第6話 いっぱい思い出残そうね!
◇前書き
皆様いつもありがとうございます!
話数を重ねるたびに、着実に多くの反応を頂けていて本当に嬉しい限りです!
初めて小説を書くのでもっと緩く読めるコンパクトな話にしていこうかと思っていたんですが、ここまでの評価を受け止めて、このままの路線で行こうかと思っています!おかげで今回が最大ボリュームになりましたが。
ところで、今後えっちなシーンのある回を書くことになった時、タイトルの前に♡でも付けようかなと思っています。分かりやすさを重視!
なぜ急にこんな話をしたんでしょうね……?
ふふふ……。
では今週もよろしくお願いします!
────────────────
翌日の放課後。
今日は文化部を2つ体験する日!
もちろん
「写真部ってさ、私らの中学には無かったから具体的に何するか全然わかんないよね」
部室に入れてもらって、部員や他の体験の子たち数人が揃うまで待機。
なんていうか圧迫感のある部屋だなと思う。壁にいっぱい写真が貼ってあったり、パソコンとかなんかの機材とかが並べられている。
部屋をざっと見渡しているうちにみんな揃ったようで、初老くらいでおっとりした雰囲気の顧問の先生が話し始める。
「皆さん部活動体験に来て頂いてありがとうございます。えー、我が写真部ですがまずは写真を撮ることを楽しんで貰いたいと言う思いがありまして、入部したからと言って必ずしもカメラを買う必要はありません。最近はスマートフォンのカメラの質も上がってきていますから、下手に数万円のデジカメなどを買うくらいなら、スマートフォンを使って貰っても十分に綺麗な写真を撮ることが出来るんですね。とは言えやはり良い一眼レフなどと比べると、まず根本的にレンズのサイズから違い……」
なんか長い説明が始まったぞ……!企業説明会ですか?
「そこで先生のツテにお願いしてですね、なんとか予算に収まる範囲で中古の優秀なカメラを1台5万から10万円ほどで何台か譲って貰ったりしたものがあるので……」
とりあえず、カメラやレンズの説明やらフォトショの使い方やら授業っぽい内容を沢山聞いて、あとは先輩がコンクールに応募した作品を見せてもらったりとか、活動内容とか聞いたりした。
写真自体は各自で撮ったものを持って来たり、一番楽しそうだなって思ったのは課外活動として観光地での撮影があることだった!
まぁでも、体験自体はほとんどが説明の時間で、あとはカメラの基本的な操作とかで触らせてもらったくらいだったし、あんまり話したりも出来なかったから特別これってことは無いまま終わっちゃったな……。ちょっと残念!
続いて向かった先、部室の入り口で私たちは足を止める。
「ねぇ、なんかめっちゃ緊張しない……?」
「このくらい大丈夫だよ。
「適当言ってるよね!?余裕あるなら千賀が開けてよ!」
どうして私が躊躇しているかと言うと、部室の中からジャカジャカと凄い大音量の音が漏れてきているから。
そう、軽音学部です。
軽音ってなんか青春ぽいよねという短絡的な思考!
ビビる私を見かねた千賀が、「しょうがない」みたいな表情で息を吐きノックする。
多分中の人には全然聞こえてないと思う。
「失礼します」
「し、失礼しまーす……」
扉を開けた瞬間、演奏していた人達が一斉にこちらに目を向ける。怖い!
「お、また体験希望者?」
「いいねもっかい聴いてもらうか」
「え~、また?」
など、口々にこちらへの反応を見せる。
どうやら今日は既に体験希望者に演奏を披露した後のようだ。
不満げなメンバーもいるなか、私たちにも歓迎の演奏を披露しもらえることに。
演奏してくれたのは、最近よくネットでもテレビでも取り上げられている有名な邦ロック。
正直、上手い下手はあまり分からないけど、かっこいいな!
自分で弾けたらもっと楽しそう。
部室に響く音が千賀との拍手だけになった後、改めて簡単な部活紹介と楽器の使い方を教わった。
私はギター、千賀はベースを借りて練習する。
パワーコード?という押さえ方を教えてもらって、ほとんどがそれで構成されている簡単な曲をやらせてもらって。
同じ手の形をそのままスライドさせるだけでそれっぽく音を鳴らせて楽しい!
「1番弾けた!千賀はどんな感じ?」
「一応通しで弾けるようになったよ」
「早いな!?」
今日も才能の差を見せつけられたかと思ったけど、どうやらベースの方がかなり簡単な譜面だったみたい。
先輩は『ルートをなぞるだけの譜面だから』って言ってたけど意味は全然分からない。
先輩を交えて、1番だけだけど一緒に弾けて楽器の楽しさを教えてもらってめっちゃ楽しかった~!
「ありがとうございました!すっごい楽しかったです!」
「それはよかった。やる気になったらぜひおいでよ、汐留ちゃんも」
「はい、ありがとうございました」
そう言って私たちは部室を後にする。
これで体験したい部活は全部回ったんだ。あとはどこにするかを相談しよう。
「いやー楽しかったね。もう軽音にする?」
「……決めるのはまだ早いと思うよ」
「……なんで?」
なにやら神妙な面持ちで待ったをかける千賀。
さっきは結構楽しそうだったのに、何か引っかかってる感じ。
「だって、楽器を買って練習し始めたとすると、家で膝の上に座り合う時間が減るから」
そんなことかい!というより先に、確かに……!と思ってしまった自分が悔しい。
そうだ、さっき練習してた時は膝に楽器を乗せて練習してた。
普段の私たちは、その日の気分によるけど大抵どっちかがどっちかの膝の上とか足の間に入ったりしてる時間が多い。
だからその時間が減るのが惜しいって言うのは、ほんのすこーーーしだけだけど共感できる。
……いうて家での楽器練習なんて1日1時間とかでしょうに!
