8
交易所には旅人のための小さな宿があったが、既に満室状態だった。とっぷりと日が暮れると、あぶれた者達はそれぞれの天幕で野営の準備を始める。
辺境騎士団長一行も、夜の行進は避け、交易所にほど近い湖のほとりで野営をすることになった。
その辺で捕まえた野ウサギと、町で調達した酸味と甘みのあるマトマなどの野菜や、森に自生していたきのこに塩コショウを振ってから、蓋を落としてコトコトと煮込む。香ばしい香りが漂いはじめてきたところで蓋を開けると、濃厚でとろけそうな鍋料理のできあがりだ。昼に調達したパンをその煮込んだその汁につけると美味しくて、ミアは三回もおかわりをした。
昼間たくさん歩いたからかお腹が空いていた。
食べている間、じっとローラントに見つめられてミアは非常に気まずくなる。もしや口元に何かついているだろうかと拭ってみるが、何もない。
「そんなにわたしの顔が好きですか?」
冗談めかしてたずねると、ローラントはうなずいた。
「それもあるが、本当にうまそうに食べるなと思ってな」
さらっと爆弾発言をするものだから、ミアはついスプーンを落とした。
「落ちたぞ」
「……はい」
「言っておくが、好きなのは顔だけではない」
(どういう意味で受け取ればいいのかな……)
妙な空気がその場に流れる。クランは空の器を置き、咳払いをして立ち上がった。
「――さて、おれは水浴びでもしてきます。ベル、見張りよろしく」
「……別に構わないが、そこは男同士、団長に頼むべきでは?」
「男同士見張りあえっていうなら、アム坊も俺か団長が見張りに立つってことになるけどいいのか?」
ミアはぎょっとした。そんなことをすれば女だとばれてしまう。動揺するミアをちらりと見て、ベルは重たげに額をおさえた。
「ああ、もう。分かった。貴様もミアムも、私が見張ろう」
「悪いな。ベルが水浴びするときにはおれが責任もって見張り番をつとめてやるからさ」
ベルは勝手にしなさい、と言ってため息をついた。
水浴びといっても、誰も裸にはならない。武装を解いて手足を洗い、濡れた布で身体をぬぐう程度だ。夏ならば何も考えず水中に飛び込んだだろうが、春先の夜、まだ肌寒い。
ミアも皆にならい、冷えた岩の陰に隠れてベストを緩め、汗ばんだ胸元をふいた。サラシと板よりましになったとはいえ、締め付けているのは苦しい。つかの間の解放感に満ちた瞬間だった。
ミアは頭上を見上げた。
よく晴れた夜空には、幾千万もの星々がまばゆいばかりにきらめいている。
湖面は静かで、水面には星の海が映り込んでいた。ぬるい風が吹くたびにさざ波立って、きらめき揺れる星々を、ミアは不思議な心地で眺める。そこに色とりどりの花びらが舞い散って、水面を滑るようにひらりと落ちた。
それはまるで星空にぷかりと浮かぶ小舟のようで、寄る辺なく漂っていくさまがミア自身と重なって見える。
ベルに先に戻るよう伝え、完全にひとりになったところでレイ・クォーツに聖歌を吹き込んだ。ひそやかな歌声は湖をすみかとする小動物たちを眠りへといざなうが、焚火を囲むローラント達が眠る気配はない。
(よかった。聞こえてなかったみたい)
身繕いをしてから皆のところに合流すると、副官二人は疲れていたのか、早々に寝たらしかった。天幕内の灯りは消え、代わりに焚火が緩やかに爆ぜている。夜だというのに、うす明るい。
ローラントはひとり、湖のほとりに横たわる、朽ちかけた大木に腰かけていた。
黒いインナーシャツがしっとりとした肌に張り付いて、よく鍛えられた身体の線が露わになっている。滲む汗を手ぬぐいで拭い、深く息を吐いていた。
その身体の周りに、冷たい気がゆらりと流れる。彼の魔力の性質――氷である。
ミアは彼から目が離せなかった。
その凛々しく美しい横顔を見つめている間は、時が止まっているかのようだ。
きっと、レイ・クォーツを渡すなら今しかないのだが、声をかけたら、全てが溶けて消えてしまいそうな気がして足が竦む。
それに、真価を知らない以上、不純物の入っている水晶を渡されても迷惑なのではないか?
