無人島に一つだけ持っていけるなら何を持っていく?でぬいぐるみを選んだバカの末路

小エビのサラダ

プロローグ 

 無人島に1つだけ持っていけるのなら、みんなは何を持っていくのだろうか。


 一般的なところでいくと食料、水、ナイフ、サバイバル本、ライターなどを思い浮かべるだろう。これらはどれも、無人島で生き抜くために必要な物資である。


 しかし、人によってはマニアックなものを選ぶことがある。例えば、恋人だとかゲームだとか。


 恋人を無人島に巻き込むのはどうかと思うし、ゲームも充電が切れたから終わりなのだから、これらを選ぶ奴ははっきり言ってアホだと思う。


 しかし、ゲームだとか恋人だとかよりも馬鹿げたものを選ぶ奴が存在したので、みんなに紹介しようと思う。


..................................................................


「今から君たち30人には、無人島へ行ってもらう」


 この日、とある高校の3年1組に所属していた30名が突然教室に現れた何者かによって無人島へと連れ去られた。


 いわゆる、クラス転移という奴である。


 クラス転移というからには、やはり何かしらの特典がつきもの。


 3年1組に所属していた彼らには、何か一つだけなら、なんでも無人島に持ち込むことが許されたのである。


 そうしてそれぞれが物を選び終わると、彼らは広大な無人島へと放り出された。


 突然知らない土地に放り出されるだけでも不安なのに、ここにはスマホもなければお金を使ってご飯を食べることすらできない。


 3年1組の彼らは、軽いパニックを起こした。


「さて、みんな落ち着いて! ひとまず、みんなが持ってきた物の確認をしようじゃないか!」

「あ、あぁ。それもそうだな」

「そうね……焦っても仕方がないし」

「さすが天馬くん!」


 そんなパニックをすぐに鎮めてみせたのが、学年1番のイケメンで人気者の天馬正義である。やはり陽キャの影響力は計り知れないな。


 そんな天馬の主導で、全員の持ち物確認が始まった。


「俺はナイフだ!」

「俺はライターを持ってきたよ」

「私はお水!」

「私は石鹸!」

「私は……」


 ナイフ、ライター、水、石鹸、食料などなど。たまに微妙な物を選んだ奴もいたが、殆どみんなが生活に役立つ物を持ってきていた。


 電波がないのにスマホを持ってくるやつとか普通はいそうなものだが、こいつらは優秀である。


 そうして持ち物チェックは続き、30人のチェックが終わった。ようやく、最後の1人の番である。


「じゃあ、最後は人形君だね。人形君は何を選んだの?」

「太郎」

「……は? ぬいぐるみじゃないか」


 そこからは怒涛の展開である。自己中心的な考えで他人のことも思いやらず、欲望のままに自分の娯楽品を持ってきたということでこの人形という少年はクラスからハブられ、追放され、ぼっちとなった。


「ふふふっ。太郎、2人だけになっちゃったね……でも安心して、太郎のことは僕が守るから……」


 ぼっちとなった少年、人形はどうやら少し頭がおかしいらしい。当たり前のようにぬいぐるみを1人の人間としてカウントし、返事もないのに会話を続ける。この様子では、まともな物を持ち込んでいてもいずれは追放されていたことだろう。


 しかし、人形に落ち込んだ様子はない。


 くまのぬいぐるみにキスをしたり撫でたりしながらも、無人島の広大な森へと足を進めていった。


 しばらく無言で森を歩いていた人形は、突然立ち止まるとぬいぐるみと会話を始めた。


「ん? どうしたんだい? 太郎。 あぁ、お腹が空いたのか。待っててね、今僕がご飯を用意してあげるから」


 そして、ご飯を用意してあげるとぬいぐるみに話しかけた人形は、恐ろしいほどの速さで入り組んだ森を駆け回り、山菜やキノコを確保し、川で魚を捕まえ、水も濾過装置を使って確保し、2人分の食事を作ってみせた。


「ふ、ふふ。太郎、びっくりした? 実はね、太郎とどこへ行っても生きていけるように、こっそりサバイバルを学んでたんだぁ……。え? すごい? 僕がすごいって? ふふ、ありがとう太郎」


 そう言って、人形は嬉しそうに笑った。


◇◇◇


 人形が余裕そうに太郎とのサバイバルを満喫している中、3年1組ではとある人物の独白が始まっていた。


「あのさ……実は、方位磁石を持ってきたって言うの、嘘なんだよね……」

「は? どういうことだい?」

「ほ、本当にごめん! 本当はサバイバルの達人を持って行きたいって願ったんだけど、持って来れなかったみたいで、私何も持ってなくて。でも! そんなこと言ったら怒られるかもって思って、つい……」

「だったら、もっと早く言えよ! これじゃあ俺たち、どうやって仮拠点に戻るんだよ!」

「ひっ! ごめんなさい!」


 どうやら、方位磁石を持ってきたと言っていた女子が嘘をついていたようだ。


 このことが原因でクラスの雰囲気は悪くなって行き、やがていくつかのグループに崩壊していくことになる。


 しかし、サバイバルの達人か……私の頭には、彼の顔が思い浮かんだ。


◇◇◇


「おやすみ、太郎。今日は学校を休んで家にいたのにいきなり無人島に連れてこられて大変だったね。でも、これからもずっと、僕が守ってあげるからね……」



 

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