第11話 ヒーローは遅れてやって来る

「ああ……、今度こそ終わりか……、俺の人生」


 全てを諦め、抵抗する気力も、生きる活力も失った。


 命を刈り取る鎌が俺の脳天を貫こうとした、


 その時――――――


「何してんだ、テメェ!」


 どこからともなく、声が聞こえた。


 次の瞬間、黒い影が猛スピードで背後から現れ、カリバの鎌を弾いた。


「!!」


「何ですか、一体何が……!」


 細川達は何が起こったか、分かってないようだ。


 それは俺達も同じで、カリバの鎌を弾いた人物に目を向けた。


「えっ……!」


「まっ……マジかよ……。ありえねぇ!」


 それは紛れもない人間だった。


 不良漫画に出てきそうな、白い特攻服をまとった金髪の少年だ。年は俺とそう変わらないだろうか。


 眼光は鋭く、獲物を捕えようとする虎に似ていた。彼はエンゲとカリバ、細川と同じようにを体に纏わせていた。


 それも十分俺達を驚かしたのだが、一番驚天したのは、武器を持っている訳でもない、己の拳1つで妖鬼の膂力に勝ったというのだ。


「すっ……、すげぇ……」


 その光景は俺に憧憬を抱かせた。


 すると、俺の視線に気付いたのか、金髪の少年が振り返って話しかけてきた。


「大丈夫か、お前らぁ。ケガとかしてねぇよな?」


「あ、はい……。自分は大丈夫なん、ですけど、エンゲが……」


「エンゲ……、ああその妖……って……、ええ!?」


「!?」


 突然大声を出した少年に俺はびっくりした。


「おい、瀕死じゃねえか! これはまずい、あと2時間も持たねぇぞ」


 その言葉を聞いて、エンゲが死ぬかもしれないという疑念は確信に変わった。


「アイツらにやられたのか?」


 少年は怒りを露にして聞く。


「はっ……、はい、そうです!」


 俺の返事を聞いた瞬間、少年は任せろと言わんばかりに細川とカリバに向かって歩みを進めた。




 ◆◇◆◇◆




 細川は眉をひそめ、金髪の少年を睨み付けた。


「何なんですか、あなたは? 私達の邪魔をしないで欲しいのですが……」


「そういう訳にはいかねぇな。この町で無体を働く者は誰一人見逃せねぇ。そういう指令なんでな」


「フン、誰に言われたのか知りませんが、偉大なる我らに楯突こうとは、とんだ不届き者がいたことだ……」


「我ら? 何だお前らそんなに偉いのか?」


「ええ、私は偉大なる日本妖魔連合の一員、細川鎖迄。いずれ七天となり、この国を絶望の淵に叩き落とす男だ」


「嫌な名前に物騒な目的だな。こいつは見過ごす訳にはいかねぇ。今ここで斃す」


 金髪の少年改め――――門叶螢は上着を脱ぎ捨て、拳を握り、ファイティングポーズを取った。


 全身には濃縮された妖気が纏われていた。


 軽くステップし、呼吸を整える。


「やってみろ……、青二才が!」


「青二才じゃねえ、俺は門叶螢だ!」


 細川はカリバに向かって掌を向けた。そして一思いに「ハッ!」と唱えると、掌から水晶玉ぐらいの大きさの妖気が出て、カリバの口の中に一直線に入っていった。


 細川の妖気を取り込んだカリバは体を震わせ、咆哮した。より煩く、野太い声だ。


 みるみるうちにカリバはよりスマートな体躯に変化した。戦闘に特化した、無駄を一切省いた形態だ。


「キシャアアアアアアアア!」


 先に動いたのはカリバだ。


 カリバが奇声を上げながら、鎌を振り上げた。


 そして刃先に妖気をコーティングさせ、螢の頚を刈り取ろうと大鎌を横に薙いだ。


 威力もスピードも先程とは比べ物にならないぐらい、強化されていた。


 螢は刃先が自身の頚を掠めるギリギリのところで体を反らし、攻撃を躱す。


 完全には避けきれなかったのか、顎が少し切れた。


 血が螢の喉元まで垂れたが、彼はその事を意に介さず、体勢を戻す勢いに合わせて用意していた左フックをカリバの顔面に喰らわせた。


「ギエエエエ!」


「何をしているのです! カリバ!」


 よろけたカリバの肩を螢は掴み、腹に膝蹴りを喰らわせた。


「グギャア!」


 螢の追撃の手は止まない。


 カリバから手を離した後、すかさず右拳を握りしめ、アッパーをカリバの顎に突き刺した。


 衝撃がカリバの頭を揺らす。


「ギエエエエエエエエエーーーーー!」


「お返しだ!」


 螢はそう言い、そのままインファイトをお見舞いした。


「アギギャグゲラギャガガリボギャ!」


 乱打につぐ乱打。


 一撃一撃が必殺となり得る拳がカリバのありとあらゆる部位を抉った。


 カリバは反撃することができず、全身にめり込む攻撃をただ受け続けるしかなかった。しかし、細川とてその状況を看過する訳にもいかない。


「ならば……、身体中全ての妖気を防御に回せ! 体表を少しでも固くしろ!」


 この状況の打開策をカリバに提示した。


「キシャアアアアアアアア!」


 カリバは全身の妖気を固め、防御に徹した戦闘スタイルに変えた。


 すると、先程までカリバの体にめり込んでいた螢の打撃が固い防御壁に弾かれた。


「チッ、攻撃の通りが悪くなったな」


 螢は傷つい両拳に目をやった。皮がめくれ、ところどころ内出血を起こしていた。このまま行けば、螢もただではすまないだろう。


「フフフ、経験の差というものですよ。私は戦闘員となって10年。長年の研鑽と経験は若造には崩せやしません。諦めて投降しなさい」


 細川は気色の悪い笑みを浮かべた。勝ったと確信したのだろう。


 だが、


「やだね」


 螢は違った。あくまでも戦闘続行の意思があるようだ。


 そして、螢は全身の妖気を両拳、両足のみに集中させ、凝縮した。


「これで、さっきより威力が出る」


「馬鹿なんですか?防御を捨て全ての妖気を攻撃に回したようだが、無謀だと分からないのか?」


「ああ、無謀さ。だからこれは――――」


 螢はカリバの顔面に回し蹴りを食らわした。


 蹴りは防御を貫いてカリバを吐血させた。


 しかし、螢の足にも大きな痣が出来ていた。


 両者は問題なしと言わんばかりにニヤッと笑みを浮かべる。


「俺とお前の我慢比べだな」


 螢は高らかに告げる。


「ハン、いいでしょう。望むところです!」


 細川もそれを受け入れた。


 こうして、運命の第2ラウンドの火蓋が切って落とされた。

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