満足なのは分かっている。さきちゃんにとっては辛いことだと思う。でも紀夫さん達が何処かで元気でいるなら何故こうなったのか知りたいんだ。あんなに真面目で優しくて子煩悩な二人がさきちゃんをひとり残して行ったわけを聞きたいんだ。」「おじ様、私は知りたくないわけではありません。ただ皆さんに此処までして貰って、今度は自分で動くべきだと考えただけなんです。」「さき、父さんはもと刑事だし役に立つよ。私なんか足元にも及ばない経験と勘と機動力がある。私は通常の仕事があるから自由に動けないから父さんは適任者だと思うよ」「枝里子さん。」「私がさきを捜していたように父さんも西寺さんを、捜していたの。だから協力させてよ。保だって同じ気持ちだよ?うちの母さんだって…」「ありがとうございます。」「だからさ、ひとりでしょい込まないで私達にも手伝わせて欲しいんだ」「はい。どうぞよろしくお願いいたします」みんなが涙目で俯いてしまった。そこへ枝里子の携帯がなる「保だわ」一呼吸おいて「はい枝里子です」「俺。どうだった?何か収穫有ったか?」「うん大有り」「分かった俺今日そっちへ戻るから帰ったら詳しく聞かせろ」「分かった。じゃあ」そっけない会話にさきは驚く「保さんだったんですよね?」「そうよ。今夜は帰るから詳しく聞かせろってさ」「それにしたっておまえたち素っ気なさ過ぎだろう?」「だって夜に会って話すし。」「お二人は付き合ってるんでしょう?」さきの言葉に「そんなことないよ」枝里子は素っ気なく答える「幼馴染みなだけか?」「そんなこと話したこと無いもん。保はも何も考えてないよ」枝里子が答えると「お前は?」「私は別に…」「保君が誰か連れてきても平気なのか?」「平気も何も保が選んで連れてきてるなら良いんじゃないの?」「本当か?」「うん。私だって職場で声をかけられてるんだよ?」「ほう。誰からだ?」「娘の恋愛に口出しないのよ‼️」枝里子は前を見て車を発進させた。

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