第4話
手をつないで出奔したふたりは、フジコさんだけが硬い白炭のようなミイラになって帰ってきた。
抜けた女の
だから、この村に巣喰うガサガサは、ここだけには
「フジコさん」と声に出して呼んでみる。それが許されていると教えられたわけではないが、こうしたあとの月番だけは在りし日の感慨に
「フジコさん・・・・・あの晩よりもずっと前からこうなる覚悟はできとったんやね」
ふたりの夜は、眠るときではなくなっていた。
真っ黒だったけど、艶やかな黒髪とそれに負けないくらい艶やかな黒い肌のフジコさんだったから、
繋がって、ヤマモトさんが
無理して聞き耳を立てんでも、催促するように
むろん、そんな家々を繋ぐ施餓鬼の亡者の忙しさをうちのダンナさんやヤマモトさんら男には見えも聞こえもしない。
ー 施餓鬼の亡者からの施しは、うちら
うちのダンナさんは、うちの褥に入って
ー 目に焼き付いてるから・・・・・目を閉じると、よけい、赤い夕陽を背に彼方からこちらに駆けてくる天馬のいななきが熱く伝わるから。
それは見たものやない。
目に見えてるものに、そない
ヤマモトさんが帰ってきてからお互いの眠りを貪るようにする睦ごとのなかのお空から落ちてきてる紐を昇る汗ばんだフジコさんの裸の四肢を見たわけやない。
けれど、出奔する晩にフジコさんは、お湯の中に入ったお
駿馬のいななきに似たあの声を思い出すと、うちは濡れてくる。艶やかに濡れてくる。うちがそれで濡れるのをダンナさんはしらない。
毎晩あないにしがみついとるんやもの。「ヤマモトさん、水汲みもせんと目の届かん切り株に尻餅ついたペタりんこで日がな一日眠ってる」って、のほほんとそれを寝物語で言うダンナさんは何も知らない。あの
ー ダンナさんって、うちのダンナさんなんやろうか、
年に十日づつ順繰りにくるダンナさんの顔浮かべながら「あのひと、このひと」と指を折ってはいかんと、各々の顔をなぞってはいかんと、お正月のしんこの
けど、おっかさんかてダンナさん持っとった女子のうちは、
ー
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