ライオンのぬいぐるみ

佐月 倭

第1話

そのライオンは10歳歳の離れた妹が産まれた年にわが家にやってきた

ぬいぐるみなど買うこともしなかった父親が勤務先の社長の奥さんから出産祝いだと貰ってきた


たてがみの立派な割と大きなライオンのぬいぐるみ

背中に乗って遊べるように丈夫な布が貼ってあった

まだまだ遊びたい盛りの私と2つ下の弟で争うように乗って遊んだり抱えて遊んでいた

妹が歩き始めるとそれは妹の専属のおもちゃとなり首に紐をつけて散歩だと引きずり回されていた

乗って遊ぶ

疲れたらいつの間にか枕になっていた

私や弟が学校に行っている間にそれは妹の唯一の友達だった

2年後弟が産まれた

もちろんその弟もそのライオンに遊んで貰った

妹と2人で争うように

以前私とすぐ下の弟がしていたように乗り回したり投げ飛ばしたり

それで時々父や母から大目玉をくらう

でもいつも笑いの中にいた

母が時々洗っていたがそれでもヤンチャな2人にかかるとボロボロになって行った


母はボロボロになった背中に新しい布をかけて手直ししまた妹や弟たちのおもちゃとなっていた


私が高校を卒業して専門学校へ行っていた1年の間にそのライオンはとうとうたてがみもなくなり可哀想な姿になっていた

でも母は綺麗に布を被せて枕に変身させていた

その枕はしばらく母が使っていたがいつの間にか中身にあずきを入れてもらい父の枕となっていた(小豆は冷却効果もありよく眠れるらしいと父が聞いてきたからだ)


その家が火事で焼けて全て燃えてしまったけれど家族みんながそのライオンのことは忘れないだろう


そんなに長くわが家にいてくれたぬいぐるみはないのだから


大人になって知る

あのライオン高かったのね

今買えるかって言われたら無理だけど家の娘たちにもそんな思い出のぬいぐるみ作ってあげたかった


自分でも1度ぬいぐるみらしきものを作ったけれど

色々揃ってカットしてあるパーツを縫うだけでも面倒だったり手間がかかったのにこれを売れるレベルで作れる人を本当に尊敬する


でも未だに私にはぬいぐるみを買う勇気が無い

いつかでっかいぬいぐるみ買って自分の車の助手席に乗せたい

今は娘たちや家族が乗るから無理だけど



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ライオンのぬいぐるみ 佐月 倭 @kurokuro0212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