第14話 入れ替わってる!?

 神宮寺さんを一目見た瞬間、俺は心奪われた。


 絶世の美女だ―――――――――――――


 サラサラとしたストレートの長い黒髪を左サイドで束ねており、右サイドに付いている派手な金装飾の簪が、より一層神宮寺さんの優美さを引き立たせている。


 肌はアルプス源泉から湧き出た水のように透き通っており、顔の輪郭は鋭くて優雅だ。長い睫毛が瑠璃色と琥珀色が混在した瞳を際立たせて、クリリとした眼の主張をより強めている。


 丸眼鏡をかけているがその美貌は全く隠れていない。右耳には簪よりかは控えめな主張をする金色のイヤリングが付いていた。鼻は綺麗な形をしており、滑らかなピンク色の唇の左下には小さなほくろがあった。


 肩まで露出した着物を着ており、美しい首筋と肩幅の色気に当てられる。


 胸の大きさは―――――――――――――


「――――――君! 須藤君! おーい! 須藤君! 聞こえてますかーーっ!?」


 はっ!


 公麿の声が俺を現実に引き戻した。


 いかんいかん、完全に惚けていた。


 あまりにも神宮寺さんの見た目が俺の好みだったため、見とれてしまっていた。


 声を掛けられるまで気付かなかったし、相手に何か勘づかれてなければいいが……。


 そう思っていると螢がニヤニヤした顔をしながら話しかけてきた。


「なんだーー、章正? まさか見とれちまったってか? ったくよぉ、こんなオb…」


「螢、それ以上言ったら……」


 皆まで言う前に、何かを察知したのか神宮寺さんが鬼のような形相を浮かべながら、螢の言葉を静止した。


「はいすみません、申し訳ございませんでした」


 螢はひたすらひたすら平謝りしていた。これではさっきまでの威厳はどこへやら。


「とにかく、君が心配してたエンゲだが……、もう大丈夫だ。私の妖鬼の能力で回復させた。あとは、数日安静にしてれば完治するだろう」


 神宮寺さんが指差す方向にはエンゲが水の玉の中で眠っていた。こちらからすると、水没しているようにしか見えないのだが、不思議とエンゲの妖気が回復しているのを感じている。


 ともかく、俺のせいでエンゲが死ぬことにならなくて本当によかったと心の底から思った。


「ほっ……、本当にありがとうございます!」


「いいんだよ、当然のことをしたまでだ。それで……、君らアタシに何か用があるんだっけ?」


「あっ……、それなんですけど……、僕って言うよりはエンゲが話したいことがあると……」


「おや、そうなのかい? でも今の状態じゃあ話もできなそうだ」


 神宮寺さんの言う通り、エンゲから話を聞くのは難しそうだ。


 カリバと螢の決着が着いたの見届けた後、緊張の糸が切れたのか、エンゲは崩れるように地面に倒れ伏した。一時はどうなることかと思ったが、公麿、アディス・トロフィ、そして神宮寺さん達の尽力によって死は免れたようだ。本当に感謝しかない。


 すると、礼子さんが思いがけないことを言う。


「まぁ、それはエンゲが起きた時に聞くとして……。君もこんな所にいてはまた先刻の賊に襲われてしまうだろう。一旦私の屋敷にて匿おう」


 その言葉を聞いて嬉しかったのだが、俺はとある事情を抱えている。


「あの……、お言葉は嬉しいのですが、僕は行けません」


「どうして?」


 俺の言葉を聞き、神宮寺さんは首を傾げた。


「どうやら僕の魂はこの地に根付いてしまったみたいなんです。地縛霊的な。だからこの神社から出ることができないんです」


「なるほど、それは困った問題だね」


 俺の説明を聞いて納得したのか神宮寺さんは頷いた。そして、腕組みをして悩み始めた。


 助けて貰えたのは嬉しいが、俺はここから離れられない。また、細川みたいな奴に襲われると考えると怖いが、今のところ神社から出る方法がない。頼みの綱だった神宮寺さんも解決策を知らないとなると、いよいよ万策尽きた感じがした。


 俺が溜め息を吐いていると螢が近寄って来て、


「まあまあ、章正そんな落ち込むなって、元気だせよ!」


 螢の手が俺の肩に触れた瞬間、


 ボン!


 乾いた爆発音がした。


「!」


「何ですか? 何が起こったんです!?」


 辺りは等身大の煙に包まれた。


 しばらく待っていると煙は晴れたのだが……、


「う~~ん、一体何だったんでしょう。さっきのは……」


 俺が話した瞬間、神宮寺さんと公麿が仰天したようにこっちを見た。その理由が分からなくて困惑する。


 何だ? さっきの爆発で髪の毛がチリチリになっているのか?


「ん……? 、何か喋り方おかしくない?」


 公麿が聞いた。すると……、


「俺はここだぞ!」


 後ろから螢の声がした。


 まさかと思い、おそるおそる声の方向を見ると、肉体がなく魂だけとなった螢の姿があった。


「え、螢がになってる!?」


 公麿の言葉に俺はぎょっとした。そしておそるおそる自分の身体を確認した。


「まさか……」


 一通り見て確信した……。これはまた信じられないことが起こっている。


「え、じゃあ……、今この螢の体にいるのは……、須藤君?」


「そっ……、そうみたい……、ですね」


「……ということは……」


「もしかして……」


「「須藤君(俺)と螢(門叶さん)……、入れ替わってる!?」」


 公麿と俺は同時に驚いた。


「おい!俺の体返せよ!」


 螢は甲高い声でキーキー怒っていた。魂だけになると、声の高さが変わるのだろうか。


 そんな俺達の様子を見た神宮寺さんはというと……、


「ほほう、魂の入れ替わりか。これまた興味深いことが起こっているね……。じゅるり……」


 神宮寺さんがこの時何故か興奮していたのはまた別の話である。




 ◆◇◆◇◆




「ふぅ……、元に戻れた」


 一時はどうなるかと思ったが、無事俺は幽霊に螢は元の肉体に魂が戻った。


「時間経過で元の体に戻るみたいですね。大体15分といったところでしょうか」


 公麿の冷静な分析力には驚かされる。想定外の事が起こっても全くテンパらない。その対応力を少しでもいいから分けて欲しいくらいだ。


 公麿の考察を聞いた神宮寺さんが不意に口を開く。


「ふぅむ……、もしかしたら章正、神社から出られるようになるかもよ」


「え、ホントですか! 一体どうやって?」


「実際に試してみようか。螢、章正ともう一回入れ替わってみて!」


 一体何を言い出すんだ! そんな感情を孕みつつ俺含め指名された螢も驚いて神宮寺さんを見た。


「えー、またかよぉ? あっ、でもよぉ、さっきのは偶然で今回もできるとは限らねぇんじゃねえか?」


「大丈夫、私の読みが正しければもう一度できる筈だ! それに、ちょっと試したいことがあるんだ」


 主人の頼みを断れる筈もなく、螢はとても嫌そうな表情で、俺の肩に手を置いた。

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