第9.5話一方、その頃地下では
場所は先ほど山下大輔が謎の美少女を抱えて立ち去った地下11階層。そこで、一人の人型モンスターが話している。
「おのれ……!忌々しい
彼は自身がペットとして飼っていた半魚人型モンスターの無残な姿を見て激高していた。彼は自身の上司である「魔王」からここ都立病院の地下を管理するよう任命された地下の管理者だ。地上人からも同じく「魔王」と呼ばれる自身の上司からここを任せられて、かれこれ5年ほど管理者を行なってきた。
激高している彼は、地上に住む人間から見ると、もぐらのような様相、小柄な体型で、地下に住み続ける事で進化したのか手には指と言うものがない。スコップをそのまま手につけたような形状をしている。
「サハちゃん、ごめん。痛かったね……」
彼は自身のペットに「サハちゃん」と名付けて可愛がっていた。まさか地上人がここまで進出してくるとは夢にも思わなかったため、ペットのサハちゃんをここ地下11階で放し飼いにしていたのだ。結果、縦半分になってしまった愛しいペットを、彼は涙ながらに集めている。
「復讐してやる……」
彼には戦闘能力がない。それは彼の手を見てもわかる事だが……。まず、彼は武器というものを持てない。スコップを腕からそのまま生やしたような手では地上人の使う多種多様な武器の類を装備することができないのだ。かと言って、彼のスコップのような手がそれほど強いか?というとそんな事はない。スコップのような手は所詮、土を掘るためのもので、よくても大輔の持つ木刀と引き分け、藤原の持つ刀には一方的に切り刻まれるだけの結果に終わる。しかし、そんな事はわかっていても自身の愛したペットを無残な姿にした地上人への憎悪は抑えきれなかった。
「でもどうすれば……ん?」
悩める彼を救う神のようなタイミングで自分の上司の「魔王」から連絡がきた。連絡が来たと言っても地上人のような携帯電話によるものではなく、彼らの連絡方法は魔法による一種のテレパシーのようなものだ。魔王の言葉が彼の脳内に響く。
「あ、あ。聞こえるか?」
「はい聞こえております。どうしました魔王様」
「うむ。なにやら嫌な噂を耳にしたのでな。都立病院の地下を任せた、ディグ。貴様の安否を確認するために連絡した」
「嫌な噂ですか?」
「うむ。なんでも地上人が
「はい……」
ディグと魔王に呼ばれた人型モンスターは、魔王に対する返事に悲しい気持ちがにじみ出ていた。魔王もその事に気が付いたようだ。
「ディグ、何かあったのか?」
「はい、実は地上人がここまで進出してきておりまして。私の愛するペットが今さっき奴らに殺されました」
魔王へ自身に起こった事を話すディグ。魔王はディグの話を聞いて、驚いたような声で応じる。
「なんとっ!
「いえ滅相もございません。私が魔王様から承った仕事ですので、私自ら、かたき討ちを行ないます」
魔王はそこで復讐を誓うディグにちょうどいい品がある事を思い出した。
「ディグよ、その仇打ちに利用できそうな、いい品があるぞ。どうだ、使ってみるか?」
「どのようなもので?」
魔王の言葉に耳を傾けるディグ。魔王の話を聞き終わった彼はその顔に悪そのものの笑みを浮かべた。
「ありがとうございます魔王様。それを頂ければ私でも復讐ができそうです」
「ふむ、わかった。ならば、すぐに転送魔法でそちらに送ろう」
魔王とのテレパシーによる会話を終えたディグは、あくどい顔のまま、自身がこれまで地下の管理者として使用してきた地下11階層の一端に設けた部屋へ戻った。魔王がこれから送ってくれるであろう品物を受け取るためだ。そこは大輔や藤原のような一般のビルメンには一見洞窟風の壁にしか見えないように隠蔽の魔法が掛けられている。隠蔽の魔法は管理者である彼ディグによるもので、彼はこの魔法に関しては地底人では、右に出るものはいない事から管理者の任を受けていた。
地下11階層はたいまつが所々にあるので薄っすら明るい。自身のご主人に亡骸を拾ってもらう事のなくなった半魚人型モンスターの死骸が、そんな明かりを受けて不気味に鎮座していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます