初戦闘

 何故か突如としてスライムと対峙している俺。


「シロンちゃん、戦うよー! いけー!」

「いけーってノリノリで言われても、どうすればいいの? 戦った事なんて無いよ?」

「まずは嚙みついてみるか引っ搔いてみよー!」

「身体が上手く動かないよー。二本足で立てるかな」


 四本足で行動なんて全然した事ないから動きづらい。

 まずは立ち上がって……駄目だ、足がプルプルする。


「か、かわゆい……二本足で立ってプルプルしてる! まだ私の言う事上手く

聞いてくれないのかなー。どうしよう」

「そうじゃなくて、俺は人間なんだー!」

「そうなの!? シロンちゃんは人間の姿になれるの?」

「わからないけど人間だったんだよ。転生して!」

「うんうん。よくわからないけど凄いんだね! じゃあスライム倒してみよー! おー!」


 人の話を聞かない子だった。見た所十代の女の子。


 今の視点からだと人は凄く大きく見える。

 目の前のスライムを倒さないと永遠とゴー! と言われそうだ。

 シロも俺に何か言われた時はこんな気分だったのかな。


「仕方ない。戦ってみるか。見た目は怖くない

液体の塊だよね。確か中に核があるんだっけ」


 意を決した俺は手……もとい前足の爪でスライムを引っ搔いてみた。


 ぷるんっという感触だけ伝わってくる。

 お返しとばかりにあっちも身体をぶつけてくる。ポヨンという

衝撃が伝わってくるけど痛くはない。

 でも慣れない四本足のせいで転ぶ。慌てて起き上がる。


「駄目みたい。どうしよう!」

「がぶっといってみよう。がぶっと!」

「あれ、嚙みついて平気なの?」

「多分大丈夫よ! さぁがぶっと!」


 ええいままよ! 

 俺はスライムに口からかぶりついた。

 ぷるぷるしたゼリーを口に入れる感覚が伝わってくる。

 食べたらお腹を壊しそうなので嚙んでは吐き出しを繰り返した。


 するとスライムはどんどん小さくなっていきやがて凄く小さな玉を落として消滅した。

 死体とか残らなくてよかったー。


「やったね! 初モンスター討伐おめでと! レベルはスライム一匹じゃ上がら

ないかぁ……でもいい嚙みつきだったよ! シロンちゃんの技とか能力はわからない

項目だらけなんだよね。これもお母さんに聞いてみよう! この子がちゃんと

戦えるってわかったし、果物取って村に帰ろ!」

「はぁ……あんな変な物かじっちゃったけど

俺大丈夫かなぁ……そういえばさっきスライムが変な玉落としたけどこれは何だい?」

「これは魔石だよー! お金になるの。持って帰らないとね!」

「よくわからないけどいい物なんだね。わからない事だらけだなー」


 謎の少女と俺の関係はこうして始まった。

 果物を取りに行くと言っていたからか、彼女は森の奥へ

ズリズリと引きずられる俺と一緒に進んでいく。


 そんなに急いで何処へ行こうというのかね。


 もう少しゆっくり進んで欲しいけど直情的なタイプに見えるし我慢するしかない。まずは慣れよう。


「この辺に実ってる筈なんだけど……見つからないなぁ。

もうちょっと奥かな? シロンちゃん匂いで探せない?」

「匂いと言われましても、何を探しているのかわかりません」

「そっかー、食べた事ないとわからないよね。もうちょっと奥で

探そうかな」


 そう言うと彼女は木々をかき分け奥へ奥へと進んでいく。

 こんな森の中そんなに奥へ行って平気なものなのかい? 

 そう心配してると、彼女が突然吹き飛ばされた! 


「大丈夫!? 何が起こって……あ」


 巨漢が二人、目の前にいた。これはまずい気がする。


「げっへへ、こいつは見つけものだぜ。森の中に一人とはよ。

田舎娘一人さらった所でばれやしねーだろ」

「ああ。中々の上玉じゃねーか。離れた町の奴隷商に売っちまおう」


 奴隷? 今時そんな仕組みあるのか? 

 白昼堂々人さらいなんて平和な日本でも……いやニュースなんかじゃ割とあるか。

 平和ってなんだろうって思う事はあったなぁ。


 いつの時代や場所でも悪いこと考える奴はいる。

 俺なんかじゃ守ってやれない……けど行くあてなんか何処にもない。


「今日からあなたはシロンちゃん!」


 少女一人見捨てて、この先俺が何処へ行こうというのかね。

 敵う訳ないけど。それでもどうにかしないといけない。


「おじさん達、もうじき人が来るよ! 悪いことはやめてどこかいきなよ」

「おいおい何だ? この犬っころは。喋ったぞ? 珍しいんじゃねーかこいつ」

「ただのホワイトウルフの子供かと思ったが、こいつも売れるんじゃねーか?」

「両方攫って売っちまおう。ほれこっち来い犬っころ」


 そう言いながら汚い手を差し出してくる。やめろ! パン屋は

綺麗にしてないと駄目なんだ。汚い手でパンを触ったら俺は怒る。


 そいつの手を思い切り引っ搔いてやる。


「痛ぇええ! この犬っころが!」

「がはっ……痛ぇっ」


 思い切り腹を蹴り飛ばされた。 痛ぇ、何でこんな目に。


「あーくそが。むかつくぜ。この犬っころやっぱ殺すわ」

「まーいいんじゃねーか。殺したらこの女だけ連れてさっさとずらかるぞ」

 

 汚い手の男は剣を抜いた。

 殺す? 引っ搔いただけで殺されるのか? 不条理な世の中だ……けど何もせず殺されるのは嫌だ。


 俺は走って近づくと奴の足に思い切り嚙みついた。


「グルルルル」

「痛ぇえええええ! このくそ犬があああああ! 死ね!」

「があああっ」


 俺は背中を切られて蹴り飛ばされた。

 熱い。身体がとても……あの子、守れそうにないよ。

 

 異世界に来てたったの数時間で死ぬのか。

 何で俺こんな所に来たんだろう。 

 せめてあの子だけでも。近くに行って目を覚まさせてやりたい……駄目か。身体がもう動かないや。


 俺、最後部屋で何してたっけ。ああ、身体熱いな。

 そうだ、暑かったなぁ。あの日も……セミが鳴いていたっけ。


 セミがあの子、守ってくれないかなぁ。

 守れるわけないか。セミがいたところで。

 何考えてるんだろ……俺。

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