第21話:堂々侵入、魔王城!
魔王城に近づくにつれ、モンスターの数は増えていった。
二足歩行のトカゲ、リザードマンが出たり。
ララの様な妖精型のピクシーなんかも出たりした。
その度に近藤は石役になったり、木の役になったりと忙しそうだったが、僕らの助けを受けず、なんとか凌いでいた。
それらを何とか討伐して、とうとう魔王城の麓まで来た僕ら一行。
やはり、元が日本の城という事もあって、周りは水堀で囲まれている。僕も初めて日本の城を見たが、魔王が違法建築をしていなければ、さぞ壮観だった事がわかる。
水堀で囲まれた小高い丘に、石垣から堂々と建つ城の姿は、僕ら挑戦者を待ち受ける様たたずんでいた。
「僕は元の大阪城も中の構造わかってないんですけど。捕虜を繋ぎ留めておく牢屋みたいなのあるんですか?」
「俺も知らねぇ……城なんて興味がねぇからな」
まぁ城の外見からもわかる事だが、中の構造も元とは全然違うだろう。なので、元の内部構造を知っていても役には立たない。
水堀に何かモンスターが潜んでいる可能性もあるし、水堀から極力離れた道を慎重に進む。さすがに水棲モンスターは居なかったのか、難なく魔王城の門に到着した。
門の前には門番のように槍を持った悪魔の様なモンスターが1体立っている。……隠れる場所もない。
話し合いの結果、僕が先行して武器を構えて真っ向から突撃する事になった。藤原さんと沙夜は少し遅れて僕の後ろから万が一のバックアップを行う。
僕は仕込み刀を鞘に納めた状態で上段にかかげて、門の前に立つモンスターへ駆け込む。
「待たれよ、地上人たち」
「――っ!」
待てと言われて、待つ人は居ない。僕は勢いそのままに一見木刀の様な自身の武器を振り下ろした。悪魔の様なモンスターは僕が攻撃を止めない事がわかったのか、ニヤリと笑って僕の木刀を片手を使って挟み込む様に受け止めた。――白刃取りだと!
僕は即座に腰を落としながら、鞘に仕込まれた刀を引き抜き、そこから横なぎ一閃、所長との特訓が攻を制したのか、会心スキルも同時に発動する事ができた。今の僕が出せる最上の技だ。これならどうだ。
会心スキルが発動した事により、目の前のモンスターの弱点部分、胸の辺りに光の玉が浮かんだので、そこを刀で薙ぐように斬りつけた。寸分違わず光の玉を切り裂いた僕の斬撃は、悪魔のモンスターの胸にヒットしてモンスターの体を胸から二等分にした。
「ま、待たれよ地上人」
「……」
まだ息の根があるようだ。生命力の強いモンスターだ。僕は胸から上だけにもなっても生きているモンスターに無言でゆっくり近づいて、今度は頭に刀を突き刺そうと両手で柄を持った。
「ま、待ってください! こ、降参です! 殺さないで」
突然命乞いを始めた悪魔の様なモンスター。さすがに僕も、命乞いをしているのに殺すほど鬼畜ではない。悪魔にさっき白刃取りされて奪われていた鞘を拾って刀をそこに納める。
僕の鬼畜の所業を見ていたであろう、後ろに居たふたりを見る。唖然とした表情でこっちを見ていた。恥ずかしいからあんまり見ないで欲しい。
僕らは、悪魔の様なモンスター。
今や上半身しかないが、そのモンスターに対して腰を落とし、しゃがんで囲んだ。
僕らの出す威圧感に耐えきれなくなったのかモンスターが喋りだす。
「な、なに用でこちらに来られたのでしょうか?」
「魔王に捕えられている人はどこに拘束されているか教えろ!」
僕はモンスターに要望を告げた。
さっきはよく見ていなかったが、頭部に2本、昆虫の触覚の様なものが生えていたのでそこを掴んで持ち上げながら脅す。
沙夜は僕が持ち上げた上半身をサンドバックにするかの様に中腰の状態で殴る。
僕が触覚を掴んでいるため、宙づりでプランプランとしながらモンスターは泣き始めた。
「あ、あくま!!」
自己紹介かな? 僕は沙夜がモンスターを殴っているのを、仕込み刀を握った片手でストップをかけて、触覚を掴んだままぐるぐると振り回した。
「いいから教えろ!」
「目が! 目が回るぅうう! 話します、話しますから止めて……オェェ」
モンスターがえずき始めたので、一度振り回すのを止める。
「ひぃ……ふぅ……」