「えー、ダメなの?じゃあどうしよう」
「それをじっくり相談する為に、今日はあそこに行くんでしょ」
あそこというのは、昨日陸上部の体験の時に教えてもらった桜並木のある通り。
桜が散らないうちに行かなきゃ!ということで今日早速行くことにしていたのだった。
「ん~、ならとりあえず行こっか!」
◇
昨日は渡らなかった橋の前。
私たちは目の前の景色を目に焼き付けるように桜を見ながら歩く。
「うわ~ここまで来たらほんと凄いね!こんないっぱいの桜を近くで見たの初めてかも!」
「
「唐突に結婚すな!」
急に知能が下がる千賀にツッコミを入れつつ、脇に並ぶ店を見回す。
ていうか苗字貰うなら私の方でしょイメージ的に!
「あ、こことかオシャレ」
ちょっとレトロな雰囲気の喫茶店が目に付いた。
看板のメニューを見た感じ、大体1000円くらいあれば楽しめそう。
「じゃあ、ここに入ろう」
千賀が私の手を引いて店内に入る。
扉を開けた時にカランカランと鳴る音が、いかにも喫茶店!って感じで雰囲気がある。
「えーとじゃあ私は~……」
2人でそれぞれ珈琲とケーキを注文する。
せっかくだから店外にある席に座ろうということで、私たちは太陽が沈みかけた赤い空と桜の景色が広がる席で珈琲を待つ。
「いやほんと、何回も言っちゃってるけどほんと良い景色だねえ」
「そうだね、このお店も『Cherry blossom』って名前だし、よっぽどここの景色が気に入って建てたのかな」
私たちは向かい合わせで座って、でもお互い向かい合わずに景色を眺めている。
会話もほとんど無いのに、こうして座っているだけでほんとに贅沢な時間って思っちゃうな。
ほどなくして、店主のお爺さんが珈琲とケーキを持ってきてくれた。
珈琲はあんまり分からなかったから、私も千賀もブレンド。
ケーキは私がシンプルな苺のショートケーキ、千賀はガトーショコラ。
「ねぇねぇ、せっかく景色も日の傾き方も良い感じだし自撮りするべきでしょ!」
「うん、桜が後ろに来るようにして席を寄せよう」
いそいそと席を動かして肩を寄せ合う私たちの前には、美味しそうなケーキと珈琲。
それから背景にはいっぱいの桜に、花びらの隙間から漏れるような太陽の光。
あまりにもシチュエーションが完璧すぎて、思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
完璧な景色に負けないように、私たちもぴったりくっついて完璧な表情を作ってシャッターを切る。
「綺麗……」
「これは完璧すぎるでしょ!はいロック画面決定~」
手際よくエアドロで千賀にも写真を送り、早速ロック画面に設定する。
でもあれだ。横向きに撮ったから、写真全体が入らない。
仕方が無いから千賀が写っている部分をアップにして、顔が時計に被らないようにする。
盛れてるのもあってめちゃくちゃ美少女過ぎる。
多分普通の人からすれば爽やかな笑顔って感じるかも知れないけど、実際は近年まれに見るくらいの満面の笑みだ。かわいい!
千賀に『みてみて』ってしようとして顔を向けると、千賀もまさに同じことをしていた。
「ねえ!おんなじことしてるじゃん!」
「だって彩朱花の笑顔可愛すぎたから。むしろこうしないと失礼かなって」
「いやいや、千賀の方がめちゃくちゃ可愛いって!」
お互い画面を見せながら不毛なやり取りをしていると、千賀が言う。
「こうやってスマホくっつけたら、2ショットに戻るね」
「現代の割符!?」
「風情が無さ過ぎるよ」
今日はもう何をやっても面白いモードに入っちゃって、しょうもないことを言い合いながら贅沢な時間を過ごす。
縦画面での写真をもう一回撮ってこっちはホーム画面用にしてみたり、お互いのケーキ食べさせあったり。
このお店で過ごしたのはほんの1時間くらいだったのに、最近の中でも凄く幸せ指数の高い時間だった。
「あ~めっちゃ笑った!」
「私も。ここまで楽しかったのは久々な感じする」
「……ねぇ、千賀」
「なに?」
私は楽しくてすっかり忘れてた話題を引き出す。
「写真部にしよっか」
「言うと思った」
「やっぱり?」
「景色とかより自撮りでいっぱいになっちゃうよ」
「両方撮ればいいだけ!」
千賀の「しょうがない」みたいな表情には、明らかに私と同じことを思ってたって心が滲み出ている。
私の心の中からも、まだ千賀に伝えきれていない色んな感情とか思いが滲み出そうになって、それを千賀に悟られないように笑顔を作りながら。
「いっぱい思い出残そうね!」
と、それだけを伝えた。
◇
「え、夜勤?」
「今日のシフトの人が熱で来られないからって、急にね」
千賀の家のリビング。
晩御飯が出来たので部屋から降りてきたら、珍しく千賀のお母さんが出かける支度をしていたから何事かと聞いてみると、どうやらパートが足りていないらしい。
「あなたたちももう高校生でしょ、そろそろ私が夜も家にいなくたって大丈夫かなと思って。あ、お風呂の沸かし方分かる?」
そんな感じで急いで説明をして出て行ってしまったので、今日は千賀と2人きりの晩御飯。
「今日だけなのかな?今後もだったら大変だよね」
急な夜勤を少しでも労うように、食べ終わった食器を一緒に洗ったりしてからお風呂を沸かす。
その夜勤のこととかも含めると今日は色んなイベントが盛りだくさんな1日だったけど、まさかこの後にまだあるとは流石に私も思っていなかった……。
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