(そんなこと考えていたら、何も進まないじゃない!)
ミアはかぶりを振って、ポケットにしまった水晶を撫でた。
これは間違いなく価値があるもので、断じてゴミではない。ピアニッサで売れば高く売れる。ローラントの損にはならないはずだ。
――ミアのレイ・クォーツは、他でもない、ローラントに持っていてほしい。
とにかく渡そう。
毎日やさしくしてくれて、守ってくれるローラントに、少しでも何かを返したい。
それだけ。
他意はない。
ミアは高鳴る胸をおさえつつ、思い切って声をかけた。
「調子はどうですか?」
声が裏返る。ローラントは振り返って小さく笑い、隣に座るようぽんと大木を叩いた。おずおずと近づくと、そのまま腕を引かれて横に座らされる。
(近い……)
心臓が破裂しそうなほどに逸っている。
副官たちを起こさぬための配慮か、ローラントが耳元でささやいた。
「身体が冷たいな。隙間があっては寒かろう、もっとくっつきなさい」
逞しい腕でミアを抱き寄せ、薄い毛布を二人の肩に掛けた。その瞬間、ミアは身体が一気に火照った。
「このほうが温かいだろう」
「はい。ありがとう、ございます……」
ミアはしどろもどろに返し、自分の目的を見失いそうになる。
「ローラントさまは、一晩中こうされているのですか?」
「何だ、突然」
「――……眠れないのでしょう?」
「気付いていたのか」
ローラントは揺れる炎をじっと見つめたまま苦笑した。
「気取られないようにしていたつもりだが、よく見ているな。お前と出会ってから不調はなかったはずなのに――」
「……ベルからもらったお薬は飲みましたか?」
ああ、とローラントは額を抑えてつぶやいた。
「忘れていた。ここ数日は調子が良いからな。頭はすっきりしていて身体は軽いし、力がみなぎってくる」
ミアはふと肩の力を抜いた。少なくとも今この時、ミアがローラントから攻撃されることはなさそうだ。
「それも、数年ぶりにまともな睡眠をとったおかげだろう。眠りがいかに大切か思い知るばかりだ」
「数年ぶりって……一体どうして?」
数年にわたって不眠をわずらうなど異常だ。込み入った事情がありそうだった。
「俺だけは眠ってはいけないという……――愚かな
「呪い?」
「ああ。――もう二度と、失わないための戒めだ」
何があったのか、正直、気になる。気安く踏み込んでいいのか分からない。触れるべきか、そっとしておくべきかミアは悩む。
それが顔に出ていたのか定かではないが、ローラントはぽつりぽつりと話しだした。
「五年ほど前のことだ。まだ、騎士団長になる前――俺は初めて、小隊長を任された……――」
†
――……一個小隊二十五人。
それを率いた当時、ローラントは十九歳の若造である。まだ氷槍はなく、武器を粉砕しては上官から叱られていた。
十五で騎士となったとはいえ、出自は貴族。侯爵家の三男で、その人脈を駆使して小隊長まで押し上げられたのだろうと周囲からみなされていた。実際のところは今となっては確かめるすべはないものの、多少の配慮はされていたのだろう。
誰かの下につくことはあっても、上に立つことがなかっただけに、期待と重責が波のように押し寄せていた。
所属は沿岸部辺境。哨戒任務についていた。任期は一年。冬の終わりに始まった。
その頃、数多の異人が海を渡ってきていた。新たな貿易相手を探すものがいる一方で、武力を振るってフォルデを制圧しようと企むものも少なからず存在した。
侵略者を上陸前に討つために、昼夜を問わず交代で沿岸部を見回って、ローラント達は監視の目を光らせた。
小隊は三つに分け、最低でも二つの部隊に見張りをさせて残った部隊は休息をとる。
そこに、沿岸部辺境が独自で雇った傭兵も加わっていた。
傭兵は戦いの
敵の急襲にも慣れており、戦場では相手の行動を読むことに