モンスターは自身の吐き気と戦っているみたいだ。そんなの待っている暇はない。ここは魔王のひざ元で、いつ魔王が現れても文句は言えないからだ。僕はモンスターの触覚を握ったまま立ち上がる。
「よし、案内しろ」
「……はい」
こうして、優秀なナビを手に入れた僕たちは、門番不在となった門を抜け、魔王城の内部へ侵入する事に成功した。近藤は僕らの大立ち回りにドン引きした様子だったが、無言で僕らについてきた。ドン引きしたまま帰ってくれてもいいのに。
道中、ちょうちんの様に僕にぶら下げられたモンスターは、僕らの機嫌を取ろうと必死に話しかけてきたが、それを無視して、時には殴りつけて案内をさせた。
城内に入ってしばらく歩いて、下り階段まで来た時だ。
「おい! 地上人の侵入者だ!」
僕が手から下げていたモンスターが叫んだ。
「「「ぐぉおおおおおお」」」
「ひぃいいい」
城内の至る所からモンスターの雄たけびが鳴り響いた。同時に近藤も悲鳴を上げる。……これ、やばくない? 撤退するにも門を潜り抜けてからしばらく歩いたので、距離がある。
とりあえず、宙づりで壊れたおもちゃの様に今も叫び続けているモンスターの後頭部を仕込み刀の持ち手、柄の部分で殴りつけて黙らせる。
「う……」
とりあえず、悪魔の様なモンスターが叫ぶのを止めたので、すぐに僕らの居場所がばれて、今雄たけびを上げたモンスターたちが一斉にここへ集合する事態は避けられた。
問題はここからどうするか? 僕は困ったので藤原さんと沙夜、ふたりを交互に見る。
僕の視線を受けた沙夜は不敵にニコリと笑った。
「私たちはビルメンよ! それなら、いつもの様に地下へ行くのみ!」
全く気の強い娘だ。こんな敵地でモンスターに囲まれて絶体絶命の状態でも余裕しゃくしゃくみたいだ。沙夜の言葉を聞いて僕も覚悟を決めた。
「よし! このまま階段を下りよう。その前に……よっ!と」
手にぶら下げていたモンスターをぶんぶん回してリリースして身軽になった僕は先行して下り階段を下っていく。
かなり長い階段だ。
どこへ繋がっているの階段なのか、果たして鬼が出るか蛇が出るか、僕らは無言で階段を突き進む。
長い下り階段も終わり、地下に到着した。薄暗い照明も最低限な長い廊下の左右に、檻の様なものがたくさん並んでいる。ここは地下牢なのだろう。
藤原さんは奥さんを見つける気持ちが抑えきれなかったのか、奥さんの名前を呼びながら走り出した。
「幸子! 俺だ! 居るなら返事をしてくれ」
藤原さんの悲痛な叫びが地下牢にこだまする。牢屋には大量に人間の捕虜が捕えられているのか、色んな方向から、人間のささやく様な声が聞こえる。
「あなた! あなたなの! どうしてここに」
藤原さんの奥さん、幸子さんはここ地下牢の中に居た。どうして自分の旦那がここに居るのか理解が追いついていないみたいだ。
「馬鹿野郎! 助けに来たに決まってんだろ」
藤原さんは鬼気迫る表情で奥さんに向かってそう言うと、牢の柵から離れるようにうながした。
「ふんっ!」
藤原さんは腰に据えた日本刀を素早く抜き放ち柵を切る様、縦横無尽に斬りつけた。
しかし、牢の柵は傷ひとつ付いた様子がない。どうやら相当堅い材料を使って作られた檻らしい。自身の刀で斬れなかった事にショックを受けたのか藤原さんはフリーズしている。
「一体どうしたら……」
それを見ていた僕の口から、思わず事態を嘆く様な呟きが漏れてしまった。
「私の解錠魔法ならいけるかも……」
隣にいた沙夜は僕の呟きを聞いて、自身の解錠魔法を試そうとした。
しかし、藤原さんの叫び声は階段を通じて、城内のモンスターにも聞こえたらしい。
ドタドタ、バタバタと複数のモンスターらしき足音が階段を下ってきているのが聞こえた。近藤は大量のモンスターが向かって来たとわかると、牢屋の檻になりきっているのか、壁に全身を押し付けた。白衣でバレバレだと思う。僕はうんざりしながら口を開いた。
「はぁ……、すんなりいかないよなぁ」
「楽しくなってきたわ!」
自分の奥さんが居る牢屋を牢屋の外から茫然と見つめる藤原さんをかばう様に、僕と沙夜はこれから起こる戦闘に備えて構えをとった。
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