第5話さきの話
「実は私、養女なんです」さきは一言呟いた「ええ」あまりに唐突の言葉に驚きが隠せない「先日は友人も一緒だったので話せなかったんですが、保護される前の記憶が無いんです。そして今も思い出せないんです」さきは苦しそうな表情をしている「記憶がない?」「ええ、信じて戴けますか?」さきは真っ直ぐに保を見る「そして佐々木さんより先に遠藤さんに連絡したのはあなたがドクターだったからなんです。あなたは冷静に受け止めてくれると思いました」「成る程。それで?全く何も分からないの?」保は医者として話を聞いてみることにした「はい。どうして横浜で保護されたのか両親が誰なのかも全く分かりません。」「横浜で?でも名前、この間誕生日も覚えてたでしょう?」「それは身に付けていたいた衣服、靴、小物にさきとひらがながついていたそうですから」「へぇ‥さきちゃんのお母さんならやりそうだ」「ポーチのなかにはバースデイカードが入っていてそこに名前と誕生日が書いてあったんです」「そうなんだ。でもご両親の事は?」「全く分かりません。手がかりがなかったので」「記憶がないのかぁ…うーん」そこまで聞いて保は考え込んでしまった。こりゃ枝里子の出番かな?ふと枝里子の顔が浮かぶ
「お二人の捜しているさきと言う女性はいつ頃居なくなったんですか?」「僕らが6つの時だよ」「時期は、会うんですね?」「そう思うよ。何より君があのさきちゃんのお母さんに良く似てるんだ。だからあの時、思わずさきちゃんママって思ったんだよ。20年近く立てば、子供の顔は変わるだろう?でも大人の顔はそうは変わらない。僕らが覚えているさきちゃんママの顔は、忘れないよ」「そうなんですねぇ。」「ねぇ今度良かったら僕らの住んでる街に遊びに来ない?」「記憶が戻るでしょうか?」さきは怖かった「あの聞きづらいことを聞いても?」覚悟を決めて「その西寺さんご一家は何かトラブルに巻き込まれたんですか?」「いやぁそこは詳しく分からない。でも西寺の、おじさんもおばさんも優しくて面倒見も良くて絶対悪い人じゃなかった」「でも突然居なくなったんですよね?いわゆる夜逃げでは?」「当時は近所の人や職場の人も凄く心配して捜してた。悪い事してたら事件になるでしょ?そんな話は無いよ」笑って保が答える「実は私自身もずっと自分の住んでいた場所を探していたんです。中学生になってから自転車で行けるところとかお休みの日に探してみたり、高校の時は電車にのって遠出してみたり今も連休の時はそうしているんです」「今のご家族は嫌がらない?」「はい。事情を理解した上で養女に迎えたので気にしなくて良いと言ってくれます。最も本心はわかりません。気の済むようにさせてやろうと言う気持ちかもしれません」「好い人達、家族だね」「はい本当に感謝しています」さきの言動を見れば大事に育てられらのは一目瞭然だった「今のご家族に引き取られる前は何処に居たの?」「横浜の養護施設です。私は、目が覚めたらその施設の前に毛布にくるまって寝てたんです」「そうなの…」あまりにもたんたんと話すさきの言葉に何処か他人事の話を聞いている気がした「君が、目を覚めた後は?」「施設の園長先生の部屋に連れていかれて色々聞かれたそうです。」「覚えてないの?」「まだ6歳の子供ですからね泣きじゃくって大変だったと思います」保護施設に子供独り残して蒸発する親が居るのは有りうることだ「施設の先生方はどうしたの?」「すぐに警察と区役所から人が来て色々尋ねられたんですが分からないの一点張りで困ってしまって専門のお医者様も来られてお話もしたようです。結局2日位その施設に居たんですけど3日目には今の養父母の家に引き取られました」「珍しいねぇ。知り合いだったの?迎え入れるなんて‥」「いいえ施設にやたら警官やら役所からの人が尋ねてきたので他の子供達が怖がって悪影響があるから他所へ移そうとなって児童相談所へ移す筈だったんですが清水の家で保護してくれることになって。」「さきさんはまたどこかへ連れていかれるのって怖かったんじゃない」「ええ、多分緊張したと思うわ」「不思議なのは養父母のいえに良く預けられたね」「そうよね。うちの養父母はその施設のスポンサー的な立場に居たのよ。今も支援を続けているの」「偉い人だな」「ええ、素晴らしい方たちよ。私の事も実の親が尋ねてきたら返してあげようと思ってた人だもの」「地元の名士とか…」「私が言うのもなんだけど神様みたいな人よ、どうやってご恩を返せるのかなって考えています」「いまは正式に養子縁組してるんですね?」「はい1年くらいは実の親が迎えに来てくれるかも知れないからって預かりにしてくれたんです。」「では情報は無かったんですか?」「時々、児童相談所の方や警察関係の方が来てくれたけれど全くありませんでした。最終的に1年半ほどして正式に清水の養女として手続きをしました」「学校にも通わなくちゃ行けないもんね」「ええ、学校へは清水で入学したんです。名字も判らなかったし」「そう‥大変だったね」「私は別に、でも清水家の人達は大変だったと思うわ、見ず知らずの子供のために色々な面倒な手続きをして私を養女にしてくれたんですもの。本当に感謝しかないわ」とさきは嬉しそうに答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます