ぬいぐるみは洗濯してはいけない?

kayako

だってテレビでそう言ってたんだもん!

 

 ぬいぐるみを洗濯してはいけませんよ。

 洗うと駄目になってしまう。それよりは、撫でてあげましょう。

 毎日毎日撫でてあげることで、埃も汚れも自然に取れて、きれいになるからね。



 ――それは、私が幼い頃に見ていたテレビで出てきた言葉である。

 確かクイズ番組だったか。ぬいぐるみをきれいにするにはどうすればいいのかという問題で、洗濯機で洗うか手洗いするか、もしくは大事に撫でるかの三択だったと思う。

 そして正解は上記の通り、『大事に撫でる』。


 私はずっとその言葉を信じて、


「ぬいぐるみって洗っちゃいけないんだ!」

「生きていると思って大事に大事に撫でていれば、それだけできれいになるんだ!!」


 と思い込み、大切なぬいぐるみたちを毎晩のように撫でていたものである。



 しかしそれから数十年が経過し。

 私はある時、彼と喧嘩してしまった。

 幼い頃から大事にしている、小さなクマのぬいぐるみ。それは一人暮らしを始めた今でもきちんと玄関に置いてある。

 でもそれを彼が、ダニの温床になってるなどとアホなことを言ってきたので、ちょっとした口論になってしまい。

 カッとなった私は、子供みたいに叫んでしまった。


「ずっと毎日撫でてるからきれいなはずだもん!

 テレビのクイズ番組で言ってたから間違いないもん!!」

「ちょっと待て。それ、何年前の番組だ?」

「うーん……〇十年ぐらい前、かな?」

「え」


 一瞬絶句した彼だったが。

 すぐにスマホを取り出し、『ぬいぐるみ 洗い方』で検索し、その結果を見せてきた。

 プリプリ怒りつつもそれを見る私。

 ――すると。


 ぬいぐるみの洗濯方法――実は、滅茶苦茶色々あった。


 手洗いがオススメされていたけれど、ものによってはタオルとネットでちゃんとくるめば洗濯機でもOKだったり。

 水洗いできない時は重曹を振りかけるとか。

 どうしても無理そうな時はクリーニング業者にお願いするとか。


 洗濯の前には撫でるようにブラッシングするのがおススメです!と書いてあるところもあったけど。

 少なくとも、「撫でるだけで他は何もしなくてOKです」なんて書いてあるところはなかった。

 なんてこった。私が〇十年ずっと信じてきたことが、全部ウソだったなんて。


 ボサボサ頭をかきながら、彼が呟く。


「ネットの情報全部が正しいとは言わないけど。

 だけど少なくとも、ずっと撫でてるだけできれいになる説よりは、信ぴょう性あると思うぜ?」

「……」

「多分、そのテレビ番組がやってた当時は、それも正しかったのかも知れないけどさ。

 洗剤だってぬいぐるみだって、人の知識だって変化してるんだ。時代が進むにつれて対応方法も違ってくるのは自然なことだって」

「…………」

「もしくはそのテレビ番組が完全に子供向けで、子供にも出来る手入れ方法を紹介していただけで、難しい洗濯方法は説明されなかったのかも知れないけどな」


 あまりの現実に、すっかり無言になってしまった私。

 そんな私の耳に、彼がそっと囁きかけてきた。



「ずっと撫でるんならさ……

 俺の頭にしてくんない?」



 あぁ。もう駄目だ。

 彼にこんな風に囁かれては、もう、完全にKOである。



 そんなこんなで、私は彼にも手伝ってもらい――

 大事なクマのぬいぐるみを、手洗いで洗濯してみた。

 大切に心をこめて、毛並みにそって優しくブラッシングして埃を払い。

 バケツに張ったぬるま湯で、やさしーく押し洗い。

 そして慎重にすすぎ、ほんのちょっとだけ脱水。

 バスタオルとドライヤーで乾かして、陰干しすると――



 クマのぬいぐるみは、見違えるほどキレイになった。

 心なしか、ぬいぐるみの表情までが明るく、さわやかになった気さえする。

 彼と二人でそんなぬい君を眺めながら、私は思った――



 ウン十年前にテレビで得ただけの知識を、闇雲に信じてはいけないと。



 Fin

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