第3話 嫌な予感
翌朝、僕が起きるとララは既に起きて朝ごはんの用意をしていた。「おはよう」
「おはようございます大輔さん。よく眠れました?」
「うん、今日も一日、頑張れそうだよ」
僕はララに挨拶してからテーブルにつく。すると、そこに朝食が並べられていた。トーストに目玉焼きやベーコンなどオーソドックスなメニューだが、どれもとても美味しそうだった。
「簡単なものばかりですけど、どうぞ召し上がれ!」
「いただきます!」
早速食べ始める。うーん、美味い!こちらに来てからというもの、食事に関してはずっと満足している気がする。そんな事を考えているとあっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ、ありがとうララ」
「お粗末様でした。お昼のお弁当も作ってありますから、忘れずに持って行ってくださいね」
「ありがとう!」
本当に奥さんができたみたいだなと思いながらも、僕は朝の身支度を整えた。忘れずにお昼の弁当をを持って玄関へ向かう。
「それじゃあ、いってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
玄関を出て二階からの階段を下っていると、一階から声をかけられた。
「おはよう大輔君。今日も一日頑張ろうな」
「おはようございます藤原さん。今から出勤ですか?」
少しくたびれた洋服を着て、寝ぐせだらけの白髪をそのままに玄関から出てきた様子の藤原さんが、そこにはいた。
「年甲斐もなく昨日は飲みすぎたかね……少し寝坊したよ」
「まぁ、まだ始業時刻までありますし、そこまで急がなくても大丈夫じゃないです?」
「……それもそうだがね。新人君を受け持つ身としては少し反省だな!」
朝から微笑みながら、そう言ってくる藤原さんに親しみを覚えながら職場まで徒歩5分程度の道を歩く。しばらく藤原さんと雑談をしながら歩くと、今僕が務めている建物が見えてくる。元の日本でもそうだったが、異世界の日本も変わらず首都は東京都らしい。そんな都の恩恵を受けて、建築された数ある都立病院の一つが僕の勤め先である。地上階つまり、地下を含めない地上の階層が10階まであり、そこにはレストランや売店なども含まれる。病院内の地図はまだ覚えきれてないので、藤原さんの先導が必要だ。
「今日の予定は、午前中は地上階の機械類の点検だ。昼休憩を挟んでから、午後から定時の18時まで地下だ。昨日、地下への行き方は教えたはずだから、今日は大輔君の先導で地下へいってみような!」
「はい!わかりました」
そんな会話を交わしながら、病院の建物一階にある事務所、通称『防災センター』へ入っていく。少し重い両開きの鉄扉を開けると、数十台のPCとその情報を映し出すモニターが乱雑に並べられ、片隅に人間用の事務机と椅子が4卓ほど四角く置かれている。初めて見た時も思ったが、人間の部屋というよりPCの部屋という印象が強い部屋に僕は入っていく。藤原さんと僕で、それぞれPCとモニターの確認を行う。
「とりあえず、異常はなさそうだな」
「はい。こっちも異常ありません」
朝一のルーティンとも言える、PCモニターチェックをこなす。というのも、この病院各所の主要な機械類にはセンサーがつけられており、異常があればすぐに警報が発せられるのである。
「……ん?地下のセンサーが注意になってるな。今日の午後は忙しそうだ」
さっきの主要な機械類には、もちろん昨日僕らがゴブリンに遭遇した地下も含まれており、その情報もここで拾うことができる。と言っても、歩いた往路に赤外線センサーを置いてきているだけなので、そこまで正確な情報は得られないらしいが……。
「あと何体いるんでしょうね。その階層のモンスターを全て討伐すると次の階層への階段とエレベータースペースができるんでしたよね?」
――……異世界チックというか、一つの階層毎のモンスターを全部討伐すると次の階層に行く階段とエレベーターを設置するスペースが自動でできるらしい。誰も原理は知らないし、人類の英知を結集した科学でも未だに解明されていないみたいだが……。
「これは、あくまでも俺の第六感だが……こりゃあ階層主がいそうな感じだな。最悪、階層主の姿だけでも拝んで今後の対策を考えるか」
稀に、その階層のモンスターよりも強力なモンスターが出現することがあり、それを階層主と呼ぶらしい。階層主は一筋縄ではいかないので、何度かトライアンドエラーをして討伐していく。トライするのはいいが、エラーの際に命を落とすケースも珍しいことではなく、それも『ビルメン』が不人気な理由の一つらしい。
「僕も木製バットじゃなく、もう少し強力な武器がほしいところですね……。昨日の一件だけでバット折れちゃいましたし。」
「……あっはは!それなら資格試験頑張らないとな!まだまだ若いんだし、資格もドンドン取ってもらわないとな期待してるよ!」
この世界でも警察は仕事をしているらしく、僕の暮らしていた日本と同じく銃刀法違反がある。なので藤原さんのような物騒な刃物を持ち歩くには、それ相応の資格が必要になってくるらしい。
「藤原さんのような刀を持つにはどういう資格が必要なんでしたっけ?」
「あぁ……。俺のこれかぁ、こいつは危険物取扱者の乙四種が必要だ。まぁ乙四なんてのは、この仕事をしてれば誰でも取れる資格だ。この武器だってそこまでいいものじゃないぞ」
武器を取り扱う資格として、国が定めた資格が危険物取扱者だ。下から、丙・乙・甲となっており、丙種が金属製の打撃武器全般、乙種が第一類から第六類まである。一類が劇物、要は毒を武器として取り扱うことができる資格、二類が火炎放射器などの炎を取り扱う資格、三類がトラップ系、つまり罠を主体とした資格、四類が藤原さんの持つ刀のような、銃刀法違反で取り締まり対象の刃物全般となっている。五類・六類はマニアックな武器種らしくあまり説明がない。甲種は丙・乙全般の武器を取り扱えるが、日本でも数人程度持っていればいい方という、マイナー資格である。
「まぁ午後の事は午後考えるとして、まず午前の仕事をこなすぞ大輔君」
「了解です」
僕らは連れ立って午前の業務である地上階の機械類の点検に向かった。問題なく午前の業務が終わり、ララ特製のお昼ご飯を食べて午後になった。
「じゃあ大輔君先導よろしく」
昼休憩終わりに、僕と藤原さんはそれぞれの得物を担いで業務用エレベーターへ向かう。連れ立ってエレベーターのかご内に乗ると、僕はおもむろにカギを取り出し、階層ボタンのある真下、普段は誰も触れない位置のカギを開ける。そこには、地下への移動を可能にする階層ボタンがついており、僕は迷わず地下十階を押した。しばらく、エレベーターの無機質な稼働音と、独特の揺れを感じていると地下にたどり着き、エレベーターを降りる。そこは昨日と変わらず洞窟のようなごつごつとした岩の壁面でLEDランタンが無ければ一メートル先すら見えない暗闇が僕たちを出迎えた。
「今日は何が起こっても不思議じゃないぞ!気を抜くなよ大輔君」
僕はその言葉を背に受けつつ、今日も真っ暗な地下への歩みを進めるのだった。
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