第13話 邂逅

 俺とエンゲは戦況の移り変わりをハラハラしながら眺めていた。


 どちらが勝ち、どちらが負けてもおかしくない。そんなレベルの攻防だった。


 だが、戦いは意外な形で決着を迎えた。


 螢がカリバを押しきるかのように見えたその時だった。


 突然、乾いた爆発音が鳴り、辺りは煙に包まれた。煙が晴れると、その中心から蒸気を立ち上らせた彼の姿が見えた。


 金髪の少年―――門叶螢のエネルギーが突然感じれなくなった。


 俺はいてもたってもいられず、エンゲに聞く。


「エンゲさん……、あれって……!」


「ああ、まずい……、妖気が……、尽き……、た……、よう……、だ」


「えっ……、それってかなりヤバイんじゃ?」


「ああ……、人間の……、場合……、妖気……、が尽きると……、一定時間……、動けなく……、なる。アイツ……、考え……、なしに……」


「そっ……、そんなぁ!」


 俺達はガックリと項垂れた。希望の星が現れたと思ったら、その希望を細川達に打ち砕かれたのだ。


 もう終わりだ。3人諸共殺される。そう覚悟した瞬間だった。


 また、乾いた爆発音がした。


「え?」


 目を凝らして状況を確認すると、あり得ないことが起こっていた。


 今度は細川とカリバの妖気が尽きたのだ。逆に螢の方を見ると、妖気が回復していた。


 俺とエンゲは訳が分からないとお互いに顔を見合わせた。


 すると、神社の竹藪から二人の影が現れた。どうやら、螢の仲間らしい。


 そして、二人の妖気量が逆転したのは、アディス・トロフィと呼ばれる妖鬼の仕業であることが分かった。


 その後螢が二人をぶっ飛ばし、完全勝利かと思われたが、謎の渦巻きの中に二人は吸い込まれていった。


 逃げたということだろうか。


 螢とその仲間は悔しそうな様子だったが、何はともあれ細川とカリバの脅威から逃れることができて本当に良かったと俺とエンゲは胸を撫で下ろし、心の底から安堵した。




 ◆◇◆◇◆




「改めて自己紹介するぜ、俺は門叶螢もとかないけい。そしてコイツは……」


逆手公麿さかてきみまろっていいます。こっちはええと……妖鬼のアディス・トロフィです」


 公麿に紹介されてアディス・トロフィは俺とエンゲにペコリと頭を下げた。


「って、呑気にしてる場合じゃないな。そこのエンゲっていう妖鬼、早く回復させないとまずい!」


「ああ、私とアディスが対処する。螢はそちらの少年のケアを頼みます!」


「ああ、分かった!」


 俺の元に螢がやってきた。彼の見た目そのものは生前苦手なヤンキーの類いだったが、俺達を助けてくれたのと戦闘の様子を見てもはや憧れの人となっていた。


「大丈夫か?お前、名前は?」


「あっ……、はい……、僕は……、須藤章正すどうあきまさっていいます。危ないところを本当にありがとうございました」


「礼はいいって! でも、お前の名前、どっかで聞いたことがあるようなないような……」


 聞いたことがある? 一体どういう事だろうか。俺は世間に認知される程有名人ではないし、何しろ妖魔という化け物に殺される前まで引きこもりだったのだ。


 そもそも彼らと会ったことなどないし……、と考えていたら公麿が一言、


「もしかして彼……、最近この神社で妖魔に襲われて死亡した近所の高校生なんじゃあ……」


 と言った。それを聞いた螢は思い出したかのように、


「あーーー! そうだ! ニュースになってたあの……!」


 と俺を指差した。その言葉を聞き、俺の脳裏にはいくつかの疑問が浮かぶ。


 え……、俺が死んだことってニュースになってるの? ちょっと待って……、? そんなに時間が経っているのか?もしかして認識にズレがあるのか?俺の考えは堂々巡りするばかりだった。そんな俺を尻目に螢と公麿は別の話題に移っていた。


「え、でもその本人が確かにここにいますよね?」


「あっ、本当だな! えっ!? ということは……」


 螢と公麿はお互いに顔を見合せ、何かを理解したのかゆっくりと俺の方を見て、二人同時に


「「お前はだってこと!?」」


 と叫んだ。


「あっ……、はい……、多分……、そうです」


「「ええええええええーーーーーっ!」」


 衝撃の事実に二人は眼球が飛び出るくらい驚いていた。


 そして、エンゲを治療中だったアディス・トロフィは何かに気付いたのか、ゴニョゴニョと公麿に耳打ちした。それを聞いた公麿はぎょっとし、螢に問い掛ける。


「それに……。エンゲさんっていう妖鬼のオーラも見覚えがないですか?」


「ああっ! この前彗星が落ちてきた時の……、ってことはあの彗星、正体はエンゲだったのか!?」


 二人は口々に物を言う。彗星については俺もさっぱり分からないが、会話の流れから察するに地球に落ちてきたエンゲを皆は彗星と勘違いしたのだろうか。


 俺があれこれ考えていると螢が俺の肩を掴んで揺さぶりながら、


「ちょっと、お前! これまで起こったこと全部話してくれないか! 」


 と言った。


 俺はこれまで起こったことを包み隠さず話した。コンビニから神社に来るまでの経緯、そして頂上に来たら女性の死体があったこと、女性の死体が弾け、中から鯰のような妖魔が出てきたこと。そして気付いたら死んで幽霊となり、エンゲと出会い、謎の組織に所属する細川らに襲われたこと。そして、エンゲは俺を庇ってこんな目に……、あってしまったことを。


 俺の話を聞いた二人は哀れみの表情を浮かべた。


「なるほど……、そんな事が……、大変だったな……。しかし、あの細川って奴……、許せんな。日本妖魔連合とかいったっけ? 物騒な組織があるもんだ」


「霊妖町の妖魔異常発生も、この組織が原因なのでしょうか……、霊妖神社で起こった事件も全部……」


「いや、分からないな。不確定要素が多すぎる。今は後回しだ」


「ですね」


 二人が話しているとアディス・トロフィがエンゲを背負ってこっちに来た。どうやら一命は取り留めたようで安心した。しかし、公麿が言うにはまだ完全ではないようで、


「章正君。エンゲさんの妖気は一時的に回復させましたが、あくまでも応急措置です。詳しくは礼子さんに見てもらう必要がありそうです。」


「礼子さん? 誰ですか一体」


 その問に螢が答える。


「ああ……、神宮寺礼子じんぐうじれいこさんって言って……、とにかく! 滅茶苦茶凄い人なんだ。何でもできる俺達のボスだよ!戦闘とか知識においてあの人に勝てる人は誰もいない! つー訳で今からその人呼ぶわ!」


 え? 今何て? 神宮寺礼子さんって言った? まさか……、エンゲが言ってた……。


 ごちゃごちゃ考えてもしょうがないと思い、勇気を振り絞って聞いてみることにした。


「ちょっと、待ってください! 神宮寺礼子さんっていいました!?」


「ああ……、それがどう…」


 俺の勢いに螢はたじろいだが、俺は負けじと


「俺達もちょうどその人を探してたんです! お願いします!」


 深々と頭を下げた。


「おっ……おおう……。どっちにしろ呼ぶけどな……」


 その言葉を聞いて俺は穴があったら入りたい気分になった。




 ◆◇◆◇◆




 螢が電話をかけてから十分後、遂に邂逅の時がやって来た。


「どうも、君が噂の須藤章正君。それに妖鬼のエンゲだね」


 その人は俺達の前に腰を下ろし、囁くように言った。


「アタシは神宮寺礼子。しがないさ」

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