第8話さきの両親

「ここよ」佐々木家の駐車場に到着した「緊張します」「何か思い出せると良いけどね」

「ただいま-さき連れた来たよぉ」バタッと枝里子はドアを開ける「はーい枝里子お帰り」奥から母親の久美子が迎えに出てきた「お邪魔いたします」さきは玄関で挨拶をする「まぁ沙江子さん…」思わず立ちすくんだ枝里子の母親は「よく似てるわ。さきちゃん、ようこそ。会えて本当に嬉しいわ。良く来てくれたわぁ。お父さんさきちゃんよ」久美子の声が震えている「本日は突然泊めていただくことになってお世話になります」さきは落ち着いて挨拶とお辞儀をする「いらっしゃい。大きくなったねぇ。会えて嬉しいよ」奥から枝里子の父親雄二も現れた「お世話になります」「さぁさ、夕御飯にしましょう。お腹空いたでしょう?」「先に食べてて良いからって言ったのに」「だってさきちゃんと一緒に食べたいじゃない?」久美子と枝里子の他愛もない会話が仲の良さを感じさせる

リビングに通されてテーブルにはたくさんの食事が準備されていた。「作りすぎでしょう?」枝里子の言葉に「良いのよ。いっぱい食べて欲しいし、さきちゃんが何が好きか分からないから…」「お気遣い頂いてありがとうございます」さきは頭を下げる「ウウン、お向かいさんも声をかけたの」「余計なことを…」「枝里子、そんな言い方」「だってさきが緊張するじゃない?父さんなら止めそうなのに…」「枝里子さんありがとう。きっと子供の頃がそうだったんですよね?」「さき…」「あのぅ、申し訳無いのですが、私には当時の記憶がありません。ですから私が皆さんのご存知のさきさんとは限らないんです。ガッカリさせてご免なさい」申し訳なく話すと「事情は枝里子から聞いているよ。さきちゃんは不安だろうね?正直私も迷ったよ」雄二は頷く「はい、正直に申しますとこちらにお邪魔する事は場違いではないのか?もしも人違いだったらこんなに親身になって下さる皆さんをガッカリさせるのではないか凄く悩みました。でも枝里子さんからもしも人違いだとしても今から友人になれば良いと言われて少し気が楽になりました」「少しだけ?」「枝里子、さきちゃんの身になって考えてみろ。とんでもないプレッシャーだと思うぞ!」「そうよ。強引は駄目よ。でもね、私も間違いないと思うわ、当時の沙江子さんに良く似てるわ」「でしょう?父さんも驚いたでしょう?」「私は確証が取れるまでは頷けん」「頑固なんだから-」「無責任なことは出来ないだろう?枝里子、お前も気を付けなさい」「はーい。分かりました。でも強引なのは母さん達もそうだよね?」枝里子は久美子に抗議の目を向けた「こちらは職場の近くで人気の有る和菓子屋さんのお奨めなんです。皆さんでどうぞ」さきは清水家お奨めの菓子折りを差し出し「まぁわざわざありがとうございます。何て大人なご挨拶、しっかりしたお宅で育ったのね」「はい。とても大事に育てていただきました。有りがたいことです」「枝里子には到底出来ない気遣いだわ」「それを母さんが言うの?育てたのは母さんじゃない?」「まあね」軽い口喧嘩なのだが聞いていて楽しい会話である「仲が良いんですね。本当に親子って感じですね」さきの言葉に羨ましさが滲んでいる「さきちゃんも小さい頃は活発な女の子でね、沙江子さんはどっちかと言うとおっとりしてたのよ。お父さんも優しい方だったけれど筋を通す方だったわね。」「気難しい人だったんですか?」久美子は首を横に振った「ううん。違うわ。小さい子供でも分かるように言い聞かせる方だった。とても優しいお話を作ってたのよ。今度絵本になるって沙江子さんが嬉しそうに話してたもの」「絵本。絵本作家だったんですか?」「本業は食品会社の配達と営業だったけれど、絵本作家は夢だったって聞いたわ。夢が叶ったって喜んだ矢先にあんなことになって、だから絶対蒸発事件なんかじゃないってみんなで言って捜してもらったのよ。」「そうでしたか…」テーブル横の引き出しから箱を取り出した「写真も捜して見たの。昔の写真だから見辛いかもしれないけれど、是非さきちゃんに見て欲しくて」シロクロの写真と色があせたカラー写真と入っていた「ありがとうございます。是非拝見したいです」「おいおい。急がなくても良いだろう。さきちゃんも勤務後で疲れているだろうに畳み掛けるようにプレッシャーを掛けるような事をするな。」雄二はさきに負担がかからないように注意する「おじ様ありがとうございます。私は大丈夫です。気がせってしまうのは私も一緒ですので」「それでもだよ。今日1日で結果を出すつもりじゃないだろう?ゆっくりで良いんだ」「父さん…」「急いで見落とすことが合っては元も子もないからな。焦ってはいけないぞ枝里子」適格なアドバイスである「分かったよ。ありがとう。父さん」「今更だが私で役にたつことがあれば声を掛けてくれ。今の捜査状況は分からんが昔の事なら参考になるかもしれんからな」「ありがとうございます」さきは立ち上がって頭を下げた「ゆっくりしていってくれよ?」「ハイ、本当にありがとうございます」さきは有難い言葉を掛けてもらって本当に私がこの方達の知っているさきなら良いのにと心底思った。

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