Chapter02 虚妄
〜「ケーキを食べればいいじゃない」
――数あるうちの一説では、ルソーが放ち、革命軍が利用した言葉と言われる。
彼女もまた”虚妄“に殺された1人なのかもしれない〜
Data:2016/06/20
Time:09:28
ひと雨降りそうな天気だ。僕はそう感じると、近くの大型ショッピングモールへと駆け込んだ。とりあえずこれで雨が降っても平気だし、こんだけ広けりゃ暇にはならないだろう。最悪、傘を買えば済む話だ。そう考え、店内を散策し始めた。
Data:2005/10/18
Time:20:58
「ねえおばさん、つぎのお話して!」
「トイは本当にお話が好きねぇ」
幼きトーリーのお願いにそう返すのは、彼の叔母であるサラだ。丸く、幼く見える顔。その中心にはちょこんと鼻が乗っかっている。熟れたいちごのような真っ赤な唇は少し端が上がっていて、ミステリアスな雰囲気を思わせる。瞳はやはりトーリーのように澄んだ青色だ。その瞳には、目を輝かせて待っているトーリーの姿が映っていた。
「それじゃ、今日は私がボツにしてしまったお話にしましょう」
そう言うと彼女は言葉を紡ぎ始めた。
あるところに、小さな小さな村がありました。その村にあるとあるお家には、お父さんと男の子が1人住んでいました。
男の子のお父さんとお母さんは昔一緒に住んでいました。ですが、お母さんはお父さんの横暴さに耐えきれず、ついには男の子を置いて出て行ってしまいました。
お父さんはお母さんのそんな行動が許せませんでした。もともと横暴な性格ということもあり、男の子に暴力を振るうようになりました。お父さんは性格が悪く、男の子が裸にならないよう躾け、服で隠れるようなところだけ傷つけていきました。
男の子は成長して、少年と言われるほどの歳になりました。その少年は村の少年たちとよく遊びました。ですが、少年は遊ぶ度に喧嘩をし、また嘘をつくことが多く、自然と友達は離れていきました。そして家に帰ると、喧嘩や嘘が原因でお父さんに酷く打たれました。しかし少年は何が悪いのか全く分かっていませんでした。
ある日のこと、「狼が出たぞー」と叫びながら少年は山から駆け下りてきました。周りでは村人が仕事をしています。もちろん狼が本当に出たのであれば、すぐ家に逃げ込まないといけません。ですが、村人はそのまま仕事を続けています。
「おばさん、狼が来たんだって! 早く逃げないと危ないよ!」
少年が近くで仕事をしている女性へ声をかけますが、その女性はただただ笑うだけで仕事の手を止める気配がありません。他の人たちも一切休むことなく働いています。
そう、少年が嘘つきだということは、村中に知れ渡っていました。ずっとずっと前に、彼のお父さんが村の人たちにそう伝えていたのです。嘘をついたら躾けるから、その場では適当に流して後で俺に伝えてくれ、と。確かに少年の目には狼が映っていました。しかしそれは、少年だけです。その日結局、狼は現れませんでした。
もちろん、家に帰るとお父さんは怒って、少年に暴力を振るいます。お父さんにとっては、少年を打つ最高の理由になるのです。ですが少年は何が悪いのかわかりません。そもそも嘘をついた記憶がないのです。
そんな日々が続いたある日、少年は父親を殺しました。少年にとって、父親の存在は不要に思えたのです。
たまたま冷蔵庫に入っていた氷。それを靴下へ詰め、ひたすらにお父さんを殴りました。お父さんが死んだことを確認すると、少年は氷をその場へばら撒き、靴下は外へ投げ捨てました。
次の日、お父さんが息子に殺されたという話が村中に広まりました。凶器は見つかりませんでしたが、誰も彼もが少年を疑います。虐待は村中誰もが知っていて、その恨みからやったのだと判断されました。
いくら暴力を受けていても、親殺しは大罪です。少年は村はずれの森の木へくくりつけられました。
いくら叫んでも村へ声は届かず、ついに少年は死んでしまいましたとさ。
「――まあ嘘は良くないってことなんだけど」
語り口調をやめ、話の説明を始める。
「この少年は虐待で精神がおかしくなっちゃったの。でもこれに似たのって生まれつきなのも――」
喋りながら顔を上げると、そこには舟を漕ぐトーリーの姿があった。ときどきパッと顔を上げて目を開くも、次第に瞼は閉じられていく。
「あらあら、やっぱりこの話は難しかったかしら。まあ元はミステリーの殺人事件だったわけだし」
「むずかしかったけど、ぼくはおばさんの話が――」
そう言いながら、こてんとサラの膝へと転がった。よほど無理をして起きていたのだろう。
サラは、ふふふと笑いながらトーリーの頭を撫でる。眠っているトーリーの顔は、少し笑っているようにも見える。
「今度はあなたの夢のお話が聞きたいわ、トイ」
トーリーを抱き上げると、サラは寝室へと運んでいった。
殺人トライアングル @mogura0708
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