傀儡されるぬいぐるみ

黒片大豆

全ては妹のために。

 魔術師を極めるには、其れ専門の学校に通うことが一番の近道だ。


 俺には妹がいる。それはもう大変可愛く、愛らしく、いとおしい。『立てば芍薬座れば牡丹』の慣用句は、妹のために作られたものだ。異論は認めない。


「おにいちゃんと一緒の学校に通う!」

 そんな妹が進級に際して、俺と同じ魔術学校に行くと言い出した。

 俺は心底喜んだが、いくつかの問題があった。

 まず、妹の魔術素質は、残念ながら平均以下で、入試合格ラインを越えるのは正直厳しかった。

 だが安心してほしい。お兄ちゃんは妹の願いを叶えるべく、採点者の脳みそを事前に細工しておいた。


 無事、妹は入学した。


 妹に悪い虫が付くことも懸念されたが、こちらもお兄ちゃん、数人に『転校』をお願いしておいた。安心してくれ。


 しかし一番大きな問題が残った。妹の成績が芳しくない。入試の無理が祟り、妹は授業についていけなかった。


 俺は全力でサポートした。サポート以外にも、勉強も教えた。妹は他の誰より一生懸命に勉学に励んだ。一番近くで見てた兄が言うのだから間違いない。だが、それはなかなか実らなかった。


 もどかしい日々を送っていた中、転機が訪れる。

 妹が、『傀儡操作』の分野でとんでもない成績を叩き出した。

 魔術の糸を紡ぎ、人形を操る授業において、妹は他の誰よりも上手く、繊細に、精密に、ぬいぐるみを動かした。

 教員は「百年に一度の神童だ!」と絶賛し、また妹本人も「才能が開花した!」と心底喜んでいた。


 両親はむせび泣き、また俺も嬉しかった。


 妹はその後、傀儡操作専門コースを首席で卒業した。当たり前だ。そして妹は、留学の道を選んだ。妹が巣立つ姿を見て、俺も鼻が高い。妹が外国へ出ていく寂しさは、感じなかった。


 妹の操るクマのぬいぐるみは、まるで生き物だと評される。沢山の人に、妹の『奇跡の傀儡』を見て、認められてほしい。今の俺の、切なる願いである。それ以上の喜びなどあり得るだろうか。


 そんなことを思いながら、俺は今日も、ぬいぐるみの背中のファスナーを開け、袖を通すのだった。

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傀儡されるぬいぐるみ 黒片大豆 @kuropenn

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