3-3 二人は一人
もう一人の少女についての真相を明かそうとするミルトカルドは、ユシャリーノにお願いをした。
「瞬きしないでしっかり見ててね!」
「そんな……いくら俺に見せるためとはいえ、しっかり見ることなんてありがたいけどできないよ」
ミルトカルドは、目を合わせないユシャリーノの視線を辿った。
「ちーがーう。太ももじゃなくて、この子をよ」
「あ、はは、ははは。そ、そうだよな……ごめん」
「別に見てもいいけど、あとでね。今は太ももだけじゃなくて、私をちゃんと見て」
ユシャリーノはだらしなく照れた顔をしつつ、改めてジッとミルトカルドを見た。
すると、まだ名前を聞いていないもう一人の少女が――消えた。
「はっ!? き、消えた……」
「あのね、私は分身ができる異能者なの」
「ぶんしん……」
「私が一人増えちゃうの。でもね、どっちも私だから二人だけど一人」
「――えーっと、もう一度」
「あはは。ピンとこないわよね」
各地では、まれに能力を持った者が生まれる。
彼らは異能者と言われ、多くの人々より高い能力を持って生まれるが、その理由は未だにわかっていない。
人々は、自分たちが認識できないことに対して、いつも不安を抱いている。
その不安が膨らんでしまうと、自己保身の本能が発動し、周囲に対して偏見を持つようになる。
そして、多数派の圧力で少数派を抑え込んでしまう。
現状、少数派である異能者は、肩身の狭い思いを強いられている。
ミルトカルドが異能者について説明すると、ユシャリーノは声を荒らげた。
「なんでそんな目に遭わなきゃいけないんだ!? 能力のある人が全員悪人だって言うのかよ!」
ミルトカルドは憤慨するユシャリーノに驚き、体をびくりとさせて後ろに引いた。
ユシャリーノは、その反応に焦ってすぐに謝る。
「あわわわわっ、大きな声を出してごめん。びっくりさせちまったな」
「す、少し驚いたけど、だ、大丈夫」
今まで女の子と接する機会が無かったユシャリーノでも、さすがに頬をひくつかせて返事をする女の子が大丈夫だとは思えない。
「驚かせる気で言ったわけじゃないんだ。人のことを、やみくもに決めつけるってのが許せなくてつい……ほんと、ごめん」
頭をペコペコと下げているユシャリーノを見たミルトカルドは、やんわりとした笑みへと戻した。
「ユシャリーノが私を白い目で見てしまうかもって心配していたの。でも、違っていたことに驚いてしまって」
「ミルトカルドを白い目でみる理由はないな、肌は白いけど……コホン。俺に対して敵意が無ければ誰だって味方さ。むしろこんなに可愛い人が付いてきてくれるってことの方が心配だ」
ミルトカルドは、おもむろに両腕を伸ばしてユシャリーノの片手を掴むと、両手で包んだ。
「受け入れてくれて、とってもうれしい! 私、あなたに尽くします。絶対に離れないから、何でも言い付けて欲しい」
ユシャリーノは真っ赤な顔をするしかなかったが、目を潤ませてじっと見つめてくるミルトカルドからの本気を感じ取り、言葉を返す。
「君の気持ちはよくわかったよ。わざわざ勇者に会うために訪ねて来たんだ、それも女の子が一人で。ここで何もしなかったら勇者失格だ。未知数だらけの勇者だけど、それでもよければ歓迎するよ」
「君だなんて言わないで」
「ミ、ミルトカルド、実は俺さ、その……めちゃくちゃ照れている最中なんだ」
急に目を合わせられなくなったユシャリーノは、二人のミルトカルドに囲まれた。
「お、おい……」
「照れてくれるのとってもうれしい。それは受け入れてくれた証拠だもの。私の方こそ足を引っ張ってしまうかもしれないけれど、ずっとそばに居させてください」
一人の少女から二倍の気持ちを注がれる十六歳の少年と、想いを倍にできる十五歳の少女が心を通わせ合った。
もしかしたら、互いが独りぼっちであるが故の慰め合いなのかもしれない。
どこかでそんな不安を感じつつも、ユシャリーノは、二人だけの時間がなぜだか心地いい。
言葉を交わさなくても、お互いが共感し合える不思議な絆が生まれている。
ユシャリーノにとって、考えもしなかったパーティーが突然にして自然に誕生した。
「待てよ……でもさ」
ユシャリーノは、目だけを空へ向けて言う。
「勇者のパーティーに入ったってことは、ミルトカルドは勇者なのか?」
「勇者に会うために一人でここまで来たんだから、私だって勇者よ!」
その日の頂点から下り始めた太陽に心の中で『まぶしいぜ』と呟いてから、ユシャリーノは視線をミルトカルドに戻した。
「確かに。どんな奴かもわからない勇者に会いに来るのは、勇者だな」
「でしょ?」
「細かいことは考えても仕方がない。勇者に会おうとして、勇者に会うことが出来ているミルトカルドは勇者だ。俺が認める」
「やった! リーダーに認めてもらっちゃった」
「りーだー?」
「そ。ユシャリーノは、私たちのパーティーを束ねて動かす人。一番偉いから、リーダー」
「何もしていないのに偉いのか? よくわかんねえけど……ミルトカルドがいいなら、いいか」
「ふふふ。なんだか私が一番偉いみたいね」
「だな」
二人は、声が空に届きそうな家の中で笑い合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます