挨拶

「シロンちゃん! おはよ! 元気になってよかった」

「お早うございます。ルビーさんも元気そうで何よりです。

突き飛ばされた怪我、大丈夫ですか?」


 俺が心配そうにしていると、目を丸くしている。


「あれー? 何で私の名前知っているの? これから挨拶しようと思ったのに!」

「昨日お母さん? が言ってましたよ。話を聞かない子だけどよろしく頼むって」


 少し照れてる顔になった。自覚アリだなこれは。


「お母さんてば! 少し考え無しに突っ込む所はあるけど、そんなにドジじゃないもん」

「それはいいとして、俺は何故助かったんでしょう。あの状況じゃ助からないと思ったんですが。

傷もふさがってるし。」

「私の術だよ。木から魔珠を借りて治癒したの」

「はい? 魔珠? 魔法みたいなものかなぁ?」

「魔法とは違うよ。魔珠は全ての物に存在してて、その物に宿る力を引き出す力だよ」

「つまりベッドならベッドから、布団なら布団から力を引き出せるの?」

「そう! シロンちゃんあったまいいー!」


 面白そうな力だけど、それであの場を切り抜けられたのか? 

「あの強姦達はどうやって追い払ったんです?」

「シロンちゃんが退治したんでしょ? 私が起き上がったら逃げ出してたよ? ミンミンとか辛苦辛苦胞子とか聞こえて物騒だったけど」

「それってセミの鳴き声? この世界にもセミっているの?」

「セミ? そんなの聞いた事無いけど。シロンちゃんの力かしら?」


 俺の力? あの時最後セミでも入ればって思った。セミを呼んだ? 


「少し試してみたいけどいい? まだ起き上がれないからここで」

「ん? 何を?」


 心で念じてみる。セミ、セミよ来い! この子を守れ! ……あれ、身体の力が抜ける。


「ミーンミンミンミンミン……ミーンミンミンミン」

「ツクツクホーシツクツクホーシツクツクホーシ」


 ジジッ、ジジジッとルビーの前をブンブン飛び交うセミ。


「キャー!? 何この虫? 私虫駄目なの! 取って、取ってー!」

「あ、俺も虫苦手なんだ。特にセミが。身体から力が抜けるよー。後お願い」

「シロンちゃーん! 何てことするのー! あなたの変な能力、異界召喚てこれー!? 

召喚獣なのに召喚ー!?」

「異界召喚? 俺召喚獣なの? もう意識飛びそう。何とかして」


 セミはブンブンルビーの前を飛び回ってしばらくして、俺の意識が落ちると共に消えた。 


「シロンちゃん? シロンちゃーん? 魔珠ポイント切れかなぁ? あんなの見たことない。

お母さんに聞いてみないと」

「全く何の騒ぎだい? その子まだまだ怪我が治らないんだから、静かにおし!」

「ごめんなさぁい。それよりお母さん、この子凄いの! 変な虫召喚したのよ!」

「変な虫を召喚? ああ、あんたが言ってたこの子の能力

異界召喚ってやつかい。

言葉も喋れる変わった能力を持つリトルウルフィか……とにかく今は休ませてやんなよ」

「はぁい。シロンちゃん何食べるのかなー。見た目はホワイトウルフに似てるから、お肉とか?」

「喋れるんだろう?起きたら聞いてみなよ。嫌いな物よりまずは好きな物食べさせて

ちゃんとなついてもらわないとね」





 また寝てしまったていた。眠くはないが脳が疲れて意識が飛ぶ感覚に見舞われていた。


 二人は厨房かな。それにしても異界召喚って言ってた気がする。俺の能力。

 なぜ突然ウルフィになりそんな能力も持っているのかさっぱりだが、そんな力があるなら! 


「出でよ、地球に戻る術と俺が人間に戻る術!」


 ……しかし何も起こらなかった。

 ならば……「出でよ俺のパン屋とシロ!」

 ……しかし何も起こらなかった。

 今度こそ! ……「出でよ、召喚獣バハ『シロンちゃん、おはよー!』


 くっ、いいタイミングで! 詠唱の阻止はしないで欲しいな。


「シロンちゃん、あの変な虫もう呼んじゃ駄目だよ! 私虫は嫌いだからね!」

「おはよう御座いますルビーさん。相変わらず元気一杯ですね。セミはもう呼ばないですよ。

それより言いにくいのですが、お腹が……」

「そうだった! シロンちゃんの餌を用意しないと! 何食べるの? 生肉なの?」


 目をキラキラさせて餌とか生肉って言うのはちょっと。


「メロンパンとかクロワッサンってあります?」

「メロンパン? クロワッサン? それがシロンちゃんの餌なの?」

「餌じゃなくて食事ですけど。パンはありますか?」

「パン?」

「……パンがない? パンがない……だと……」


 俺は膝もとい後ろ脚から崩れ落ちた。


「……普段は皆さん何を食べてるんですか?」

「んーとね。麦飯とか麦を粉にして伸ばした奴とかだよ! 

後はお肉とかお魚かなぁ?」

「麦はあるんですね! 小麦粉も作れるんですね!」

「うん、小麦粉を伸ばしたやつが食べたいのね! お母さんに

言ってくるね!」


 まだ何も言ってないのにバタバタと出て行くルビニーラさん。

 最悪の事態だけは回避できそうで良かった。パンを召喚出来ないかやってみたけど出来ない。


 虫しか呼べないなんて事だったらどうしよう。

 もし使用制限がる能力だったら困るなぁ。

 ご飯を食べたら色々考えてみよう。

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