第5話 部活くらいは一緒がいいな
「そういえばさ、部活はどうする?」
高校生活を満喫するうちの一つとして、やっぱ部活は押さえておきたいところ。
ぼちぼちと部活ごとの体験が始まったからそろそろ本格的に考えようってことで
「一旦どこかに入部するものとして、
「やー、部活くらいは一緒がいいなって思うかな。あんまりなんでもかんでも別々にしたら絶対寂しいもん」
私がそう言うと、千賀は嬉しいような複雑なようななんとも言えない表情をする。
「彩朱花ってなんだかんだ、私の事好きだよね」
「なんだかんだもなにも、直球で好きだけどね?千賀だってそうでしょ?」
「それはまぁ、そうだけど……そうなんだけど、そうじゃないというか……」
表情が更に複雑になっていく。
言わない方が良いけど、言いたくて迷ってるみたいな間で喋る千賀の迷いを消すように、私は軌道修正をする。
「とにかく、何かの部活に入るならさ、興味あるやつをお互いリストアップしてみてその中で回ってみない?」
「……うん、そうしよっか」
◇
そんなわけで、放課後。
今日と明日に分けて2つずつ行ってみることになり、今日は運動部に。
私たちがテニスコートの近くでキョロキョロしていると、奥の部室から出てきた先輩らしき人がこっちに来て声をかけてくれる。
「君達、もしかして入部希望者?」
「そうです!あ、いや体験なんですけど!お願いできますか?」
最初に来たのは女子ソフトテニス部。
ちょうど今日は体育があったので、持ってきていた体操服に着替えてから来たおかげか、すぐに察してもらえた。
「じゃあ始まる時間までちょっと待っててね。部室にラケットがあるから先にそれだけ選ぼうか」
それから私たちは準備体操してから、軽くテニスのルールとかフォームを教えてもらって千賀とラリーしたりして。
終わり際には、体験に来てた他の子2人とダブルス形式で簡単に対戦もさせてもらった。
「なんか緩くて楽しかったね。ずっと激しく動いてるって訳じゃないし、休憩も多いし」
「そうだね。結構カジュアルだったから、良い意味で運動部らしくなかったかも」
きつ過ぎない程度の楽しい運動だし、千賀と喋ったりしながら出来て楽しかったな。
ここはアリかも。
テニス部を1時間程度で抜けてから、次に来たのは陸上部。
顧問の先生に体験に来た旨を伝えて参加させてもらう。
「まぁ陸上部っつってもな、結局走ってるだけだからな。とりあえず短距離と長距離試しとくか?」
走るだけという言葉だけを聞くと、さっきのテニスみたいに緩く走るくらいの部活なのかなってイメージが湧きそうなもんだけど、この先生超スパルタっぽい雰囲気を出してる……!
「おーい2年!誰かこいつら外周連れてってやれ!普段の半分くらいのスピードでいいぞ」
先生がそう言って2年の先輩を付けてくれた。
「それじゃあ行こっか。2人は陸上の経験ある?」
「ないです!」
「私も無いです」
「そっかそっか、じゃあ1週でいいかな」
……ここの部活も意外と緩めかもしれない!
「ぜぇ……はぁ……はぁっ……先輩……これ、あとどのくらい、ありますか……」
「今半分越えたくらい!もうちょっとだよ、頑張れ~」
涼しい顔して前を走る先輩。学校の外周1週と言われたらまぁ、そうなのかもしれないけど。
「1週、が!長すぎませんかぁ!はぁっ……どこですか、ここ!」
明らかに学校から離れた、全く知らないルートを通っている。
ていうか、この辺り微妙な傾斜が多くてめちゃくちゃ疲れる……!
「私達まだ学校の近くはほとんど散策したこと無いんですけど、良さそうなお店とか雰囲気の良い場所が結構ありますね」
「千賀すごいな!?」
全然息が乱れてない!結構しんどそうな表情はしてるけどさ……私と同じ生活してるのになんで?
