君とつながるぬいぐるみ

景綱

第1話

 僕は見てしまった。とんでもないものを。



 公園のベンチに置かれたぬいぐるみがふたつ。花束を持ったウサギのぬいぐるみとワインボトルを手にした猫のぬいぐるみが、向き合いニコリとしている。まるで、お祝いでもしているみたいだ。

 誰かの忘れ物だろうか。それともオブジェなのか。

 ぬいぐるみのオブジェ? そんなものがあるだろうか。ないとは言い切れない。言い切れないが、やはりオブジェってことはないだろう。


 まあいい。気にするな、行こう。

 歩き出して、すぐに足を止めた。なんだろう。妙に気にかかる。あそこに置かれたぬいぐるみが、どうしても気にかかる。微かに聞こえる声のせいだろうか。見渡す限り、人の姿はない。それなら、何だという。

 ぬいぐるみが話しているとでもいうのか。馬鹿を言え。そんなことありえない。


 ごくりと生唾を飲み込み、公園の入口へと戻り凝視する。

 ぬいぐるみが話しているのか。よく聞いてみろ。口は動いているか。よく見てみろ。もしもそうだとしたら、どうなる。そんなファンタジーなことがあってたまるか。


「わたし、嬉しい。ありがとう」

「嬉しいのは僕の方だよ。本当だったら一緒にケーキ食べて、このワインを飲んでお祝いしたかったんだけど」

「いいの、いいの。ケーキとワインはわたしの病気が治って退院したときにしましょう」


 これはいったいどういうことだ。間違いなく会話している。ぬいぐるみが。

 僕は夢でも見ているのか。それとも、なにかのドッキリか。あたりに目を向けて苦笑いを浮かべた。ドッキリなわけがない。

 あれ、よく見たら遠くに人がいる。あの人が話しているのか。違う、一人だしあそこからじゃ声は届かない。やっぱりぬいぐるみからだ。

 もしかして、ぬいぐるみじゃなくて宇宙人か。


「すみません」

「えっ、あ、はい」


 突然、名刺を渡されて「あの二人の邪魔はしないでくださいね」と。

 あのぬいぐるみは、遠く離れた地にいる二人を結ぶロボットだった。会えない二人の距離をつないでくれるぬいぐるみ型ロボットだった。自由に動くことができ、触れると実際にぬくもりも感触も匂いも伝わるとか。


 名刺を渡してきた人はそのサービスを提供している会社の人だった。なんとも凄い技術があるものだ。


 もう一度、ふたつのぬいぐるみを見遣り笑みを浮かべた。なんだかほっこりする。あの二人が幸せになりますように。


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君とつながるぬいぐるみ 景綱 @kagetuna525

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