護衛のサルサさん

 疲れて寝てたみたいだ。

 いつものふわふわに寝かせてくれてた。

 魔珠は増えたけどまだまだ少ない。もっともっと魔珠が欲しいなー。

 今の魔珠量じゃ、パン作ろうとしても混ぜてる途中で手が消えちゃうよー。


「あ、シロンちゃん起きてる。明日お出かけするよ?」

「おはようございますご主人。どこに出かけるんですか? エルエさんのとこ?」

「ううん。隣町のショートまで! シロンちゃんの傷もよくなったしね」

「よくはなりましたが、ご主人と二人で村の外に出るのは少々危険な気がします」

「ふふーん。ちゃんと護衛を手配したのよ! 私の友達だけどね! 今連れてくるよ!」

 バタバタと走って行くご主人。

 友達ってことは同じくらいの年だよなー。三人で大丈夫なんだろうか? 


 しばらくしてご主人が女の子を連れて戻ってくる。

 背は小さくふわっとしたワンピースを着てる。


「もう。裾を引っ張らないでよルビー。慌てなくても行くから」

「お待たせシロンちゃん! この子がサルサよ。私の一番の友達なの!」

「本当に喋るの? このホワイトウルフ」

「初めまして。勝手に契約されたシロンです。よろしくお願いしまーす」

「うわ、本当に喋った! しかも丁寧。驚いたわー」


 剣士には見えないけど魔道士……かなー? 


「サルサは凄いんだよ。この村をいち早く出ていって、ショートの町で魔道士をしてるの! 

「魔法が使えるなんて羨ましいです! 俺魔法使えなくて。どうしたら使えるようになりますか?」

「才能かしら。それと修練? でも召喚獣ならそれ以外の力があるでしょう?」

「そう、シロンちゃんは凄いの! やってみて!」

「よーし、いでよ! おたまじゃくし! サルサの頭へ落ちろ!」


 ぽとりとおたまじゃくしがサルサの頭へ降ってくる。


「うわぁ! 何この変なの!? 呪いの生物!?  

燃え盛る大気の熱よ。万物を焦がしその身を滅ぼせ!」

「わわわっ違います! ストップストップ! 消えろー!」


 ふっとおたまじゃくしが消えた。危ないよ、この人。


「な、何だったの今の。説明して」

「シロンちゃんは変なものを召喚出来るのよ。召喚獣だけど召喚者なのよ」

「何それ、そんなの聞いたことないわ。どうなってるのかしら」

 

 それは俺の方が聞きたいくらいなんだけどなー。

 

「それで……隣町まではこの三人で行くのかな? 少し不安なんだけど」

「エルエも一緒に行ってくれるよ。 四人なら大丈夫! 現地までだけど」

「お家にはしばらく戻らないんですか?」

「しばらく? ずーっとよ。旅に出るんだからね!」

「えーーーー!? 旅? なんの旅? 行商ですか?」

「違うよー。召喚士は旅しないと成長出来ないんだよ。

世界を一周! ぐるーっと! そしてここに戻ってくる頃にはもう、私は世界一の

召喚士なの! えへへっ」

「いや、えへへじゃなくて。なんて漠然とした計画なんだ……」

「それはわかる。この子いっつもこうなのよ。シロン、きっと苦労するよ」

「もうしてます助けてください」

「私に言われてもねぇ。ひとまず召喚獣の登録をしないと。あなたも自由に動けないでしょ」

「そうでした! 自由に動きたいです!」

「それじゃ早速行ってみよう! おー!」

「待ちなさいって。向かうのは明日でしょ! 準備して、スルクさんに

挨拶して、村のみんなにも別れを言いなさいっての。全く」

「そうだった! おかあさーん!」


 再びバタバタとかけていくご主人を見送り、俺とサルサさんは深いため息をついた。

 物凄く不安。この先平気かなぁ? でももしかしたらパンに巡り合えるかも! 


 念入りに支度をしたようで、そのあとスルクさんに挨拶をした。

 抱きかかえられてよろしくお願いと忠告を受ける。

 受けた恩は忘れません。ありがとうございます。


 一晩ゆっくり寝た次の日の朝。ご主人に抱えられて外に出る。

 初めて見る村の入口付近には、エルエさんが待っていた。

 本来彼は村を警備する仕事があるから外へはあまり出ないみたい。

 少し手薄になっちゃうけど大丈夫なのかな。


「それじゃ今度こそ出発するよー!」

「あんた歩いて行く気なの?」

「そうだよ!? 旅立ちといえば徒歩でしょー!?」

「何日かかると思ってるのよ! ほら、馬車にのって」

「馬車で向かうんですか? ご主人の言い方だとすぐ近くなものとばかり思ってたけど」

「馬車を走らせて丸一日ってところよ。歩いたらかなりかかるわ」

「えへへ、まぁこういう事もあるよね」

「あんたの場合はそういう事しかないわよ! ふぅ……」


 あー、不安な旅が始まろうとしている。 

 この先サルサさんがいないと絶対やばい気がするなぁ。


「んじゃ、行ってくるぞー。村を頼む、みんな」

「気を付けてなー! ちゃんと送ってやるんだぞエルエ!」


 エルエさんが馬車を引き、シフォン村を後にした。

 ご主人との冒険がいよいよ幕を開けようとしています。

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