「お、いいとこ見てるね~、一番のおすすめスポットはもうすぐ着くからそこ見せてあげるね!」
それからしばらく走って、学校まであともう少しと言うところで地獄が見えた。
高さ3mくらいある階段です。先輩そこに向かって走ってます。死ぬ!
「あれだよ!」
やはり先輩はあの階段に指をさす。
「今一番嫌なスポットです先輩!」
ここに来て辛すぎる階段を死に物狂いで駆け上がる。
気合で登りきるとそこには──。
下り階段があった。なんだよ!
私が絶望に打ちひしがれていると、目の前で先輩は足を緩める。
「ちょっと休憩しよっか。ほら、あれを見て」
私が肩で息をしながら、千賀と右側を見る。
そこにあったのは、桜並木。
厳密には手前に橋があって、その先に桜並木と脇にオシャレなお店が立ち並んでいて、思わず息を飲む。
「うわ、綺麗……」
「凄い……こんなところが学校の近くにあったんですね」
「ここはねー、学校の正門より裏手にあるから、この辺に住んでない子は中々気付かないよね」
確かに、特に電車通学の生徒は正門を出たら揃って最寄り駅に向かう。
そのルートとは真逆にあるので、学校から近くなのに全然知らなかった。
満開の時期よりほんの少し後になっちゃってるみたいだけど、だからこそ散り始めてる桜もすっごく綺麗だし、近くに並ぶ店もその景色を味わえるようにか外にも席があるお店が多い。
「橋越えちゃったら流石に寄り道しすぎるから行けないけど、今度改めて2人で行ってみたら良いんじゃないかな!」
「はい!また行こうね千賀!」
「絶対来よう。先輩、ありがとうございます」
しばらく遠目に桜を見て楽しんだ後、私達は学校に戻る。
「おうお疲れ。体は慣らしたし、次短距離な」
先生にそう言われて、これで終わりじゃなかったことを思い出した。
しかもさっきのは簡単な長距離の体験と準備運動を兼ねてたらしいので、あれで準備運動程度なら実際に入部したらとんでもなくハードなんじゃない!?と、体力のない私は嘆きながら走ることになったのだった。
◇
「あぁ~……疲れた……」
陸上部の体験がようやく終わり、帰る前にへにょっとしているところ。
「陸上は流石に辛かったね、汗も結構かいちゃったし」
「そー、それどうしよっかな。電車通学で体操服のまま帰るの恥ずかしいし、デオドラント使っときたいしどこで着替えようかなぁ……部室借りればよかった」
「教室ももう閉まってそうだし、仕方ないから今日はこのまま帰ろっか」
そう言って千賀が抱き着いてくる。
「わー待って待って!今ほんと無理だから離して!」
ぐいぐい押しのけようとするけど、全然離れてくれない。
それどころか首元に顔をうずめて、なんかリラックスしてる……?
違うこれ深呼吸してる!
「ばかばか!絶対汗臭いからやめてってば!」
「うん、すっごい汗の匂いしてる」
そうはっきり言われると嫌な汗が余計に滲んでくる。
「じゃあ離れてよ!」
「こんな良い匂いなのに、わざわざ離れる意味が分からない」
「変態か!」
しばらく押し続けてようやく離れてくれた。
ていうか汗の匂いなら千賀だってしてたのに、私に嗅がれるのが嫌だって思わなかったのかな。
まぁ、私も嗅いでて嫌だなとは思わなかったけどさ。
結局、今日は仕方なくそのまま帰って真っ先にお風呂に入ったんだけど、そこでもまた嗅がれた。
お互い汗かいた体で抱き合うと、肌がぴったり密着する感じがすごく気持ちよくてドキドキしちゃって、私が帰りの時ほど拒否出来ないでいると千賀に首筋をぺろぺろされたりして、なんかめちゃくちゃ変態っぽかった……。
普段の私はいつも匂いに気を使ってるからか夏場でも今までこんなことは無かったんだけど、もしかして千賀って実はそういう癖があったりするのかな……?
……運動部は却下しなきゃいけないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます