第9話 それぞれの家族

久美子の話によるとさきの父親は西寺紀夫。母親は沙江子である。紀夫は食品会社の営業と配達を受け持っていた。時間があると絵本を書いていた。さきや枝里子や保を主人公にした話が3題有って寝る前のお話に良く聞かせてくれた。枝里子の父は刑事で捜査のために帰宅できない日もまま有ったそうだ。母は看護師で夜勤もあり残業で遅くなる時はさきの家で枝里子を預かって貰っていたそうだ。枝里子とさきは友達以上に仲が良かった。時には保もお泊まりしていた。保の両親は父は単身赴任のサラリーマンで、母は開業医であった。今と違って大きな病院が少なかったので急患で、呼び出されることがあったらしい。保は自宅で寝ていたのに目が覚めたらさきや枝里子のとなりにいて驚くこともあった。「急患がいたんだね…」落ち着いて呟く保を紀夫が「大人過ぎて驚いた」と感心していたらしい「そう言えば保って子供の頃から落ち着いてたよね?」「今のままですか?」「急患に対応するお母さんを良く見ていたんだろうね。だから預けられても仕方がないと思ったんだろう」「保君はお母さん大好きだったからね」「子供の頃は、お父さんが単身赴任で家に居なかったから紀夫さんが父親代わりしてたよ。キャッチボールしたり、自転車に載る練習したり」「そうだったんですね…」「保君は紀夫さんが大好きだったよ。」「さきちゃんママもお仕事してたよね?」「ええ駅前のケーキ屋さんでパートタイマーしてたわ。さきちゃんが保育園に預かって貰う時間にね」「ケーキ屋さんですか…」「美味しかったわよ。レモンケーキ。」「レモンケーキが一番美味しかったわねぇ。みんな大好きだったわぁ」「今もそのお店有るんですか?」「帰るとき連れていってあげるわ」「ありがとう。お願いします」「そう言えばさきちゃんパパの書いた絵本はどうなったの?」「どうなったのかしら?お父さん知ってる?」「確か契約は成立していたから出版はされてる筈だ」「販売利益は?」「そこは詳しく知らんなぁ」「調べたのよね?」「勿論捜査の対象になるから」「問題は無かったと記憶しているが…」「そうなんだ」「気になるのか?」「得をした人が居ないかと思ってさ」「確か紀夫さんの銀行口座があった筈だ。」「今も絵本の利益はあるんですかね?もう20年近いからどうだろう?出版社の考え次第でしょう?口座だって休眠口座になってしまったら金融機関に持っていかれますよ?」「そもそも出版されたのかも分かりませんし。」「題名も全く分からん」「変わってなければさっちゃんとえっちゃんとたっちゃんです」黙って聴いていた保が口にする「えっ?保知ってるの?」「1度寝ているところを起こされてさきちゃんちに抱っこで運ばれたとき俺目が覚めちゃったんだ。」「それで?」「さきちゃんパパが起きてて俺が眠れないならお話しようかって絵本を見せてくれた。」「まだ下書きなんだよって良いながら嬉しそうにー」「俺字を覚えるの早かったからちゃんと読めたんだ。さきちゃんパパが驚いてた。ゆっくりだけど読み上げたら、さっちゃんはさき、えっちゃんは枝里子、たっちゃんは俺の事だよって。勝手に名前借りてごめんねって言ってた」「俺は嬉しいって言ったらそうかいって笑ってた。」「初めて聞いたわぁ」「警察で話したよ?でもそのときの刑事さんもう覚えてないけどそうかぁ…ってだけだった。」「…申し訳ない保君」「おじさん、別に謝らなくても関係ないかもしれないし。」「少なくとも出版社を見つけることが出来たかもしれない」「そんなおおごとになるとは俺自身思っていなかったですよ。子供の戯言だし。」「それでも大事な情報だったかも知れないじゃないか」枝里子の父は警察関係者として残念で悔しい想いが顔に出ていた「取りあえず、ネットで調べてみようよ❗」枝里子の明るい声に皆が顔を上げる「上から取ってくる」「俺のを使え」立ち上がった枝里子を制して雄二がたちあがった「お父さん…」久美子が驚いている「どうしたの?母さん」「お父さんは、私がパソコン貸してって言ったら私の見たいとこだけ検索してから渡すのよ。他のページは見せたがらないの。かえって秘密めいてて嫌だったんだけど?」「浮気とか?」「そんな訳無いわよ。ほとんど家にいるのよ?町内会の会合とボランティア、買い物は一緒に行ってくれるし。どこで浮気するのよ?それに強面だし…」「今それ言う?」「そこが佐々木さんちの良いところよ❗」「母さん…」ずっと黙って聴いていた保の母真知子が口を挟む「もしかして僕は浮気していると思われてるの?」保の父洋介が参戦してきた。「疑っていないわ。結構まめに帰って来てたし。仕事がハードだったのは理解しているわ。単身赴任をさせたのは私だし」「えっなにそれ」

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