馬車でコトコト

 エルエさんが操り走る馬車。

 馬車なんて乗った事ない。生まれて初めての体験。

 人力車はむかーし乗った事があるけど、動かすのが大変そうだった。

 でっかい狼になったら馬車を引かされそうで嫌だなー。狼車? 

 ご主人は容赦ない。 

 きっと「行けー! シロンちゃん!」と叫びながら鞭を振るうだろう。


 ちらりとご主人を見ると、頭を撫でまわされた。はぁ……ご主人の膝の上より

ふわふわのベッドが恋しいなぁ。


「ねぇシロンちゃん、道中暇だから何か召喚してみてよ。虫以外で!」

「いいわね! 変な物出したら今度こそ焦んがり焼いてあげるから」

「焼くのはパンだけにしてください。お願いします」


 あれは洒落にならなそうだから真面目にやろう。

 何を召喚すればいいんだろう? 


「呼んでみて呼べそうにないのでもいいでしょうか?」

「なになにー? 何呼んじゃうの? ワクワクする!」

「そもそも召喚士はあんたなんだけどね……いっそ呼んだもの召喚契約とかしてみたら? 

絶対無理だろうけど」

「えー!? いいの? やってみていいの? でも召喚獣って二体までじゃなかった?」

「だから無理だってー。召喚したものと契約なんてできるわけないじゃないの。

そんな事考えるやつもいないし。そもそも召喚獣が何か召喚するって

だけでおかしいのよ?」


 そう、俺はイレギュラーな存在なんだ。きっと変テコな生き物に違いない。

 個性的って言ってほしいけどね! 


「よーし、それじゃ……準備してくださいよー! 

出でよニャトル! 我が前にひれふせいー!」

「ニャニャ!? 何ニャ!? 進化の時間ニャ!?」

「&Σtβγ$ΗゞΔΘΠ」

 

 ヘンテコな大きい帽子を被った、白い小さな猫っぽい二足歩行の何かが出てきた。

 おお、本当にニャトルなのか? これは驚いた。あれ? あの光は……もしかして。


「や、やったーー! すごいすごぉいーー! 二匹目の召喚獣手に入れちゃったよ!」

「嘘でしょ……ありえないわこんなの。召喚したヘンテコなのと契約しちゃった……」

「ニャニャ、ニャンですかここは!? おかしい、絶対おかしいニャ。

ええーー!?」

「ふっふっふ、俺が召喚したんですよ、ニャトル!」

「き、君は!? こないだ進化した変なホワイトウルフ!?」

「シロンです。よろしく!」

「そんなキメ顔で言われても!? どどど、どうしよう。

あわわわ……召喚契約されちゃったニャ」

「それで君は誰なの!? シロンちゃんがニャトルって呼んでるけど知り合いなの?」

「私は進化の案内者、ニャトル。進化の導き手……だったにゃ」

「だったにゃ?」

「だったにゃ!」

「ニャー?」

「いいから元の場所へ戻せ」

「普通の喋り方に戻った!?」

「あー、もうどうするニャ、これ。絶対怒られるニャ。そもそも進化の案内者を

召喚するって何なのニャ? 絶対おかしい!」

「よーし、鑑定してみようー! 鑑定ー!」


ニャトル

 種族 ニャコン 種族形態 ニャコン

 性別 雌

 年齢 一歳

 レベル 1

 耐久 5/5

 魔珠  20/20

 体力  3

 力   3

 器用  5

 速   15

 習得技 行動経験、猫だまし、????、

????、????、????、????



「弱っ! ニャトル弱っ! 俺より弱っ!」

「あー、能力がバレバレになったニャ……」

「ニャコン? ニャコンてなぁに?」

「はぁ……また変なの拾ったわね。この先心配だわ……」

「ちなみに一つ聞きたいのですが、召喚を解除する方法は……」

「ないわよ。ずっと」

「ニャ……もう終わりだニャ。一生ここで猫だましして暮らす事になるにゃ……」

「まぁ楽しくやろうぜ相棒! 美味しいパンも作るよ!」

「だから何なのニャー!」


 こうしてちょっとうるさいニャコンのニャトルが仲間になったのである。


「おしまいおしまい」

「勝手に終わるニャ!」

「ところで……ちゃんと自己紹介するね! 私はルビニーラ。ルビーでいいよ! 

今はショートっていう町に向かってるの。馬車を走らせてるのはエルエだよ」

「私はサルサ。魔術師よ。この子とは腐れ縁かな。よろしくね」

「俺は無駄三昧のビノータス、よろしく!」

「さっき名乗ってたのに!? それは絶対嘘にゃ!」

「ちっ、よくわかったな。俺はシロンだ。見ての通りハンディウルフィです」

「結局変な進化したなコイツ」

「ニャトルがちゃんと説明しないからだろ!?」

「革新進化とは本来誰かを頼るものじゃない。自分の力で切り開く……ニャ」


 ふーん、そういう事言うならこうだ! 


「いでよおたまじゃくし! ニャトルに降り注げ!」

「ななな、何だコレ! 変な生物がっ!」

「あれ、ニャって言わない。こっちが本当の喋り方ね!」

「そそ、そんな事ないニャ! ないってばぁー! えーんニャトルは

女の子なのにぃー!」

「仕方ない許してやるか。消えろ!」


 ふっとおたまじゃくしが消える。


「おいおい、騒がしいが何やってるんだ? 

そろそろ日が暮れるし休憩するぞ……あれ、また変なのが増えてる」

「変じゃないニャ! ニャトルにゃ!」

「なんだ? これ。これもシロンが呼んだのか?」

「そんな所です。困った奴ですよ本当に」

「君のことニャ! はぁ疲れた。帽子の中でもう寝るニャ」


 ニャトルは自分が被っていた大きな帽子を広げて、中に入り眠り始めてしまった。

 変なのを呼び出して疲れたから自分も眠ることにする。

 どうせ明日になればニャトルも消えてるさ! 

 そう思うことにした。

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