異能
「ミーンミンミンミンミン……」
「ミンミン? な、何だこのおぞましい音は! そこら中から奇妙な音がするぞ!」
「あの犬っころが何かしやがったのか!?」
「ツクツクホーシツクツクホーシツクツクホーシ……」
「辛苦辛苦胞子だと!? やべぇ、猛毒じゃねえか! あの犬、術を使いやがった!」
「まずい! 急いでずらかるぞ! あの犬がやってるならその女も
もう感染してるかもしれねぇ! 早く逃げるぞ!」
「くそ! こんな所で死んでたまるか! 急げ!」
「ツクツクホーシツクツクホーシ……」
「んー……何の音だろ。あれ? 私どうしたんだっけ? 変なおじさんに突き飛ばされた気が。
あー! シロンちゃん? シロンちゃん!? いけない!」
「あ、ぐぅ」
「よかった、まだ生きてる! お願い間に合って! 木々の愛よ、彼の者に安らかなる
ひと時の芽吹きを与え傷を癒せ。ウッドヒール」
彼女の祈りで近くの木から淡い光が差し込む。抱きかかえられた白い血だらけの
シロンから、流れていた赤い雫が止まっていく。
「奇妙な音、止まった? ……ひとまずこれでよし。けれどこのままじゃ……
急いで村に帰ろう!」
俺はまた夢を見ていた。木が枝を伸ばして俺を包み込んで
くれるような、そんな夢だ。暖かくて気持ちよかった。
シロと二人、天気の良い日に日向ぼっこ。最高だったな。
またあーしてゆっくり休みたいな。
「ここ、は……? あれ、やっぱ犬だなぁ。俺……生きてたのか?」
「どうやら、目を覚ましたようだね。峠は越えたようだ。もう大丈夫だろう」
「お母さん、ありがとう。うう、シロンちゃんよがったぁー! えーん」
「全く。一人で森の奥には行くなってあれ程言ったのに。
これじゃギルドへ行かせるのに護衛を付けないといけないね。
どのみちこの子が回復するまでしばらくはかかるから、それまで
あんたは家事をしっかり手伝いなよ!」
「うん、お母さん。反省してます……」
ここ、あの子の家か。俺助けてもらったんだ。
あの傷でよく助かったな。
それにあの男たちからどうやって逃げたんだろう。
聞きたい事はあるけど、まだ目も上手く開けてられないや。寝よう。考えるのは後回しだ。
あの子が生きててよかった。俺は犬だし。
あの子はまだ少女だ。これから先きっと結婚したりで色々な楽しみがあるだろう。
俺はなんだかんだで自分のやりたい事をやってきたから。
あの子にはこの先もっと楽しく生きて貰いたい。そう思った。
次に起きた時、俺の正面に彼女の顔が映った。
とても綺麗で活発そうな子。肩で斬り揃えた赤茶っぽい髪が良く似合う。
ずっと看病しててくれたんだな。有難う。
身体、動くかな。お、前足がちょっと動く……顔にあたっちゃった。
「んんー。もうちょっとぉ……」
寝ぼけてるな。俺ももう少し寝るとするよ。
明日には動けるようになるといいな。
そういえばこの子、名前なんて言うんだろう。起きたら聞いてみるか。
おやすみなさい。
再び目を覚ましたが、近くにあの子はいないようだ。
今度こそ身体が動くようになった。改めて身体全体を見てみると
本当に小さいな、俺。シロが小さい時を思い出す。シロに会いたいな。
柔らかい布の上に寝かされてたのか。ここなら座ってもお尻痛くないかな。
腕もとい前足を組み現状の事を落ち着いて考える事にした。
確かあの子にリトルウルフィとか言われていた。
これは種族名だろうか? それによくわからない技があるとか
なんとか。
もう少し話を聞いてくれる人に色々尋ねてみたいと思っていたら、年配の女性が来た。
「おや、もう起きてるみたいだね。ルビー! ルビニーラ!
この子起きたみたいよ!」
「あ、どうもお構いなく」
「本当に喋るんだね。傷の具合を見せておくれ」
そう言うと女性は俺の身体を調べる。
あの子の名前はルビニーラか……あの、お母さんちょっと擽ったいです。
「あのー、お母さん。実は少々お願いがありまして。
この世界の事とか俺の事とか詳しく知りたいんですけど」
「うーん? あんた生まれたてなのかい? その割には大きいけど。構わないわ。
夕飯の支度をしてからね」
「ありがとうございます。あの子だとあまり話画出来なくて」
「ルビーの事かい? あの子はあんまり人の話を聞かないからねぇ。この先苦労するよきっと。
でもいい子だから、あの子を頼んだよ」
そう言うと女性は立ち上がり、厨房と思われる方へ向かっていった。
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