ぬいぐるみを魔王から取り戻せ!

秋雨千尋

ミッション・ぬいぐるみ奪還・インポッシブル

「姫の大事なぬいぐるみが魔王に盗まれたのじゃ、勇者よ、ただちに取り戻すのじゃ!」


「はあ……新しいのを買ってあげては?」


「何を言う! あれには特別な魔法がかけてあり、安眠効果MAXなんじゃ。昼寝の時間までに取り戻せ。出来ぬなら死罪じゃ」


「もうやだこの国」




「はあ……母さんの薬代を稼ぐために勇者になったけど、母さん死んじゃったし。もうやめようかな。誰もパーティーに入れてくんないし……」


「ヒャッハー! そこのマヌケ面の人間よ、命が惜しくば泣きわめきながら逃げるがいい!」


「ブタ鼻の魔物か、ちょうど良かった。魔王のとこに案内してくんない?」


「ハッ、世迷言を!」


「ハイ握手」


「ぎゃああああ、あづいいいい!」


「俺の手の平は高温なんだ。この仕事が終わったらパン職人を目指そうかな」


「もう手を離してくださあああい!」




「はあ……魔王城、階段多すぎ。なあ魔王、お姫様から盗んだものを返してくれよ」


「イヤである。我は不眠症なのである」


「ああ、そのぬいぐるみ安眠効果MAXだっけ。じゃあさ、たまにホットミルク作って、眠くなるまで本読んで歌ってやるから」


「な、なんだと?」


「フツーの牛乳も俺が二分も持てばホットミルクになるんだよ。死んだ母さんが不眠だったから子守唄も得意だぜ」


「お主、母親を亡くしたのか、我も同じだ」


「そうか。なあ、友達にならないか」


「良かろう。友情の証として、このぬいぐるみを渡そう」


「ありがとう。じゃあぬいぐるみを王様に渡したら帰ってくるから……ふっわふわじゃん。スゲーいい匂いする……あったかい……」




「ヤベー寝ちまった。夜じゃん。死罪じゃん」


「このまま戻らなければ良い。たまにと言わず、この城で暮らそうぞ。敵は追い払ってくれるわ」


「指パッチンでステンドグラス破壊ってマジか。魔王パネエ」


「勇者としてのお主は死んだ。我の寝かしつけ係を任ずる」


「パン職人も追加で」

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