俺氏、ぬいぐるみだけど呪われてる件。
鬼影スパナ
ぬいぐるみは売れたい。
そこは、とある水族館のお土産コーナー。
その売り場には、呪われたぬいぐるみがいた。
呪われたと言っても特に悪い事をするわけではない。ただ少し動けて、少し喋れるだけだ。彼は一緒に並んでいる他のぬいぐるみと同様に、シロクマのぬいぐるみだった。ふわっふわの白い毛皮の黒いボタンの瞳、黒い逆三角の鼻に刺繍の口を持つ税込み1100円のぬいぐるみだった。
一見して区別がつかないし、触り心地だって極上の出来栄えだと自負している。
とはいえ、呪われているせいか他のぬいぐるみとはやはり何かが決定的に異なるのだろう。彼は長い事売り場で売れ残っていた。
「ちくしょう。なんで俺が売れ残るんだ……」
はぁ、とため息――は、肺がないからつけないが、悪態をつく。他のぬいぐるみを押しのけていつだって一番手前に出てきているのに、いつも手に取られるのは隣かその隣か、あるいは奥からわざわざ引っ張り出された他のシロクマぬいぐるみだ。
幸いなことにロングセラーなので、ワゴンに行っての売れ残り処分、そこでも売れ残って廃棄ということにはならない。まぁ、賞味期限がある食べ物よりは処分される不安が少ないだけマシだろうか。
「やっぱシロクマってのがダメなのかなぁ……売れ筋一番人気のペンギンだったらもっと早く売れてたかね? なぁどう思う?」
と、隣のシロクマに話しかけるが返事はない。喋ることができる、呪われたぬいぐるみは彼だけなのだ。特別な存在、と言えば聞こえはいいが、売れ残りには変わりない。
「……はぁー、可愛い女の子に買われて抱っこされて寝てぇ……」
今日も、彼はそんなことを呟いて、陳列棚の最前列で普通のぬいぐるみのフリを続ける。というか、そんな若干よこしまな考えの気配を感じ取られて売れ残っているのではなかろうか。
とはいえ、彼以外に彼が呪われていることを知る者はいないので、それを指摘する者もいなかった。
俺氏、ぬいぐるみだけど呪われてる件。 鬼影スパナ @supana77
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