それでも新米隊長だったローラントは傭兵たちが実に頼もしく見えたし、戦いの予兆が見えるとすぐさま彼らに相談をした。中でも一番信頼していた男がいる。彼は物心ついた時から傭兵だったらしい。的確な指示、迅速な対応――全てがローラントの上をいく。慕わずにはいられなかった。彼に憧れすら抱いて、いずれはこんな風になりたいとまで考えていた。
任期が終わって移動になったとしても、彼とのつながりは続いていくのだろうと信じてやまなかった。
――それなのに。
ちょうど、任期が終わる前日。
仮眠をとっていた組と交代し休憩に入ったところで、事件は起きる。
ローラントは限界を感じつつもぎりぎりまで休息を取らず、なるべく現場で指揮をとっていた。隊を率いる己が頻繁に休めば配下から何を言われるか分からない。舐められ、侮られるのだけは我慢ならなかった。常に気を張っていて、かと思えば突然糸が切れたように寝た。あまりにも極端だった。
――ひたすらにガキだったのだ。
誰もローラントに対して適切な休息を進言しない中で、彼だけはローラントに言った。
「現場はオレが見ているから、眠るといい」
ローラントはぼんやりする頭で頷いた。
「すまない。言葉に甘えて寝るとする」
「そうだ、これを一杯やっとけ。いい夢見れるぜ」
差し出されたのは無色透明の液体で満たされた小瓶だった。
気持ちよくなってすぐ眠れると傭兵は笑う。そんなものがなくとも即眠れそうだったが、兄貴分からすすめられると断るのも気がひけた。
礼を言って一気に飲み干す。
「お前にならば、安心して任せられる、……」
そう言って床につくと、泥のように眠った。
彼を疑う理由など、この時までどこにもなかったのだ。
どのくらい寝ていたのか、頬にぬるい飛沫が落ちてきて、ローラントは目を覚ました。
木造の古びた駐屯所だ、どこかで雨漏りでもしているのだろうとゆっくり起き上がると、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
声が聞こえた方向は駐屯所の二階。駆け付けると、目を覆いたくなるような惨たらしい光景が広がっている。貫通する刃。血だまりに沈む躯。生気の消えた目。
――共に休憩に入った部下がもの言わぬ屍となっている。
一体何が、と呆然としていると、背後から太い腕で首を絞められる。
「もう起きちまったのか、ぼっちゃん。オレが見ていると言っただろう! おとなしくねんねしてな!」
「貴様……っ」
「眠っていれば、お仲間と一緒にいかせてやる」
その傭兵はローラントが眠ると同時に小隊を裏切った。フォルデ側よりも高い報酬を敵から受け取っていたようで、内通して岸辺の洞窟に敵船を隠していたのだ。小隊の三分の一が傭兵に懐柔され、現場を放棄して敵側についた。
ローラントが目を覚ました時には部隊は崩壊していた。生き残りはローラントを含めてたった三人。
敵船から次々と武器を手にした者達がなだれ込んできた。つい先ほどまで仲間だったものが、殺意をもって襲いかかってくる。彼らは日ごろから若くして小隊長に抜擢されたローラントに不満を抱いていたようだ。大した力もないガキが、親の七光りでその地位についた若造のくせにと、罵詈雑言の嵐、罵倒の言葉は際限なく出てきた。
手ひどい裏切りに衝撃を受けつつも、ローラントは敵の攻撃に対処しなければならなかった。
多勢に無勢、孤立無援で疲労ばかりがたまっていくなかでの戦いは容易ではない。
結果、部下と共に敵に捕まり、一人はローラントの目の前で拷問を受けた末に死んだ。
次はお前の番だ、と下卑た笑みを浮かべて敵が迫る。部下共々、四肢を拘束されており身動きが取れない。
なすすべがないなかで、むざむざと部下を喪った悲しみと怒り、己の不甲斐なさへの憤りが渦巻いていた。
あの時眠らなければ、傭兵の寝返りを許すことなく、任務を終えられたのではないか。
――このままやられていいのか?
