第7話 僕の得たスキル
「では、大輔さんから鑑定していきますね」
「うん、おねがい」
ララは鑑定スキルを使ったのか、しばらく僕の周りをパタパタと羽音をたてて回る。
「大輔さんのスキルは『会心』っていうスキルみたいですね」
「それってすごいの?どんな効果?どうやったら発動する?」
スキルに対して無知な僕は、ララに質問攻めをしてしまった。この世界が僕の知る日本ではない。とさっき思い知った事もあり、僕もこの世界のスキルと呼ばれるものを持てば、こちらの世界になじめるんじゃないか。そういう考えもあった。
「そんな一度に質問されても……。一個ずついきますね。大輔さんの得たスキルはこの世界では5人に1人は持っているようなスキルです。つまり平凡です」
「そ、そっかぁ」
よくある「俺TUEEE」というような、スキルでなかったことに肩を落とす。5人いたら1人が持っているスキルということは、それほどの効果もないんだろうな。
「でもラッキーでしたね。会心スキルは平凡ですけど強力なスキルです」
「そうなんだ……」
「お!大輔君、会心のスキルだったのか。良かったな、使えないゴミスキルとかじゃなくて」
「はい……でも、どうやったらスキルは発動するんでしょう」
「それはこの後教えてやるよ。ララちゃん次は俺も鑑定してみてくれ」
藤原さんは僕にスキルの使い方をこの後教えてくれるらしい。藤原さんの周りをさっきと同じくララは鑑定スキルを使って飛び回っていた。
「んー、藤原さんのスキルは」
「どうだった?俺のスキルはなんだ」
「『見切り』のスキルですね、あとは『隠形』のスキルです」
「かーっ!この老体で見切りなんてあっても体がついていかねーよ」
ララの鑑定によると藤原さんのスキルは見切りと隠形いうものらしい。どんな効果を持つスキルなんだろう?というかスキルってそもそも、なぜ存在する?僕は思ったまま口にした。
「あの、スキルってなんで存在してるの?普通じゃないよね?」
僕の言葉を聞いた藤原さんは唖然というか常識知らずの人を見るような目でこっちを見た。ララは僕がこの世界の人間ではないことを知っているので、平然としているが、二人の温度差を見るによっぽどおかしな発言を僕はしてしまったらしい。
「スキルはモンスターが湧くような世界になって、すぐに発見されました。一説ではモンスターと何か関係があるのではないか、と言われています」
「大輔くんよぉ……今までどこで暮らして来たんだ?そんな事も知らずにその年まで生きてるなんて奇跡だぞ……」
「ここからかなり遠い場所ですね。モンスターのいない……かなり」
僕は藤原さんの質問にあいまいに答えた。どうやらスキルというのは何かモンスターと関係があるらしい。難しいことを考えるのは面倒だ。そういうのは学者にでもまかせておけばいい。とりあえず今は、スキルの使い方を早く知りたかった。藤原さんは僕が言ったモンスターのいない、という下りが気になったのか聞きたそうにしていたが、それを受け流してスキルの使い方を教えてもらうことになった。
場所は社宅の裏側の芝地である。社宅の裏にこんな場所があるなんて知らなかった。常に命がけの職業だから自己鍛錬を怠るな。そんな会社の意向なんだろうか。とにかく今はありがたい。僕は藤原さんとそんな芝地で向かい合って木刀を各自持った状態で対面している。
「いいか、スキルを使うってのは自身の中で強く念じるのが大切だ。言葉に出すなよ。相手はモンスターだけとは限らない。スキル名を口に出す奴もいるが、俺から言わせれば、あんなのは2流、3流だ」
「はいっ!」
「今から隠蔽のスキルを使って見せる。よく見とけ」
