第8話 女神の雉は飛ぶ

邪気を纏うゴブリンシャーマンと対峙するキジコとマウリ。  


『キジコさん、ここは私に任せて早くその人を』


『しかし』


『アダム様のパーティですので大丈夫』


おとなしめな性格のマウリだが彼女もアダムのパーティメンバー、バリバリの武闘派


マウリは槍を取り出しシャーマンに突っ込む。ものすごい勢いだ。   


シャーマンは槍攻撃を躱す。少し掠って紫の血が出る。


マウリはシャーマンに槍の連撃を繰り出す。激しい刺突の乱舞、しかしシャーマンは躱す躱す


『強くて速いなぁ。だが指壺マッサージにも満たぬそんな攻撃ぃ、もう喰らうかボケェ!』


シャーマンは手に持つ杖から魔法を発動する。


『ぐぅう!?』


突然マウリの攻撃が止まる、そしてそのまま何かに掴まれているかのように宙に浮いた。


『マウリっ!?』


キジコは叫ぶ


『念力魔法じゃメス豚ァ』


シャーマンはゲラゲラ笑う。マウリが心配になるキジコ、外に出ずにその場に立ちつくした


『な、何をしているんですかキジコさん...早くその人を、外h』


『し、しかし』


『いいから早くっ』


『わ、わかった』


そう言われたキジコは女性を担いで苦し紛れにそこから去った。


『おいおい良いのか1人になってよぉ』


『えぇ、あいにく私、手はあるんで』


そう言うとマウリは自分とシャーマンを囲うくらいの魔法陣を足元に展開する。

 

『くらいなさい、シャイニングレイン!』


『!!?』


魔法陣から天井にかけて無数の光のレーザーが昇る



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



洞窟の外まで女性を抱えて逃げるように去るキジコ。幸い、人ひとりを背負って走れる体力がキジコにはある。


『もう大丈夫じゃ、もうすぐ外じゃ』


マウリを洞窟に残して無事に外まで届けることに成功する。しかしキジコには心残りがあった、まだ自分は何もしていないということ。


(桃寺はワシを助けた、マウリはワシを逃した、アダムの奴もマウリが言ったことが本当ならばきっとゴブリン退治しておるし人も救っている...本物の女神であるワシは何をやっておるんじゃ)


ついに外へと辿り着く、しかし外は曇りだった。キジコはアダムが用意した馬車に女性を乗せる


(人を助けた、それだけならワシは何かをしたかもしれない。しかしそんなの桃太郎や他の人だってしたことじゃ。結局ワシはいつも誰かに守られているだけ...)



キジコには何も無かった。魔力量は大きいし多彩な魔法が使えるがただそれだけ、その魔法のほとんどが弱小魔法であるし、何より人智を超える力を持つのが当たり前とされる神々からすればそんなもの笑いものである


だからって下界たる異世界にも本当は行きたくなかった。天界より危険だし、何より神にとって下界暮らしとは一生レッテルを貼られるくらいの恥ずかしいことでもあったから。


キジコは弱かった、身体も心も。天界にいた時から何をしても上手くいかなかったキジコ、どこかで諦めていたが彼女だって神様として尊敬されるようなものが欲しかった。




《とんでもなく強い魔法使いになれるかもしれない》


桃寺桃太郎が何気なく呟いた言葉である。


けどキジコは嬉しかった。良くも悪くもだけど彼は誉めてくれたし、自分の能力や性格をちゃんとまともに見てくれる人は彼がはじめてだった。


私は桃寺桃太郎という男がいったい何者で、どうしてあんなに強く狂っていて勇ましいのかわからない。けどなぜか、彼のことは信用できる気がする。


《いつか覚悟を決めて達成すればいい》


『桃寺、たぶん今がその時なんじゃ』


キジコは馬車に簡易的な結界魔法を張るとその場を去って洞窟へと駆け出す。


自分でも思う、きっと今のこの感情は誰のためでもなく私欲、自分がそうしたいから動いている。きっと自分がいたとてゴブリンシャーマンに勝てないかもしれない、けど女神であるこの私が皆を見捨てるなんてできたことか


この異世界でワシは成り上がってやる!



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『ぐ、ぐぐぅ』


『やるなぁ人間のメス。多少はくらったかのぉじゃがほぼほぼ無意味だ』


大技を放ったマウリだが、シャーマンにはそれなりしかダメージを与えていない。大技で相手を怯ませそのスキに念力をこじ開けようと目論んだがシャーマンには通用しなかった


『おそらく儂を怯ませて念力を解こうという算段だったんだろうが愚の骨頂。そんなんで儂が手を止めると思たかこのブス!』


『な、ならばもう一回』


『させるかバカタレ!』


念力を強めるシャーマン、口すらまともに動かせないほどの強力な念力でマウリは縛られる


『舐めプしてすまんなぁ、儂が本気出せば喋ることすら叶わんし何よりもっと強めるとぉ』


身体が無理やり丸められるような、ものすごい圧力で潰されるような苦しみを味わうマウリ


『最近の儂、リョナ系に目覚めた。お前はその記念すべき儂のリョナ第一号だぁあぁあ!!』


バサァァアァァアンっ


その時突然シャーマンは水魔法をくらった。


『ぐべぇあ』


マウリが撃ったのか、いやマウリは念力でもはや口さえ動かせない状態、魔法なんざ撃てない。しかし水魔法が飛んできた


『どこのドイツじゃゴラァぁあ!』


(ジャーマンならぬ)シャーマンは怒る


『ワシじゃ!』


洞窟の奥から女が現れる。異世界にいることを決断し、覚悟を決めた女神だ。


『我が名は女神キジコ・フェザントー、我が知り合いを傷つけることはなんぴとたりとも許さんぞい!』


キジコはそう名乗る


『...!?』


『めーがーみぃ、おまえがぁ?』


『今すぐその子を放さんともう一回撃つぞ』


『ブフッごーぶごぶごぶごぶ(笑い声)、地上にいる女神がどこにいるってんだよメスガキぃ、そんなホラ吹き顔面ホラー女には念りk』


『ストーンマシンガンっ!』


石礫の連撃を繰り出すキジコ。しかしシャーマンは躱す躱す躱す。


『針治療にも満たぬ攻撃ぃ、この俺に当たるかボケぇ、』


シャーマンがストーンマシンガンを躱した先に鋼鉄の剣針が一本地面から生えた。


『アイアンブレード!』


覚悟は決めたがまだ戦い慣れしていないキジコが発揮した自信策。ストーンマシンガンで牽制してアイアンブレードでやっつける  


『決まっt』


『舐めんな小童っ!』


アイアンブレードまで躱しやがった。コイツ動けるシャーマンだ。


『わかっておったが手足も出ぬか...』


『手足も動かせぬよう念力でリキリキしてやるわぃ!!』


物怖じしなくなったところで、勝てるわけではない。キジコの魔法はシャーマンに通用しない、マウリを助けられない

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