手足の拘束具が熱い。
いや、熱く感じるだけで実際はそれと真逆の反応を示している。
ローラントの周囲の床が見る間に凍りつく。近寄ってくる敵はことごとく氷に足を滑らせて転んだ。その隙にありったけの力を込めて拘束具を無理矢理破壊すると、一転攻勢に出る。
凍った床面に足元をすくわれて思うように動けない敵を、クモの巣にかかった哀れな虫を捕食する要領で潰していく。屈強な兵士を蹴り飛ばし、転がっていた武器を拾って次々と敵を倒し、ローラントは部下と二人で敵勢を制圧した。
裏切りの傭兵をぶちのめそうと辺りを見たが、敵を手引きした後で消えたらしかった。
――それ以来、ローラントは不眠症である。
自分の未熟さ、判断の誤り。
眠りによって再び無惨にも誰かを喪うことになったら。
自分の過失だけではないと頭では分かっていても、常に警戒態勢を取っていなければという強迫観念が根付いていた。その結果、眠れない。その、悪循環――……。
†
話を聞くに、想像したよりもずっと深刻な不眠症で、心が痛む。ミアは詰めていた息を吐きだしてささやいた。
「……眠れないのは、辛くない?」
「最初は辛かったが、もう慣れた」
「慣れた?」
「ああ。不調だ、などと言っていられないくらいに忙しくなったし」
「眠りたいと思いませんか?」
ミアの声と同時に焚火がはぜた。
たとえ薬を飲んで整えていても、表面上は何ともないように見えても。
苦しく、辛いはずだ。
そんな状態でミアを庇ってくれている、やさしくしてくれている。
(望むのなら、正体がばれたとしても……――ここまでくれば、ひとりでもきっと大丈夫だろうし)
ローラントの瞳の中に、揺らぐミアの姿が映り込む。
以前は裏切りものが近くにいたが、今はどうだろう。クランもベルも、ローラントを慕っているし、互いに信頼しているように見える。眠っても大丈夫、最悪、ミアが聖歌をうたい続けていれば誰もローラント達を傷つけられない。
あなたのせいではない、と言ってあげたい。それから、何の心配もなく眠らせてあげたかった。
――願えば、一瞬で夢の世界にいざなってあげる。
きっとそれが一番、彼への恩返しになるだろうから。
ローラントはしばらく考えてから、おもむろに口を開いた。
「……眠り、か。せっかく忘れかけてきた心地よさを再び刻み付けられると、そういう欲が湧いてくるのは確かだ」
「じゃあ――」
ミアが言う前にローラントは自嘲した。
「……この先もどうせ眠れるわけがないのにな」
「分からないじゃないですか。ナイチンゲールが現れれば……」
「……すまない、ミアム。ナイチンゲールの話はもうやめよう」
ローラントは重たげに額を抑えてため息をついた。
ミアは虚ろな瞳で炎を見た。心がえぐられるように痛む。
ローラントは、ナイチンゲールを求めているわけではないのだ。眠れるとしても頼りにしたくないし、その名をもう口にしたくない――それほど嫌われているのだろう。
追っているのは指輪を悪用されたら困るからで、捕まえたら即処すつもりなのだ。
――当然だった。
どんなに努力しても眠れない男を深い眠りに落として煽っただけ。ふたたび出会えなければもう二度と眠れないのに、安易に安らぎを与えたのだ。なんという残酷さだろう。
そんなナイチンゲールに彼が屈辱と怒りを抱くのは何もおかしくない。
しかも、ミアはいずれ彼の元を去ると決めている。中途半端な情けは無責任だろう。
(結局、わたしは役立たずだ……)
腹の底がきゅっと絞られるような心地がした。
「つまらない話に付き合わせてしまったな。それよりも、お前の話が聞きたい」
「お話できるようなことは何も……」
言ってから、ポケットに忍ばせた