スキルというのは、スキル名を知らなくても使える。しかし、スキル名を知った状態の方がその効果は莫大に上がるらしい。今までスキル名を知らなかった藤原さんもさっき自身の持つスキル名をはっきり理解したことでスキルの効果が上がっているはずだ。と言って顔に笑顔を浮かべていた。
「――えっ!」
僕の目の前から藤原さんがこつぜんと消えていた。僕はキョロキョロと視線を右往左往させて藤原さんを探す。
「ここだよ大輔くん」
藤原さんはいつの間にか僕の背後にいた。
「すごすぎじゃないです?隠形のスキル」
「いやーまさか俺もスキル名をはっきりとわかっただけでここまで強力なスキルに化けるとは思ってなかったぜ。今までは精々がナースさんの背後から匂いを嗅いでるくらいだったが、これなら……」
何やら自身の妄想世界に入り込んだ藤原さんを呼び戻す。
その後何度か隠形のスキルを使った藤原さんを探したが、結局僕は一度もどこにいるのか、皆目見当もつかなかった。そして、藤原さんが自身のスキルに満足したので、次は僕がスキルを試してみる番だ。
「いきますねっ!」
「おう!こい!」
僕はそう言って一度まぶたを閉じる。さっきわかったスキル名『会心』を心の中で強く念じた。ゆっくりと目を開ける。すると、藤原さんのちょうど心臓のあたりと手にした木刀の中心あたりに光の玉が見えた。成功だ。
「藤原さんと木刀に光の玉が見えます。発動できました」
「じゃあ木刀を斬ってみてくれ」
藤原さんの言うまま、木刀の光の玉を切断するように木刀を振り下ろす。同じ材質の木だが、僕の持つ木刀は藤原さんの手にした木刀を熱したバターを切るように何の抵抗も感じず両断した。
「す、すごい。これがスキルの力……」
「……!」
藤原さんも驚いているのか目を見開き、声も出ないようだ。このスキルがあれば大抵のモンスターに太刀打ちできるだろう。現にさっき地下で、鉄棍を持った階層主オーガも難なく討伐できた。僕はここに来て初めてワクワクしていた。男に生まれたからには一度は勇者やヒーローという存在に憧れるものだ。僕はそんな童心をこの年にして未だに持っていた。そんな僕の様子を見ていた藤原さんが、うわ言のようにつぶやいた。
「もしかすると、大輔君なら……いや他力本願だなんて性にあわねぇな」
「なにか変なところありました?」
僕はスキルの発動が下手だとか、そういう指摘だと思って藤原さんに尋ねた。しかし、どうやらそういう訳ではなく、何か別の事柄らしい。
「ん?あぁ大輔君のスキルは問題ねーよ。あー……もし俺が、いよいよ死ぬって時に教えてやる!」
「は、はぁ?」
御年54歳にして、未だに小学生のようなスカートめくりを病院のナースにしている老人。そんな殺しても死ななそうな、むしろ墓場から這い上がって来そうな藤原さんには何かこちらに言いたくない秘密があるのだろう。
それだけ言うと藤原さんは自身の社宅1Fの部屋に戻っていった。僕も1Fで藤原さんと別れて2Fのララの部屋に戻る。玄関を開けるとララが出迎えてくれた。
「うまくいきました?」
「うん!完璧だったよ」
「それならよかったです。晩御飯できてますよ」
「いつもありがとう。でも先にお風呂入っていいかな?汗かいちゃったし」
それほど体を動かしたわけではないのだが全身汗だくだった。スキルを使うのは神経もそうだが体力も使うらしい。お湯につかりながら今日一日を振り返る。異世界に来て不安なこともまだ多いけど、おおむね順調だ。この調子ならスキルの発動も楽々覚えることができるだろう。一つだけ今日気になったのは藤原さんの隠し事くらいだ。でもそのうち彼の口から聞けるか。僕は湯船に頭から沈んで、ここまでの考えを汗と一緒に流した。
しかし、この時の僕はまだ、これから地下で降りかかる災難に気づいていなかったのだ。
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