第7話 神がカミがかっている所以

『レディ、大丈夫かい?』


ゴブリンが沢山棲まう洞穴の中で見つかる女性たち、その人たちを助けるアダム。彼は葉っぱ一丁の全裸なので、女性たちからすればゴブリン以上のヤバい奴に見えてしまうが神々しき光の前にしてまさか彼が私たちを陵辱はしないだろうと、また一類に思えてしまう。


それどころか回復魔法で傷ついた身体を癒してくれるので壊れた精神の中涙さえするものも現れる。


『出口に馬車がありますので僕が責任持ってあなたたちを無事に家に届けます』


『あ、ぁりが...と』


女性の1人がそう言った。


『さてと...ところで桃寺くん』


アダムが桃太郎の方を向く


『なんだ』


『君はいったいなんなんだい?とても今日冒険者登録したとは信じ難い強さと狂気だ。君みたいな強者が存在しているならば僕の耳元へすぐに噂が来るはずなんだけどね。君はいったい何者なんだい?』


アダムがそう問うと


『俺がどうして強いのか、何者なのかだなんてどうでもいい話だろ。俺は強い、その事実さえあればそれ以上でも以下でもない。』


桃太郎は断言する。あまり納得はいかないがこれ以上聞いても何も得れないとふんだアダムは


『ふーん要するに天才ってことだね。まぁ神である僕には遠く及ばないだろうけど』


と言った。


『それより桃寺くん、マウリちゃんはともかく君んところの女神ちゃんは大丈夫かい?』


『あぁ、奴の覚悟次第だ』



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(何故ワシは動けなかったのじゃ、強姦魔の時は動けたのに)


一方その頃、キジコとアダムの冒険者仲間パーティメンバーのマウリが女性の回復に勤しんでいる間、キジコはそのようなことを考えていた。


『マウリとやら、お主回復魔法の手際がいいのう』


『ええ、アダム様にたくさん教わりましたから』


キジコと違ってマウリはおとなしい子だ。


『お主、というかギルドの人らもそうじゃが何故あの全裸をこうも尊敬しとるんじゃ?ワシには意味がわからん』


キジコが素朴な疑問を尋ねると


『実はアダム様は本当の神様じゃないんです。』


『いやそれは知ってる』


『あの人は元々貴族出身方ですが一家とも没落したらしく服も買えないほどに困窮してしまったそうなんです。それでよく周りから蔑まれていたそうなんです。』


『あぁ』


『けどアダム様には貴族としてのプライドがあった、その心のままに手早く稼げる冒険者に入り努力をして今の地位についたんです』


『おや、金も地位も得た奴がなぜ服を買わずに裸なんじゃ?』


『そこなんです、そこがアダム様を神たらしめているのです。アダム様も一時期は服を着ていたそうなのですが、ある日同じように服すらまともに着られない人を見つけたそうです。それを見たアダム様は何かを思い出したのでしょうか、なんと着ていた服をその人に渡したのです』


『そしてアダム様はそのとき “自分がこの世界にいるのは、落ちぶれた自分がこうして何不自由なく生きれているのはきっと自分よりも苦しんでいる人たちを救えと、神が自身に使命を与えたから“ だと思われたそうです。』


『そしてアダム様は以降皆の神になることを誓い、さらに服を着なくなりました。

苦しんでいる者を救うものが贅沢な服を着ていては示しがつかないという考えのもと、彼は慈善活動や悪いモンスターの討伐をしてきました。裸の彼に最初は卑下する人たちでしたが次第に彼の覚悟が皆さんに届いたのです』


『な、なんかちょくちょく意味がわからんけど彼は素晴らしい人間なんじゃの』


キジコはそう思った。アダム・トイブー、彼が皆に神として慕われる理由がなんとなく分かった。


『それでもあの人は貴族の名残なのか、人の上に立ちたかったり他の冒険者を見下したりとかしているのですけどね、それを含めて私たちはアダム様が好きなんです』


マウリは心に手をあてる


(アダム・トイブー、桃太郎なんかより素晴らしい人格者じゃないか...


それに本物の神であるワシより神様しとる、ワシはいったい何をやっておるんじゃ...はっ)


キジコは気にしていた。戦いもままならない挙句偽物の神にすら全てに負けている自分。だからこそキジコはあることに気づいた。


強姦魔の時あの時ワシが動けたのはワシが神としての驕り-もっというと神としての自覚があったから、)


強姦魔との戦いで自分の弱さを改めて知った故に自身を過小評価してしまったからか、とキジコは思う。


『大丈夫ですかキジコさん』


落ち込んでいる様子を察したマウリがキジコを心配すると


『なんでもないわい、それよりこの人を外へ連れ出すのじゃ』


キジコは倒れている女性をおんぶする。


『もう心配ないからの、女神たるワシがお主を救ってやるからの』


とキジコは女性に言う。


『アダム様たちがゴブリンをやっつけたと思いますので私たちはとりあえずこの人を外に出しましょう』


2人は暗い洞窟を歩く。キジコは指先から炎を出して周囲を明るくする。洞窟の壁に2人の影ができる、1匹の影ができる



『待ちな、肉便器ども!』


『!?』


2人は後ろを振り返る。そこには風変わりなゴブリンがいた。


『ゴブリンシャーマン』


マウリがそう呟く。


『ザッツライ!ワシこそゴブリンシャーマン。』


『なんじゃ、モンスターが人語を喋っておるのか!?』


伝説級のモンスターであれば人語を介してもおかしくはない。だがゴブリンシャーマンは伝説でもなければDランクのモンスター、知能が高いとはいえ人語を介すことはないし、何よりこんなにも邪悪な気配を、オーラをたぎらせはしない


このシャーマン、何かが違う


『なんですかこのオーラは』


『本当にDランククエストなのかこれ...』


邪悪な気配に勘づくマウリ、それはキジコも同様だ


『おうおうびびっておるびびっておる、お前らチンチンも生えてないクソガキどもをワシが逃すと思たか。今からおまえらに粛清を与える、死んで詫びろ侵入者!』


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