「……そういえば、お渡ししたいものがあるのです」
きょとんとするローラントに、ミアはおそるおそる水晶を差し出した。
「交易所で見つけたので。気に入っていただけるといいのですが……」
ローラントは破顔した。
「……っ大切にする。嬉しいよ、ミアム。一生の宝物になった。気を遣わせてしまったな」
心底嬉しそうに言ってから、ローラントは強くミアを抱きしめた。しっとりと汗ばんだ肌は熱く、冷えたミアの身体を包み込む。その鼓動はやけに早く、ミアに伝染した。
「……いえ。他に、お返しできるものが何もないので」
「そんなことはないだろう。ネクタイだって結べるし、音楽が得意だと言っていたじゃないか」
「おぼえていたのですか……」
ミアは身を竦ませ、ため息をついた。
「何か聞かせてくれ。楽器が必要か?」
「いいえ。……では、歌います」
ミアは風のなかでささやくように歌った。
ピアニッサに伝わる子守唄だ。
聖歌ではないにせよ、ミアがこれをうたうと町の赤子はよく寝た。
透き通るようなソプラノが静かな湖面に甘く響く。それは水晶のように純粋で透明な音色をしている。ミアの自慢は神や精霊すら酔わせるその高音。清水のように澄んでいて、甘く深い声だ。
ローラントは、目を閉じてミアの歌に耳を傾けていた。
歌い終わると、ローラントは苦笑を浮かべた。
「……何もないなどと二度と言うな」
「え……?」
「あまりの神聖さに魂ごと洗い流されそうだった。本気で浄化されるかと思ったぞ? お前は、素晴らしいものを持っている」
「……そう、でしょうか?」
ミアはドキドキしていた。
お世辞であってもうれしい。
これまで、そんなことは言われたことがなかった。
歌い手だから、歌が上手いのは当たり前。
『できて当然のことができない、魔物の一体も仕留められない。何の実績も残せない。いてもいなくても同じ――そんな歌い手、本当に必要かね? 俯いていないで何とか言ったらどうだ?』
神官にせせら笑われてばかりだった。
ミアを見つめるローラントの瞳は、熱を帯びて揺らいでいる。そこに映るミアは儚げで、うつろう影のように不確かな存在だった。
「またいつか、俺だけのために歌ってほしい。お前の歌を聞くと……――力が溢れてくるんだ。だから、俺だけの特別なものにしたいというか……。嫌ならたまにでもいい。お前が傍にいてくれることが俺の力になるから」
「わたしの歌が好き?」
「好きだ。――好きだよ、ミアム」
(ああ……)
ミアはどうしようもないくらい、胸が締め付けられた。
――好きだ。
恋をしたことは一度もないが、ローラントの言葉が、特別な意味の込められたものだということくらい分かる。
ローラントが求めているのはミアム少年と、ミアムの歌だ。
嘘つきなミア・セレナードではない。
残酷なナイチンゲールは望んでいないし、そもそも女子は対象外だ。
当のナイチンゲールに対して臆面もなく好きだと口にして、やさしくするローラントが恨めしい。
つい、涙が溢れてきそうになる。
――応えられない。
ナイチンゲールだと露見すれば、ローラントに冷たい眼差しを向けられるだろうから。
何も、告げてはならない。
彼を愛しいと思っても、その腕の中で抱かれるのを心地よいと思っても。
その愛情を受け止めていいのは、ミアムだけ――自分が作った、少年の虚像だけだ。
(わたし、馬鹿ね……)
潤んだ瞳を両手で隠し、ミアは声を震わせて返す。
「……歌。歌が、好きなのでしょう?」
ローラントは咳払いをした。
「…………そういうことにしておく」
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